吉川さんの言い分

「寒いからうちらは中に入るわ。あんたも早よ家に帰り。まあちゃん、さ、入ろ。」
お春ちゃんは、まあばあちゃんに言いました。
「お春ちゃん、お春ちゃんのせいでこんなことになったのに、知らん顔するの?」
「私のせい? なんのこっちゃ?」
お春ちゃんは驚いて振り返りました。
「だって、そうでしょ? あんな、すぐに取り壊す家を紹介して……。知ってたんでしょ? 取り壊すこと……」
「な、……何を言うとんのや……」
「それに、わたし、お春ちゃんに言われなかったら、息子の家も出てないし、居場所がなくなることもなかったわ。」
「そら、すんまへんな。余計なことして。」
「すまないって思うんなら入れてよ。」
「……あ、あ、あんたなぁ~!」
お春ちゃんは怒りのあまり次の言葉が出ないようでした。
「それは、あんたが息子夫婦に年金取られて、お金ない言うから。あんたも次の年金からは自分のために使う言うてたやろ。それまでの仮住まいちゅうことやったやろ……。大家さんかて、あんたの事ぜんぜん知らんから貸すの渋ってたんやで、それを私が中に入って」
「私、頼んでないわ。お春ちゃんが勝手にしたんよ。」
「なんやて~……」
お春ちゃんは開いた口がふさがりませんでした。


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家の中に……

「まあちゃん、まあちゃん、黙ってないで中へ入れてよ。」
吉川さんが哀れそうな声で言いました。
「お豊ちゃんが嫌がってるのに、どうして入れられるの? それにマコちゃんも嫌がってるんでしょ?」
まあばあちゃんの言葉に、
「嫌がられてなんかないわ。きっとお豊ちゃんが私の悪口を吹き込んでるのよ。誤解されてるみたい。」
「でも、この前、お友達として来てくださいって、家政婦の真似事は止めてくださいってマコちゃんに言われたでしょ? 私、一緒に聞いたわ」
「だから、友達として来てるのよ。」
「お豊ちゃんの?」
「そうよ。」
吉川さんはいったい何を言ってるのでしょうか?
吉川さんが朝の散歩に参加してから、吉川さんが苦手なお豊ちゃんは散歩コースを変えたくらいです。なんになぜか突然、訪ねて行って居座って大変だったのに……
 まあばあちゃんも疲れてきましたが根気よく言いました。
「お豊ちゃんは吉川さんに会いたくないって言ってるわよ。」
「もう、こんなところで立ち話もなんだから、入れてよ。冷えてきたわ。まあちゃんも風邪をひくわよ。」
まあばあちゃんは、吉川さんの言いように呆れてしまいました。


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話が通じない

「吉川さん、どないしたん。お豊ちゃん、困ってるで。」
お春ちゃんは吉川さんに言いました。
「どうして? 友達が訪ねて来て何が悪いの?」
吉川さんは、自分が何をしたのか忘れてしまったのでしょうか?
「でも、あんた、働きたいって言いに来たんやろ?」
お春ちゃんが聞くと、
「そうよ。だから、御主人と話したいのよ。」
「マコちゃん、断ったんやろ。ルリちゃんもいるし。心配いらんから……」
「私の説明が分かりにくいみたいで、きちんと話せばわかると思うの。それにあんな若い子に何ができるのよ。」
「ルリちゃんのこと悪ぅに言わんといて。私、あの子、好きやねん。」
「あ、ごめん、言い方が悪かったわ。先生をしていたからか私から見ると,
どうも物足りなくて……」
「あのな、マコちゃんもお豊ちゃんも間に合ってるって言うてるねん。あんた、毎日来てるそうやんか。先生なんやから人の迷惑も考えや。」
「そうよ。毎日来てるのに、入れてもくれないの。ひどいでしょ。お春ちゃん達は入れたのね。なんでよ。なんで、私を入れてくれへんのよ。」
吉川さんは、ぜんぜん話が通じません。


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いつもはどんな?

「えろう吠えてるから、近所迷惑やろ。いつもこんなんか?」
お春ちゃんが心配そうに言うとお豊ちゃんは、
「ううん。いつもは雨用の庭に離してるの。今日は忘れてしまって……」
「あめよう?」
「雨の時、庭に出れないでしょ?」
「あれやな、屋根付きの庭やな。」
「あ、そうそれ」
「そやけど、吉川さん、何言いに来てるん。」
「家が広いから、住み込みで働かせてくれって……」
「ええ! そんなん言うてんの!? 難儀やなぁ……」
「マコちゃんが何度も断ったんだけど、ぜんぜん……それで、もう放っておこうって二人で決めたんよ。」
「そやなぁ~。ええ大人がこんなことで警察呼ばれへんもんな。」
お春ちゃんはため息をつきました。まあばあちゃんもいい案が浮かびません。
「しつこいなぁ。こんな人とは思わなんだわ。」
お春ちゃんはまた、ため息をつきました。
「ごめんね。お春ちゃん。ビックリしたでしょ」
お豊ちゃんが謝ると、
「何言うてんのや。元はと言えば、私が深入りしすぎたからや。ゴメンやで」
お春ちゃんも謝りました。
「ほな、ちょっと行って、もう来んといてって言うてくるわ。」
「お春ちゃん、無駄よ。放っておいたらいつか帰るから……」
お豊ちゃんが止めました。
「そやかて大変やろ。ちょっと行ってくるわ。」


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意外な人

「あ、待って、ここでも見れるの。」
お豊ちゃんはハッとしたように、お春ちゃんに言いました。
モニターに、映っていたのは……
「え? ……吉川さん?」
「なんか言うてるわ。えーっと、どないするんかいな。お豊ちゃん」
「このボタン押すの。」
『まあちゃん、お春ちゃん、そこにいるんでしょ? 入れてよ……』
「な、なんやなんや……」
お春ちゃんとまあばあちゃんは飛び上がりました。
『分かってるのよ。聞こえてるでしょ。返事してよ……』
「うちらのことは見えてんのか?」
「ううん。」
「びっくりした。いきなり名前、呼ぶもんから見えてんのかと思たわ。」
お春ちゃんはホッとしたように言いました。
「……吉川さん、毎日来るのよ。」
「ええ! 毎日?」
――――ワンワン。ウー! ワンワン!!―――
ジロとハッピーちゃんとカイちゃんが怒った様子で吠えています。
ミミちゃんはまあばあちゃんに抱かれて幸せそうに眠っています。
吉川さんは、イラついた様子また呼び出しボタン押し続けていました。


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堺の町のまあばあちゃん

Author:堺の町のまあばあちゃん
堺の町に住む、ひとりのおばあちゃんのお話です。
住み慣れた町の人々との交流や孫のトモちゃんや犬のジロとの生活を通して力強く生きていく姿を物語に書きたいと思います。 
宜しくお願いします。
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