仲良くなって

「それでね。カイちゃん故郷のお家の人が、連れて帰ってあげてくださいって」
「へぇ! でも、そんなに仲悪いと、先生とお豊ちゃんは一緒に散歩できへんなぁ」
恭子ちゃんが心配そうに言うと、
「大丈夫! 帰るころにはみんなで仲良く遊んでたよ。可笑しいね。なんであんなにケンカしてたんやろ。」
「へぇ」
「でも、先生のお父さんの膝に乗ったらすぐに寝ちゃったんよ。可愛かった。」
「膝の上? 子犬なん?」
恭子ちゃんが驚いたように言いました。
「うん。」
「私、てっきり、カイちゃんと同じ年なんかと思ってたわ。ブリーダーさんやってはるの?」
「う~ん。違うみたいと思うけど……。でも、すごく懐いてるし大事にしてくれそうだからって。」
「そう……。ま、先生ところが大変やったら、うちも、もう1匹ぐらい大丈夫やろ。」
恭子ちゃんの言葉に反応するように、ジロが心細そうに見上げました。
「なにを心配そうに見てるの。ジロたん。先生ところはお父さんが体不自由やし、お母さんも体が弱いから、ちょっと気になっただけ。でも、もしかすると、カイ犬ちゃんが来たことで、みんな元気になったりして!」
恭子ちゃんはジロの頭をワシワシと撫でました。


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カイちゃんの故郷の不思議な出来事

「ただいまぁ~!」
トモちゃんが言うと、恭子ちゃんが、
「おかえり! どうだった?」
「楽しかったよ! お母さんも来ればよかったのに。」
「しょうがないやん。今日は工場におらんとアカンねんもん。次は一緒に行くわ。」
恭子ちゃんが残念そうに言いました。
「お春おばあちゃんね。旗つけてるのカッコ悪いばっかり言ってたのに、『あの旗ついてるのうちらの車やな』ばっかり言うの。」
「そやがな。最初はイヤやったけど、意外とええなぁ。」
お春ちゃんが嬉しそうに言いました。
「それからね。カイちゃんね。お母さん犬や兄弟の子と仲が悪いの。」
「へぇ」
「う~。ワンワンワン! ワンワンワン!!ってね。マコちゃん、慌てておかしかった。2度目だから大丈夫と思ってたんだって!」
「ははははは!」
恭子ちゃんはトモちゃんの両手をガオーッとする仕草が可笑しかったのか、噴き出していました。
「それからね、不思議なことがあったよ。カイちゃんの故郷のおうちにはお母さん犬と3匹の兄弟犬がいるんだけど、そのうちの1匹が先生のお父さんにすごく懐いたんよ。先生のお父さんすごく嬉しそうやった。」
「日本犬って初対面の人には愛想悪いんかと思ってた。」
恭子ちゃんが不思議そうに言いました。
「うん。でも、すごいいい感じやったよ。」
「もしかして、先生のお父さんのカイちゃんの生まれ変わりやったりして!」
「お母さんもそう思う?」
「思う思う!」
カイちゃんのふるさとの不思議な出来事に、恭子ちゃんとはトモちゃんはワクワクしました。


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みんな一緒!

カイちゃんの故郷に向けて、いよいよ出発です。
「先頭はマコちゃんで、次がケンちゃんのワンBOXでピアノの先生と先生のご両親が乗るでしょ。その次が邦子おばちゃんたち、最後が私たち。……いいね! 私、こういうピクニック憧れてたの!」
トモちゃんが言いました。
「そうか? わたしは、こないにようさんやったら落ち着かんわ。」
とお春ちゃんが言いました。
「私も……」
と吉川さんも言いました。
「どうして?」
とトもちゃんが不思議そうに聞きました。
「どうしてって、仰々しいやんか。」
「そうかなぁ……。みんな一緒って楽しいよ。それに、おそろいの旗でお出かけしたら、大きなパーキングで別々に駐車しても、みんながどこにいるかすぐ分かって安心だよ。」
そう言って、トモちゃんが前の車に手を振りました。それに気づいた邦ちゃんとひろ子ちゃんが手を振り返してきました。
「ほんまやな。こういうのもええな。なんや、同じ旗つけて暴走族みたいやと思ったけど、ええな!」
そう言って、お春ちゃんも手を振りました。
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暴走族

次の日の日曜日、みんなが、わいわいガヤガヤと、まあばあちゃんの家に集まってきました。
「なんや、えらいどっさりで行くことになったんやな。」
お春ちゃんがびっくりした様子で言いました。
「そうなんよ。夏休みに入ったから、トモちゃんもひろ子も行きたいって。カイちゃんの
話をしてるうちに大勢になってしまって。驚いた? ごめんね。お母さん。」
お弁当を両手に抱えてきた邦ちゃんが楽しそうに答えた
「カイちゃんの生まれたところに行くん?」
ひろ子ちゃんが、お豊ちゃんに聞きました。
「そうよ。この前、カイちゃんの生まれたおうちに行ってみたけど、のどかでいいところよ。近つ飛鳥には天皇様もいらっしゃったことがあるんですって。」
「へえ、お豊おばあちゃんは何でも知ってるんやね。」
ひろ子ちゃんが目を輝かせて言いました。
「カイちゃんのお父さんから聞いたのよ。」
「へぇ! あ、この旗なあに?」
ひろ子ちゃんが車についてる旗を見て、面白そうに言いました。
「ほんまや。なんや暴走族みたいやな。」
お春ちゃんは、不満そうに言いました。


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まあばあちゃんが行きたい

お豊ちゃんは、なんだか切なくなってハッピーちゃんとカイちゃんをギュッと抱きしめました。
お豊ちゃんがあんまりキューっと抱きしめるので、2匹はどうしたのっというように小首を何度もかしげると、お豊ちゃんの腕からすり抜けてしまいました。その後お豊ちゃんの顔をペロペロとなめました。
「お春ちゃんの言うように、カイちゃんが巡り会わせてくれたのかもしれません。」
お豊ちゃんが言いました。
「そうですね。そうかもしれません。」
先生のお父さんもうなずきました。
「ハッピーちゃん、いつも助けてくれてありがとう。カイちゃんもこれからこの年寄りをよろしく頼みます。」
先生のお父さんは、ハッピーちゃんとカイちゃんの頭を撫でました。
「あ! そうや!」
お春ちゃんがパンと手をたたいていいました。
「どうしたの?」
「ほら、お豊ちゃん、あれよ。マコちゃんがこの前言うてたやろ。カイちゃんの生まれたところ連れて行ったるて。」
「ええ。」
「まあちゃんがどんな所やろ言うてえらい気にしてるねん。そやから私も行きとうなって!」
「まあちゃんが、珍しい! 行こう行こう。一緒に行きましょう。」
まあばあちゃんが嬉しそうに笑いました。


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不思議な縁

「そのあと、カイの亡骸を抱いて家に戻りました。泣きながらカイを抱いている私を見て、父に『たかが犬ぐらいで泣くな』と言われたことは今でも忘れられません。カイのことも忘れたことはありません。」
お豊ちゃん達は、じっと先生のお父さんのお話を聞いていました。
「この年になって甲斐犬に会うとは、……それに私のカイによく似ています。一瞬、カイかと思ったほどです。カイが今の私を憐れんでお迎えに来たのかと思いましたよ。」
「お父さん!」
先生が咎めるように言いました。
「あ、すまんすまん。」
お豊ちゃんが思い切ったように言いました。
「あの、わたし、きっとそばで見守っていると思うんです。ね、カイ。」
カイちゃんは、お豊ちゃんを嬉しそうに見上げました。
「私もそない思うわ。なんや不思議な縁や。堺ゆうたかて広いのに、太子の子犬が流れ流れてここに来たんやもんな。」
お春ちゃんが、感慨深げに言いました。


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カイの死

「大切にされてたんですね。カイちゃんは幸せだったでしょうね。」
お豊ちゃんが先生のお父さんに言うと、
「私のカイは、私が上京する日に死にました。私のせいで……」
「え……」
思わぬ答えに、お豊ちゃん達は固まってしまいました。
「私がバカだったのです……。犬が追いかけてきてるぞと、誰かが言いました。わたしは、もしやと思って外を見ると、カイでした。わたしは思わず、カイと叫んでしまったのです。カイは私の声を聞き逃しませんでした。」
「まさか……」
「カイは車輪に巻き込まれてしまいました。私があの時呼ばなければ……そう思うと悔やんでも悔やみきれません。」
先生のお父さんの目には涙が浮かんでいました。
「それで、その子は……」
「わたしは、次の駅で降りてカイを探しました。……カイは見つかりましたが虫の息でした。私が抱きしめると、私の目をじっと見つめて静かに目を閉じました。」
そこまで言うと、先生のお父さんは目がしらを抑えて肩を震わせました。


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先生のお父さんのカイちゃん

「そうだったんですか……。この子は強い子ですね。酷い目にあわされても、澄んだきれいな目をしている。」
先生のお父さんはカイちゃんの頭をなでながら、さらに言いました。
「私も犬が好きで、物心ついたころから我が家には犬がいました。小学生2年の誕生日の日に父がプレゼントしてくれたのが甲斐犬でした。私はその子犬にカイと名付けました。」
「まあ! この子と同じ名前ですね。」
先生のお父さんはうなずいてから、
「それからは、毎日何をするのも一緒でした。兄弟のいなかった私は、学校から帰ると、勉強するのも遊ぶのも寝るのもいつも一緒でした。本当に大好きでした。」
先生のお父さんはそう言って、不自由な体をなんとか動かすと、カイちゃんを抱きしめました。
カイちゃんが切なそうにク~ンと言いました。
「あ、ごめんごめん。ケガしてるのに、痛かったかい?」
と言ってカイちゃんから体を離しました。
カイちゃんは『痛くないよ』というように、先生のお父さんに頭をすり寄せました。
「お前は、今まで辛かった分、これからはみんなの2倍も3倍も幸せにならないとだめだよ。」
と先生のお父さんはカイちゃんに言いました。


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凛としたカイちゃん

次の日の朝、お豊ちゃんがハッピーちゃんとカイちゃんを連れて池にやってきました。
カイちゃんはハッピーちゃんに寄り添ってピンとしっぽを立てています。
キリッとした良い顔立ちです。女の子ですが男の子のように見えます。
「あ! 甲斐犬ですね!」
いつものように柵につかまりながら、一生懸命歩く練習をしている先生のお父さんが足を止めて嬉しそうに言いました。
「あ、ご存じなんですか?」
お豊ちゃんが驚いたように言いました。
「日本古来の犬ですよ。凛とした顔立ち、何事も聞き逃さないぴんと立った耳。なんて素晴らしいんでしょう。」
先生のお父さんはそう言って、片方の手を柵から離すとカイちゃんを撫でました。
「おや。この子どうしたんですか?」
先生のお父さんが、お豊ちゃんに聞きました。
「……そうなんです。この子、辛い目に遭っていたんです。」
お豊ちゃんはカイちゃんを迎えたいきさつを先生のお父さんに話しました。
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カイちゃんの幸せって?

「でも、ま、なんやな。ションボリした情けない顔した犬やと思ってたけど、結構元気やったんやな。」
「お春ちゃん……」
「そやけど、運のない犬やな。道歩いていたら、ようさん人おるのに、よりのよって、あんな暴力じいさんに拾われるやなんてなぁ。可哀そうに……」
「ほんとうに。」
「あー!」
「どうしたの!?」
お春ちゃんが急に大きな声を出したので、まあばあちゃんは驚いて聞きました。
「なんか無性に腹が立ってきたわ。あのじいさんの家に殴り込みに行ってきたろか!」
「お春ちゃん?」
「そやろ? あの犬の体キズだらけやったやんか! 殴った上に殴ってたんやで! 火ぃでもつけてきたろか!」
「何を言うの。お春ちゃん!」
「あ、でも家知らんわ。」
お春ちゃんの気迫で、まあばあちゃんもウッカリしていましたが、誰もおじいさんの家をを知りません。
「でも、知ってたところで、こんなヨロヨロしてたら、マッチ擦ってる間にこけてしまうな。年いってたら復讐にもいかれへんわ。」
お春ちゃんは急にションボリして言いました。
「お春ちゃん、もうそんなことは忘れましょう。今からカイちゃんが幸せに生きていけるようにお豊ちゃんとマコちゃんと一緒に考えましょう。ね。」


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カイちゃんの過去

「なあ、まあちゃん、お豊ちゃんなんて?」
受話器を置いたとたんにお春ちゃんが聞いてきました。
「あの住所は、カイちゃんのおうちだったって。」
「そうかいな。良かったな。帰れたんやな。」
「それがね。お母さん犬や兄弟犬とケンカするから一緒に連れて帰ってきたらしいわ。」
「なんや。お豊ちゃんとこのコとは、うまいこといってたのに。そうかいな。」
「そうなのよ。」
「ほんで? なんで太子のコがこんなところにおるん?」
「2ヵ月の時、車から飛び出してしまったんですって。一生懸命探したけど、見つけられなかったそうよ。」
「へぇ。ほんだらその時やったら、首輪の住所もはっきり見えてたやろに、可愛らしいよって盗んだんやな。」
まあばあちゃんも、そうかもしれないと思いました。
「ほんで、あのコの年は分かったん?」
「ええ、2歳ですって。」
「2歳。6歳違うの?」
「そう、2年前に行方不明になって、その時の首輪を今までしてたのよ。」
「ひどい話やな。」
お春ちゃんは、プンプンしてトウモロコシの皮をビリビリと向きました。


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カイちゃんのとし

次の日の夕方、お豊ちゃんから電話がかかりました。
『まあちゃん、カイちゃんのおうちすぐに分かったわ。』
「そう! 」
『すごい喜んではったわ』
「やっぱり……良かった。」
『2ヶ月くらいの時に、カイちゃんを欲しいっていう人に届ける途中で車から飛び出してしまったんですって。』
「まあ……!」
『2ヶ月でしょ? 必死で探したそうなんだけど、そのまま見つからずじまいだったんですって……』
「じゃあ、あの首輪は、2ヶ月の時のままってことなの!?」
『そうなんよ。』
「なんてひどい! カイちゃんがいなくなったのはいつ頃?」
『2年前だそうよ。』
「2年?」
『そう、先生の年齢と違うでしょ?』
「ええ」
『帰りに先生の所に行ったら、犬種によっても違うし、ひどい苦労してたからやろうって……。今は目も輝いてるし、若いからすぐ回復するって!』
「あら、カイちゃんと帰ってきたの?」
まあばあちゃんが聞くと、
『そう! それがね。カイの兄弟とお母さんに会わせたら、もう親の仇みたいに吠えあうのよ。』
「あら~」
『それで、一緒に帰ってきたの』
お豊ちゃんはおかしそうに笑いました。


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一緒に・・・・・・

「どうですか? ご一緒にいかがですか?」
マコちゃんがカイちゃんの頭をなでながら言いました。
「マコちゃん、今回は私たちは遠慮します。大勢で言ったらカイちゃんのおうちの人がビックリしてしまうと思うの。」
まあばあちゃんが言いました。お春ちゃんも
「ほんまやで。ようさんで行ったら何事かと思われるわ。落ち着いたら連れて行ってもらうことにするわ。」
「そうですか?」
「おおきにおおきに。それより、せっかく冷やしてきたからヨウカン食べよう。」
「切ってきたわよ。」
お豊ちゃんがちょうどヨウカンを切ってきてくれました。
「ありがとありがと。あ、まあちゃん、今日は栗入りかいな。おいしそうやな。」
お春ちゃんが嬉しそうに言いました。
「ほんとに冷たい麦茶とよく合うわ。まあちゃんは、ほんとうに水ようかんが上手よね。」
お豊ちゃんも嬉しそうに言いました。
「ほんとです。私の大好物です。ほら、ハッピー、カイ一口ずつ。……うまいだろ?」
それを見て、ジロとミミちゃんが羨ましそうにしています。
まあばあちゃんもジロとミミちゃんに一口ずつあげました。
甘いものが大好きなミミちゃんは“もっと”と言うようにまあばあちゃんの足をトントンと叩きました。


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居ながらの旅行?

「マコちゃん、カイちゃんの首輪に住所が書いてあったんですって! 太子町ですって。」
お豊ちゃんが、メモをマコちゃんに渡しながら言いました。
「へぇ……、ここからだとすぐですね。明日行ってみますか?」
「え? いいの?」
「はい。首輪に住所を書いてるぐらいだから、カイは大切にされてたんでしょう。まだ、探しているかもしれません。」
マコちゃんは本くらいの板を見せてくれました。
「ほら、近つ飛鳥のそばのようだから、ジロたちも連れてみんなで行きませんか?」
「へえ。ここにこのコおったんか。この地図やと…うちの家どこや?」
お春ちゃんは興味津々です。
「この辺ですね。もう少し大きくすると屋根が見えますよ。」
マコちゃんがすっと指を大きく動かすと、写真が大きくなりました。
「へぇ。ほんまや!」
そして、お豊ちゃんの家の門前の写真が出てきました。さらに画面が動くと、
「あれ? うちらがいつも通ってる道やん! へぇ! こんなん出んの? へぇ! ほんで、首輪の住所はどこですか?」
「ここです。」
「へぇ! あの住所がここですか。まあちゃん。すごいなぁ。居ながらにして旅行してるみたいやな。」
お春ちゃんは、感心したように言いました。


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いい子のカイちゃん

「ああ、やっぱり家の中は気持ちええな!」
お春ちゃんが玄関に入るなりいいました。
まあばあちゃんは、ジロとミミちゃんの足を持参した雑巾で拭いています。それから、
「お豊ちゃん、これ……」
まあばあちゃんが、ボロボロの首輪をお豊ちゃんに手渡しました。
「これは?」
「あのコの首輪よ。これ以上はキレイにならなくて……」
「まあちゃんがあの時はずした?」
「そう、苦しそうだったから、すぐに外したんだけど……、ここを見て」
まあばあちゃんが、指でなぞりました。
「……あ、なんか書いてある。」
「うっすらだけど、字が書いてあるでしょ? 私も目が悪いから、トモちゃんにメモしてもらったの。」
まあばあちゃんがカバンからメモを出しました。
「太子町? ここからずいぶんあるわ。」
「名前も書いてあったみたいなんだけど、擦り切れて読めないのよ。」
そんな話をしていると、マコちゃんが、ハッピーちゃんとあのコを連れて玄関まで出てきました。
「こんにちは。ハッピーちゃん、お顔見に来ました。こんにちは。えーっと……」
まあばあちゃんがお豊ちゃんを見ると、お豊ちゃんはにっこり笑っていいました。
「カイちゃんて名前にしたの。甲斐犬のカイちゃん」
「カイちゃん。こんにちは。仲良くしてね。」
「カイちゃんは、動物の先生にすごく気に入られて、『いい子だいい子だ』って抱っこまでしてくれはったの。生粋の日本犬なんやって。」
「そう!」
「傷もだいぶ治ってるでしょう。早くてビックリしてるんよ。ワンちゃんて早いんかな?」
「早く治ってくれると安心ね。」
「そうなんよ。それに、ハッピーとも相性が良くていつも一緒にいるんよ。」
お豊ちゃんは嬉しそうに言いました。


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開口一番に

「なんや。行ってしもたな。」
お春ちゃんがホッとしたように言いました。
お豊ちゃんの家は大きいので、まず大きな門を通り過ぎて、その横にある小さな門にあるインターフォンを押します。
お春ちゃんが、インターフォンを押しました。
「はーい」
「お豊ちゃん、お春とまあちゃんが来たで~」
「いらっしゃい。すぐに行くわ!」
と返事してから、しばらくして門が開きました。
「お豊ちゃん、あんた大丈夫か!? あの犬、外に放してるんか?」
お春ちゃんが開口一番いいました。
「え?」
「昨日のじいさんが門の前におってんで! なんやしゃべってたで!」
「ええ!」
「うちらを見たら、帰ったけどな。」
「そう……」
「お豊ちゃん、あのコは?」
まあばあちゃんが聞くと、
「家で寝てるわ。この暑さやもん。二人とも入って入って。熱中症になってしまう。ジロちゃんもミミちゃんも放してあげて。」
お豊ちゃんは嬉しそうに言いました。


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門の前で……

「コロやコロや、塩梅してもろてるか? 良かったなぁ。お前……」
杖であのコを叩いていたおじいさんが、大きな声で泣きながら言っています。
門の狭い柵の間に手を入れていつまでも座っています。
「まあちゃん、あんなじいさんに家の前に座り込まれて、お豊ちゃん、難儀してるんと違うか!」
「ええ、でも。あのコのことイジメに来てるわけじゃないみたいよ。」
「そやけど、なんか気味悪いわ。」
「せっかく来たから、お豊ちゃんに様子を聞いてみましょう。」
「そやな。せっかく冷やした水ようかんが、ぬるぅになってしまうしな。」
まあばあちゃんとお春ちゃんは意を決したように、シルバーカーを前に押し出しました。ジロがまあばあちゃんの足を鼻でつんとしました。
まあばあちゃんがジロを見ると、ジロが心配そうにまあばあちゃんを見ています。
昨日のことを思い出したのかもしれません。
まあばあちゃんは、安心させるようにジロに微笑むと、また歩き出しました。
まあばあちゃんたちがお豊ちゃんの家の前まで来ると、おじいさんはまあばあちゃんたちに気づきました。
おじいさんは杖にすがるように立ち上がり、目を合わさないようにヨロヨロとした足取りで立ち去りました。


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あ!  あの影は!

「なぁ、まあちゃん、お豊ちゃんとこへ行ってみいひんか? なんか気になるねん。」
お春ちゃんが、いつになく心配そうな声で言いました。まあばあちゃんも気がかりなことがありました。
「そうね。あのコのことも気になるし。水ようかんもおいしく出来上がったから届けに行きましょう。」
「そやけど、マコちゃんは変わってるよな。確かにまあちゃんのマンジュウやらヨウカンは美味しいけど、一流の料理人さんやのにもっとエエモンたべてるやろになぁ。」
お春ちゃんが不思議そうな顔をして言いました。
シルバーカーを二人でゆっくり押して、お豊ちゃんの家へと歩いていきます。
「あ、なんや。だれかお豊ちゃんの家の前でつくもってるで。」
「あれは……」
まあちゃんの気がかりが当たってしまいました。
「昨日の暴力じいさんや。」
「ええ」
「なんや。あのじいさん、絶対会いに来ぇへんて言うてたん違うんかいな!」
昨日のおじいさんが柵の間に手を入れて、幸せそうな顔でなにやら話しかけています。
まあばあちゃんとお春ちゃんは気が重くなってきました。


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甲斐の国の犬

まあばあちゃんが夕ご飯の支度をしていると、電話が鳴りました。
「まあちゃん、わたし。」
お豊ちゃんでした。
「あのコどうだった?」
まあばあちゃんが聞くと、
「うん。フィラリアにかかってるって、強陽性だって……。」
「まあ……!」
「皮膚病と、おなかにも寄生虫がいるって……」
「そんなに……」
「そうなんよ。でも服薬でいきましょうって。ちゃんと治るみたい。ほかは健康だって。」
「良かったわ。ありがとう。お豊ちゃん。」
「あのコ、女の子だったわ。それに、老犬って程でもなくて、5歳から6歳くらいですって。」
「そう……」
ひどい生活でやつれてしまっていたようです。
「あのコね。甲斐犬っていう立派なワンちゃんらしいわ。」
「へぇ~ カイケン?」
「そう、甲斐犬。甲斐の国の犬なんでって!」
「ああ、山梨の……へぇ……!」
「それで、皮膚病の治療もあるから、シャンプーしてくれはったんやけど、汚れを落しただけでもすごくキレイになったわ。」
お豊ちゃんが嬉しそうに言いました。
「そう!」
「食欲があるから、大丈夫でしょうって。今はハッピーと一緒にほたえてるわ。」
「まあ、フィラリアだったっら、あんまり暴れちゃダメなんじゃ。」
「そうだけど……、来たばかりで、あんまりあれダメこれダメっていうのも……。ハッピーに頼んでるから、加減してくれてるように思うわ。」
「そう……」
まあばあちゃんは、お豊ちゃんの優しい心にジーンとなりました。


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堺の町のまあばあちゃん

Author:堺の町のまあばあちゃん
堺の町に住む、ひとりのおばあちゃんのお話です。
住み慣れた町の人々との交流や孫のトモちゃんや犬のジロとの生活を通して力強く生きていく姿を物語に書きたいと思います。 
宜しくお願いします。
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