FC2ブログ

あやまりごっこ

「恭子ちゃん、ごめんやで。次から次へと迷惑かけて……」
お春ちゃんは、恭子ちゃんの顔を見るなり謝りました。
「私こそゴメンね。偉そうに言うて。」
「ううん。ためになったわ。この年やもん。身の回りのことちゃんとせなアカンのに……」
「ううん。私も言い過ぎたわ。」
「ほんとは、吉川さんの事、私も困っててん。時間がかかるかも知れへんけど、ちゃんとするから待っててな。ごめんやで。恭子ちゃん。」
お春ちゃんと恭子ちゃんは、互いに謝ってばかりいます。
その間に、まあばあちゃんはせっせとサンドイッチを作っています。トモちゃんも手伝っています。ジロとミミちゃんは足元を忙しそうにハタハタと行ったり来たりしてます。
「もう、謝らんといて、お春ちゃんが、世話好きやから始まったことやもん。」
「そやけど、今回は、えらいことになったわ。あんな人初めてや……、ホンマにごめんやで。」
放っておくと、ずっと続きそうです。
「はいはい。謝りごっこはもうおしまい。朝ごはんにしましょ。」
「今日は、サンドイッチやね。お母ちゃんのサンドイッチは最高やね。」
「うん。早く食べよう! 冷めちゃうよ!」
トモちゃんが、にっこり笑って言いました。


スポンサーサイト

おやすみ

「お春ちゃん、私たちも寝ましょう。」
「そやな。ストーブ代ももったいないしな。」
そう言って、お春ちゃんはファンヒータの電源を切りました。
お春ちゃんはお布団に入ってからもなかなか寝付けないらしく、寝返りばかり打っていましたが、そのうちスースーと寝息が聞こえてきました。まあばあちゃんもその寝息に誘われて、いつの間にか眠っていました。
まあばあちゃんもお春ちゃんもいつもの時間に目は覚めたのですが、夕べ眠るのが遅かったせいか頭の芯がキリキリと痛みます。
「まあちゃん、今日は散歩堪忍してもらえへんか。眠とうて目が明かへんわ。」
「そんな時は、眠ったほうがいいわよ。」
まあばあちゃんも、いつもより少し遅く起きることにしました。
お春ちゃんを起こさないようにそっと起きると、朝ごはんの支度をはじめました。
トモちゃんも、休みなので今日はお弁当はいりません。
ジロとミミちゃんは足元で寝ています。
冷蔵庫を開けると、リンゴとトマトとレタスがありました。
まあばあちゃんは、久しぶりに厚焼き玉子のサンドイッチを作ることにしました。
トモちゃんもお父さんも恭子ちゃん、そしてお春ちゃんもおいしい匂いに引き寄せられて、キッチンに集まってきました。


こじれたら……

しょんぼりしているお春ちゃんに、まあばあちゃんは、
「そんなにしょげないで、お春ちゃん。私たちの時代は助け合わないと生きていけない時代だったから、つい自分の出来ることだったらって思ってしまうのよ。」
「それ、それやねん! 物のない時代やったからなぁ。」
「私たちはいい娘に恵まれたけど、もし違っていたらと思うと他人事じゃないもの。だから役に立てたらと思ってしまうのよ。」
「でも、なんか思ってたことと違うような気がするねん。してもろたら、わたしら自分のできる範囲やけど、ちゃーんとお返ししてきたで。まあちゃんかて、そやろ?」
「そうね。自分なりにしてきたつもりよ。」
「吉川さんの家賃も半年も立て替えてるやろ? 私、大家さんから言われてん。ちゃんと返してもろてるかって?」
「なんて答えたの?」
「そのうちなって答えてんけど、ホンマにちゃんとせんとアカンな。」
「…………」
「吉川さんて小学校の先生やって言うてたのに、子どもらにちゃんと教えてきたんやろか? 借りた金は返さんでええとか言うてへんやろな……」
「…………」
「人に塩梅したるときは気持ちええけど、ちょっとこじれたら自分だけやのうて、周りにも迷惑かけるなぁ。」
お春ちゃんはそう言って、冷たくなったお茶を一口、口に含みました。


怒られた

「恭子ちゃん?」
恭子ちゃんが何にも言わないので、まあばあちゃんが恐る恐る声をかけました。
「私、もうあきれ返って物も言えんわ。」
「…………」
「…………」
二人とも黙ってしまいました。
「お春ちゃんは、家を借りたげた上に家賃まで払って、お母ちゃんは毎日毎日ご飯作ったげて。その相手は18万円の年金をもらってると……」
「恭子ちゃん、あんな……」
「何考えてるの。いい年して。お母ちゃんに何かあったら、どうするの? 家賃は邦ちゃんが払って、ご飯は私が作るの?」
まあばあちゃんとお春ちゃんは言葉に詰まりました。
ボケないように編み物したり、寝たきりにならないように散歩をしたり、早いうちから老い支度をしていましたが、吉川さんのことはウッカリしていました。
本当にそうです。
「お父さん、私ら明日も朝早いからもう寝よ!」
そう言うと恭子ちゃんはタタッと二階に上がっていきました。
「お母さん、おやすみなさい。」
お父さんがペコッと頭を下げて言いました。
「お父さん、早く!」

残された二人は、肩を落としてしまいました。
「ホンマやな。恭子ちゃんの言う通りや。もし、いきなり、うちらがポックリ言ったら、邦子と恭子ちゃんに迷惑かかるんやな。」
「うん。」
「ごめんな。まあちゃん。もとはと言えば、私のせいやのに、まあちゃんまで怒られてしもうたな。私ってなんでこうなんやろう……」
お春ちゃんは、しょんぼりして言いました。


今日のお昼に……

「まあちゃん。どないしよう。吉川さんは昭雄さんとは違うなあ。」
恭子ちゃんの言葉がグサリと来たのか、縋るような目でまあばあちゃんに言いました。
「吉川さんも気にしてはったけどね。」
「貯金通帳、新しく作ったんでしょ?」
恭子ちゃんが言うと、
「そ、それがね。新しい通帳も息子さんに管理されてしまったそうで、お金のことは吉川さんも気にしてたわ。」
まあばあちゃんは暗い顔して言いました。
「息子さんのところへ帰ってもらえば?」
恭子ちゃんが言うと、
「そんなんよう言わんわ。おっとろしい嫁さんのところへ帰れって言えるか?」
お春ちゃんが恭子ちゃんの言葉にビックリして言いました。
「吉川さんも苦しんでるのよ。息子さんのところへ帰るの怖いし、お金は返せないしって泣いてたわ。」
まあばあちゃんの言葉に何か引っかかりを感じたのか、恭子ちゃんが、
「それ、いつの話?」
「え? 今日のお昼よ。」
「お昼?」
「ええ、ご飯を届けに行ったとき……」
恭子ちゃんがアングリして言いました。
「未だに、ごはん届けてるの?」
まあばあちゃんは、思わず言い訳しました。
「ちょっと余分に作るだけだもの。大した手間じゃないのよ。」
「…………」
恭子ちゃんは黙ってしまいました。


「あ、そうだ。吉川さんのこと、どうなったん?」
恭子ちゃんが思い出したように言いました。
「え?」
「…………」
まあばあちゃんもお春ちゃんもドキッとしました。
「お春ちゃん、お金返してもらったん?」
恭子ちゃんがお春ちゃんに聞きましたが、
「それがなぁ……」
「どうするの? だいたい18万円も年金あるのにおかしいやんか。早く返してもらわんと!」
「あのな、恭子ちゃん、そんなん言うけどな……、なかなか、息子からお金もらわれへんらしんやわ。」
「もう半年ぐらいたってるんちゃうん? 去年の秋からでしょ?」
「ま、まあそうやな。」
「毎月毎月どんどんたまって、返してもらえなくなるよ。しっかりしないと第2の昭雄さんになるよ!」
「わたしって、なんでこないなるんやろ……」
お春ちゃんはそう言って目に涙をためました。
「お春ちゃん、人が良すぎるよ。かわいそう、かわいそうって言ってる間にどんどん深みはまるよ。」
恭子ちゃんはきっぱり言いました。


お春ちゃんは気合を入れて

「でも、もうこの町にはいないんやから、いいやん。ね?」
と恭子ちゃんが言うと、お春ちゃんは、
「うん。うん。」
と頷きました。
「もう、ぜんぜん関わりのない人なんやから、ここに来ても知らん顔せなアカンよ。そやないと、骨の髄までしゃぶり取られるよ。ガオーッってね。」
恭子ちゃんは、お春ちゃんを襲う真似をしました。
「あったり前や! 恨みこそすれなんでそんなんすんのん。来たら警察よんだる!」
お春ちゃんは鼻息を荒くして言いました。
「その意気よ。邦ちゃんももし来たら、警察を呼ぶって言ってたわ。」
「そうか。わたしも負けへんで!」
「すぐに110番よ!」
「わかってる。110番やな!」
恭子ちゃんとお春ちゃんを見て、まあばあちゃんも気合を入れました。


お春ちゃんはションボリ

「今日はホンマにえろうすんませんでしたなぁ。」
お春ちゃんは、お父さんに丁寧にお礼を言いました。
「大変でしたね。本田さん達心配しておられましたよ。」
お父さんが、優しく答えました。
「えらい迷惑かけて、皆さんに申し訳なく思ってます。どうぞ堪忍してください。」
いつものお春ちゃんらしくありません。恭子ちゃんが、
「なんか、お春ちゃんらしくないよ。気持ち悪いよ。元気出してよ。嫌なことは早く忘れよう。」
お春ちゃんの肩をポンポンと叩いて言いました。
「恭子ちゃん、ありがとう。ほんまに有難う。」
「もうさ、サッパリしよう。家は盗られてしまったけど、あの気持ちの悪い人らとはキッパリ別れられたんやから。」
「うん。うん……でも、あの女は、どないなったん。家、追い出されたんやろ?」
「さあ、よくは分らんけど、昭雄さんからむしり取ってたみたいやって、オッチャンが言ってた。お春ちゃんからもらったお金をせっせとあの女に渡してたんちゃう?」
そう言われて、お春ちゃんはまた、ションボリしました。


寝付けないお春ちゃん

「お春ちゃん、どうしたの?」
夜の11時を回ったというのに、あっちへウロウロこっちへウロウロしているお春ちゃんに、まあばあちゃんは声をかけました。
「うん。なんでもないねんけどな。」
「お茶でも飲む?」
「いや、やめとくは、寝しなに飲むと夜中にトイレばっかり行くから、寝られへんやろ?」
と言いましたが、落ち着くにはお茶が一番だと思い、まあばあちゃんはお茶を入れることにしました。
お春ちゃんをおこたに座らせてお茶を出すと、案の定、嬉しそうに湯呑を手に取りました。
(やっぱりショックだったのね。今日は、大変な一日だったものね。)
湯呑のお茶をジーッと見つめているお春ちゃんは、きっと、これまでのを思い返しているのでしょう。
突然、ジロとミミちゃんが、玄関のほうへ嬉しそうに走っていきました。
―――ガラガラ―――
そして、玄関の開く音がしました。
「ただいま、ただいま」
お父さんの嬉しそうな声がします。
まあばあちゃんが立ち上がる前に、お父さんが中に入ってきました。
「おかえりなさい。」
まあばあちゃんが声をかけると、お父さんは驚いて、
「お義母さん、まだ起きてたんですか? 夜は冷えますよ。」
と言いました。


明日は……

「まあちゃん、今日はホンマに有難うな。」
お春ちゃんは、まあばあちゃんの入れてくれたお茶を見つめながら言いました。
「お春ちゃん……」
まあばあちゃんはかける言葉が見つかりませんでした。
「ごめんやで。まあちゃんにはいろいろ言うてもろてたのにな。まあちゃんの言うたとおりになってしもうたなぁ……。恭子ちゃんにも、なんと言われるやら……」
「わたしも、ああは言ったけど、お春ちゃんの立場だったら、なかなか難しかったと思うわ。」
「……うん……」
お春ちゃんは、頷くと黙ってままになりました。
「お春ちゃん」
「なあんもなくなってしもた。あの家だけが私の財産やったのに……」
「…………」
「でも、あんだけゴテたら、すっきりしたわ。まあちゃんの言うように、笑顔であの家を出れてよかったわ。」
お春ちゃんはサバサバした顔で言いました。
まあばあちゃんが頷くと、
「まあちゃん、桜にはまだ早いけど、梅やったら、まだ残ってるかもしれへん。探しに行こう」
「あ、今なら桃の花じゃない。明日、みんなで行きましょう。」
「うん。」
お春ちゃんはにっこり笑って頷きました。


帰ります……

「まあちゃん、帰るわ……」
お春ちゃんは、ヨットコラショッっと立ち上がりました。
お春ちゃんは、まあばあちゃんの手をそっと握ってきました。まあばあちゃんは強く握り返しました。
「お春ちゃん、これでこの家とは最後なんだから、笑顔で出て行きましよう。」
「うん。そうするわ。こんどはええ人に入ってもらえるようにな。」
「そうよ。この家のためにも笑顔でね。」
「うん。」
お春ちゃんは、少し寂しげに笑いました。そうそう吹っ切れるものではないでしょう。
それでもお春ちゃんはにっこり笑うと、
「みなさま。エライ迷惑かけて、すみませんでした。それでは、帰らせてもらいます。」
お春ちゃんは、涙の跡が残る顔で黒いスーツの人たちに頭を下げて言いました。黒いスーツの人たちも丁寧に頭を下げました。
お春ちゃんとまあばあちゃんは、トボトボと帰ります。オッチャンはその後を歩いています。
お春ちゃんは、決心したように振り向くと、
「あんたさんにもエライ迷惑かけて、ほんまにすみませんでしたな……」
お春ちゃんは頭を下げて謝りました。
もうすぐ春とはいえ、まだ冷たい風が吹き抜けていきました。


ガッカリのお春ちゃん

陽の高いうちから来たのに、もう外は薄暗がりです。弁護士さんとお父さんも帰ってしまいました。
黒いスーツの人も数が少なりました。
お春ちゃんの傍にいるのは、オッチャンとまあばあちゃんだけになりました。
そして、
固まったように動かなくなって、座り込んだままのお春ちゃん。
まあばあちゃんはオッチャンに、
「邦ちゃんが心配するからもう帰って……お春ちゃんには私がついてるから……」
と言いました。すると、お春ちゃんがハッとしたように
「そや、邦子はなんで来ないんや。おかしいやないか。自分とこの家がどこの誰とも分からんもんに盗られたいうのに……」
お春ちゃんは、まだ受け入れられないようです。ここに座っていればこの家が自分に戻ってくると思っているのかもしれません。
「お春ちゃん……!」
オッチャンが暗くなってきたので灯りのスイッチを入れましたが、点きませんでした。
「電気、切られてんのか……」
お春ちゃんは、そのことにさらにガクッと肩を落としました。
「お春ちゃん、帰りましょう。」
「……うん……うん……」
お春ちゃんは、虚ろな表情で頷きました。


まあばあちゃん、どこ行くの?

まあばあちゃんは、くるっと振り向いて帰りかけました。
「まあちゃん、まあちゃん、まあちゃん、どこ行くねん。」
お春ちゃんが、慌ててまあちゃんの手を握りました。
「離してちょうだい。誰がお春ちゃんを大切にしてるかも分からずに、苦しめてばかりで。昭雄さんばっかり大事にして。最後の最後にこれよ。もう、知らないわ。」
お春ちゃん、アワアワして言葉が出ません。
「ウワーン。ウワーン!」
お春ちゃんは、へたりこむと、あたりかまわず泣き始めました。
「こんなひどい目に遭ってるわたしを放っておくなんて、信じられへん~!」
「お春ちゃん。」
「まあちゃんに見捨てられたらどないしたらええんや。ウワーン」
もう、泣いて泣いて大変でした。
「お春ちゃん、もうお暇しましょ。ここはお春ちゃんの家じゃないのよ。」
まあばあちゃんが、お春ちゃんをたたせようと手を添えました。
「なんでや。ここは私が邦子のために、着るものも食べるものも節約して買った家やで。」
「そんなに邦ちゃんが大事なら、どうして、昭雄さんの好き勝手にさせてたの。今更、どうしょうもないわ。」
「ウワーン。ウワーン」
お春ちゃんは、さらに泣き喚きました。


もう、知らない……

「なあ、まあちゃん、……」
「なに……」
「わたし、昭雄さんに何もかんも盗られてしもたってことか? ほんまにこの家、私のものでないんか? いつの間に……そないなったんや。」
お春ちゃんは、首をかしげて言いました。
「いつの間に?  いつの間にってことないでしょ。」
「なんでや。」
「邦ちゃんが追い出されてからも、ずっと面倒見て、引っ越し先の家にも上がらせて、邦ちゃんの家にまであの女の人を上げてたじゃないの!! その事務所に何しに行ったか知らないけど、実印でもなんでも持ち出せるわよ。自業自得よ。可哀そうなのは邦ちゃんよ。」
まあばあちゃんは、もう怒りを隠せませんでした。
「まあちゃん、わたしがこんなにひどい目に遭ってるのにそんなんよう言うわ。」
お春ちゃんは怒りだしました。
「お春ちゃんはひどすぎるわ。大事な娘の邦ちゃんをあんなに苦しめた人たちに、家もお金もみんな上げてしまうなんて!!」
「まあちゃん!」
「邦ちゃんのご主人にも、冷たい態度で、偉そうにして! お春ちゃんが偉そうにできるの!」
「まあちゃん、なんでそんなん言うねん! こういうときは慰めるのが友達やろ。」
お春ちゃんは、顔を真っ赤にして怒りましたが、まあばあちゃんはあんなに感情がたかぶっていたのに、ふっと落ち着くと、
「……わたし、もう帰ります。お春ちゃんなんて付き合いきれない。最低よ。」
「え?」
お春ちゃんは、何を言われたのか分からないようでした。
「もう、私帰ります。」
「え? え? ええ?」


お春ちゃん、どうして……

「そこで、署名や捺印をされましたか?」
お春ちゃんに弁護士さんがたずねました。
「どうやったか……、なんや昭雄さん、困ったことがあって、親の証明がいるとかなんとか……」
お春ちゃんは一生懸命思い出そうとしています。
「お春ちゃん、邦ちゃんは、離婚したんだから、もうお春ちゃんは親じゃないでしょ。」
まあばあちゃんが言うとお春ちゃんは、すまなそうに頭をかきました。
「ごめんな……」
「で、そこで何したの?」
まあばあちゃんは、もう必死です。
「よう分からんねんけど、なんや説明はしてもろたんやけど、よう分からんかってん。」
「なのに、ハンコ押してきたの?」
「…………」
「あの時も眼鏡持ってなかったら、よう分らんかってん。」
「どうして……分からないのに、ハンコ押すの?」
お春ちゃんが情けなくて泣けてきました。


カラの権利書ってなあに?

奥に行くと、マコちゃんの友達の弁護士さんとオッチャンが怖い顔のスーツの男の人と話していました。
「……そうですか……。そういうことでしたら、仕方ありませんね。」
オッチャンのハキハキした声が聞こえてきました。
「な、なんやて……仕方ないって、何がや……」
お春ちゃんの声にみんながこっちを向きました。
「……お母さん。これは空の権利書だそうです。」
「か、から? カラってなんや。カラって……」
「登記情報では、昭雄さんのものになってるそうですわ。」
「なんやて?」
「今日は、役所が休みですから、確認に行けませんけど……」
「何言うてんのや……」
「こちらに写しがあります」
黒いスーツの人が、お春ちゃんに紙を渡しました。
「まあちゃん、私、メガネ忘れて、見えへんのやけど、なんて書いてるのや?」
「私も忘れてきたの……」
二人はショボショボした目で渡された紙を見ました。
「お母さん、昭雄さんと一緒に、権利書や、実印をもってどこかへ出かけたことありますか?」
弁護士さんが、ゆっくりとした口調で聞きました。
「え? どうやったかな?」
「この日付を見ると、去年の春頃ですね。」
「えーー…と……」
お春ちゃんは、なかなか思い出せないようでしたが、まあばあちゃんが、ハッと思い出しました。
「お春ちゃん、去年のお花見の時、事務所みたいなところ連れていかれて、緊張した緊張したって言ってたじゃない。」
「あ! せやせや!」
お春ちゃんは、ポンと手をたたきました。


いざ、家に入ります!

権利書を弁護士さんがペラペラっとめくりました。
「どうですか?」
弁護士さんは、権利書を見ても難しい顔のままでした。
「少し、お借りしますね。」
と言って、家の中に入っていきました。
「まあちゃん、私の家、いったい、どないなってるんやろ……」
お春ちゃんは、蚊の鳴くような声で言いました。
まあばあちゃんは返す言葉が見つかりませんでした。
「それに、あんなに人がおったら、昭雄さんの遺体はどないなってるんやろう。」
「…………」
「こんだけ味方がおったら怖いことあらへん。家に行こか……」
「そうね。行きましょう。」
お春ちゃんはそう言うと、グイグイとシルバーカーを押して行きました。
まあばあちゃんも後に続きました。
家の前まで行くと、黒いスーツの人がお春ちゃんのことを知っているのか、
「どうぞどうぞ、外は寒いので中に入ってください。」
と、優しい口調で中に入れてくれました。
ぞんざいに扱われてるとばかり思っていた、お春ちゃんとまあばちゃんは拍子抜けしました。
お春ちゃんは、昭雄さんの遺体のことが気になるのかキョロキョロしていますが、なかなか聞けないようでした。
「あの、昭雄さんのご遺体は?」
まあばあちゃんが聞くと、黒いスーツの男の人が、
「ご家族の方が、市営の葬儀場に……」
それを聞いて、お春ちゃんとまあばあちゃんはホッとしました。


て、抵当って?

「こんにちは、どうしたの?」
まあばあちゃんは、何事もないような様子でオッチャンたちのところへと行きました。
「ああ、ばあちゃん、来てくれたんか。今から行こうと思ってたんや。」
まあばあちゃんたちに気付いたオッチャンがすぐに寄ってきてくれました。
「あ、お義母さん。あの、少しお願いがあるんですけど……」
オッチャンがお春ちゃんを見て頭を下げながら遠慮がちに言いました。
「なんですか?」
お春ちゃんも緊張気味に答えます。
2人の距離はなかなか縮まりそうにありません。
「なんで、ここにいはるんですか?」
お春ちゃんがオッチャンに尋ねました。
「あ、はい。近所の人から、いろんな人が出入りしてるけど大丈夫かって邦子に電話がありまして……」
「邦子に……」
お春ちゃんは、この近所のひとにのけ者にされてたように感じたのか、ショックを受けてるようでした。
「それでですね。来てみれば、物々しいでっしゃろ。」
トモちゃんのお父さんと弁護士さんも、まあばあちゃんたちのところに来ました。
「お父さん、どうなの?」
まあばあちゃんがお父さん聞きました。
「それが、あの家は抵当に入ってると言って、引かないんですよ。」
「て…、て…。抵当ってなんや! そんなん知らんで!」
お春ちゃんが、ビックリして言いました。
「今、弁護士さんも来てくれたので、話に入る前にお春さんの権利書を見せていただこうと……」
お父さんがすべていう前に、お春ちゃんが
「持ってきた! 持ってます! ここにあります!」
お春ちゃんが、慌ててシルバーカーから権利書の入っているセカンドバッグを取り出しました。



心強い味方

「わかったわ。行きましょう!」
お春ちゃんの言葉に、まあばあちゃんも覚悟を決めました。
「まあちゃん、ごめんやで怖ないか?」
お春ちゃんはまあばあちゃんの顔を覗き込むようにして言いました。
「怖いことなんかないわよ。空から爆弾が雨あられのように降ってくる中を生き延びたんだもの。これぐらい何でもないわよ!」
まあばあちゃんはにっこり笑って言いました。
少し話している間にすぐに着いてしまいました。
黒いスーツの人たちはまだ帰っていません。
表に立ってジッとしている人。
車と家を行き来してる人。
「まあちゃん、なんかキチッとスーツ着てるのに、恐ろしい感じがするなぁ。なんか普通の人と違う感じせぇへんか?」
「そうね。」
まあばあちゃんもいざ目の前にすると、恐ろしく思っていました。
「あら、お春ちゃん、あれは……」
「なんや? あ!」
オッチャンとトモちゃんのお父さん、それにマコちゃんの友達の弁護士さんの姿がありました。
「お春ちゃん! 行こう!」
「うん! まあちゃん!」
2人は元気よくシルバカーを押しました。


お春ちゃんの問題

「なあ、まあちゃん、権利書持って行った方がええやろうか?」
お春ちゃんが、心配そうに言いました。
「どうして?」
「この家は、私のモンや言うて出て行ってもらうのに、権利書見せるのが一番ええんちゃうか? どやろ? なんか恐ろしげな人らが来てるけど、言うことは言わんと!」
お春ちゃんはそう言って、整理タンスから権利書の入っているセカンドバッグを取り出しました。
お春ちゃんは、今から戦場にでも行くような顔をしていました。
まあばあちゃんはいたたまれずに言いました。
「お春ちゃん、これは邦ちゃんや主人に相談してからのほうがいいんじゃない?」
「私が起こした問題や。私が片付ける。そうでないとアカンと思うねん。」
「でも、私たちだけでは難しいんじゃないかと思うの。」
「こっちには、権利書があるから大丈夫や。」
お春ちゃんは自分に言い聞かせるように言いました。
「…………」
「あんな、邦子を辛い目に合わせた前の旦那に、ようさんお金工面してたバカな母親やけど、この問題は私が片付ける。そうでないと邦子にも今の婿さんにも顔向けできへん。」
お春ちゃんは涙を流しながら言いました。


怖いけど

「なあ、まあちゃん、まんじゅう食べたら、もういっぺん家見に行けへんか?」
「そうね。怖い気もするけど、放っておけないもんね。」
そう言って、まあばあちゃんはため息をつきました。
「……そやねん……」
お春ちゃんも心配そうに言いました。
「ジロたちは置いていきましょう……」
まあばあちゃんは、いつもどこへでも連れていくジロとミミちゃんを置いていくことにしました。
「そやな。なんどあった時、この子らおったら走って逃げられへんもんな。」
「…………」
まあばあちゃんがジロたちを置いていくのは、そうではなく、ああいう人たちは、まあばあちゃんたちを怖がらせるために、ジロたちを蹴ったりするのではと恐れたのです。
「ごめんな、君子危うきに近寄らずっていうけど、自分の家にあんな変なおっさん来てたらそうも言うてられへんもんな。」
お春ちゃんも怖いのか、そう言いました。


sidetitleプロフィールsidetitle

堺の町のまあばあちゃん

Author:堺の町のまあばあちゃん
堺の町に住む、ひとりのおばあちゃんのお話です。
住み慣れた町の人々との交流や孫のトモちゃんや犬のジロとの生活を通して力強く生きていく姿を物語に書きたいと思います。 
宜しくお願いします。
良かったらポチお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ 童話・児童小説へ

sidetitleフリーエリアsidetitle
sidetitlePRsidetitle


sidetitle最新記事sidetitle
sidetitle最新コメントsidetitle
sidetitle検索フォームsidetitle
sidetitleカウンターsidetitle
sidetitle天気予報sidetitle

-天気予報コム- -FC2-
sidetitleカテゴリsidetitle
sidetitle月別アーカイブsidetitle
sidetitle最新トラックバックsidetitle
sidetitlePRsidetitle


アフィリエイト・SEO対策



sidetitleRSSリンクの表示sidetitle
sidetitleブロとも申請フォームsidetitle

この人とブロともになる

sidetitleリンクsidetitle
sidetitleQRコードsidetitle
QR