お仕立て承ります

「それで、お好み焼き屋を?」
吉川さんが聞くと、
「いや、お好み焼き屋はやめて、着物の仕立てを始めてん。」
「あら……」
「それがな、家を改装しようと思たら、めちゃくちゃ高かってん。それやったら言うてまあちゃん、自分で木の板に『お着物お仕立て承ります』って書いてな。始めてん。なあ?」
「ええ。」
まあばあちゃんはうなずきました。
「まあちゃんは、和裁の学校の先生をしてたからな。そら、うまいねん。朝から晩まで頑張ってたなぁ。仕事が丁寧でええ人やいうことで、よう流行ってたわ。うちの邦子の花嫁衣装もまあちゃんに仕立ててもろてん。」
「え! 花嫁衣装もできるの? すごいわね。」
「今はもう目が見えないけどね。」
まあばあちゃんは恥ずかしそうに笑いました。
「でも、もうその時分だと、着物を仕立てる人なんて、少ないかったんじゃないの?」
吉川さんが心配そうに言いました。
「はじめは大変だったけど、少しずつね。お春ちゃんが、初めてのお客さんだったの。」
「そやねん。」
「へえ!」
「いやな、わたしも着物なんて、今時なと思っててんけどな。」
「でも、たくさん仕立ててくれたわね。本当に有難かったわ。」
「そやん。恭子ちゃんはやっぱり鬼門やわ。」
「え? 鬼門?」
吉川さんは、また目を丸くしました。


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恭子ちゃん と まあばあちゃん

「え? え? 年金?」
まあばあちゃんが、照れ笑いしました。
「え? どういうこと?」
吉川さんが、聞きました。
「恭子ちゃんは、まあちゃんが、おなかを痛めた子じゃないんよ。」
「えー!」
吉川さんはびっくりして大きな声を出しました。
「そらそうやで。恭子ちゃんは、40やで。まあちゃんが今90やろ? 50歳で子どもは難しいんちゃうか?」
「でも、どうして……施設から?」
「違うねん。そこの公園に来てた子やってん。痩せこけてて、そら汚かったわ。」
「児童虐待?」
「今で言うたら、そうやと思うわ。ほんでな、ある日からパッタリ来なくなってん。まあちゃん、必死で探してなぁ。……ほんで、やっと見つけて自分の子にしてん。」
吉川さんは、真剣な表情でうなずきました。
「死んだ主人が、巡り合わせてくれたように思ったのよ。」
まあばあちゃんが言うと、
「そない言うてたな。あの時、まあちゃんはご主人亡くしたばっかりやったなぁ。そら、ガックリきてたな。みんなから、どこの子か分からん子ほっとき言われてたのになぁ。まあちゃん、必死やったもんなぁ。」
お春ちゃんが、しんみり言いました。


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お好み焼き屋さん

「これ、おいしいね。」
吉川さんが、言いました。
「おいしいやろ? お好み言うたら大阪や。なんといっても粉モンが一番やで! たこ焼きやろ、たい焼きやろ? どれもこれもおいしいで!」
「ほんとに、おいしいね!」
吉川さんは、出来立てのお好みをハフハフしながら食べています。
まあばあちゃんは、お好み焼きを焼きながら、嬉しそうにふたりの話を聞いています。
「まあちゃんはな、若い時分、この家を改造してお好み焼き屋をしようと思ってんな。」
まあばあちゃんは、ニコッと頷きました。
「まあ、それでこんなにおいしいのね。やっぱりプロは違うのね。」
吉川さんは、感心したようにうなずきました。
「やだ、プロだなんて……そんなんじゃないわよ。」
まあばあちゃんは、慌てて言いました。
「え? でも……」
吉川さんは、不思議そうです。
「まあちゃんが、お好み焼き屋しよう思ったんは、子育てのためやんねん。」
吉川さんは、なるほどというように何度もうなずきました。
「まあちゃんも、苦労したのね。」
「そやで、いきなり大きな子どもができて、生活がゴロッと変わってしもたやろ? 年金だけやったら食べていかれへんから、お好み焼き屋やったら、家におれるしな。な、まあちゃん。」
まあばあちゃんは、うなずきました。


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お好み食べよう!

「ごめんね。突然来てしまって……」
吉川さんが、また謝りました。
「ええやんか、今日の昼は、何作ろうかなって考えててん。なあ、まあちゃん。」
「そうよ。3人揃ったから、久しぶりにお好み焼きでも焼きましょうか。」
と、まあちゃんが言いました。
「お好み焼き?」
「おいしいで。あんた、知らんのか? キャベツを細こうに切って、メリコン粉と出汁と卵と混ぜんるねん。鉄板で焼いたらすぐできるで。」
「鉄板があるの?」
吉川さんが目を丸くしました。
「うちにあるのは、ホットプレートだけどね。」
吉川さんは不思議そうな顔をしていました。
「まあええやんか。食べてみたらわかるがな。」
まあばあちゃんが、キャベツを切り始めました。
お春ちゃんは、メリケン粉と卵と出汁を混ぜています。
熱くしておいたホットプレートに、
「さあ、豚肉おくで!」
お春ちゃんが、嬉しそうに言いました。


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吉川さんだった

「まあちゃん、こんにちは。」
吉川さんが、申し訳なさそうに言いました。
「どうしたの?」
まあばあちゃんが聞くと、
「なんだか、雨の音を聞いていたら寂しくなって、まあちゃんとお春ちゃんの顔が見たくなったの。」
「なんや、なんや。ええ年して。」
お春ちゃんが、ヘラヘラと笑いながら言うので、吉川さんはションボリしました。
「こんなに雨が続くと、しんみりしてしまうものよ。」
まあばあちゃんが、吉川さんの手を取って言いました。吉川さんは、ほっとしたように笑いました。
「お昼ごはん、何しよかって言うててん。あんた、なにがええ?」
というお春ちゃんに、まあばあちゃんは、
「まだ、お昼には早いし。久しぶりに、みんなでお茶をしましょう。」
まあばあちゃんが言うと、吉川さんは嬉しそうに笑いました。
「あ、それがええわ。」
とお春ちゃんも笑いながら言いました。


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雨の日の訪問者

「せやけど、よう降るなぁ。」
ここのところ雨続きです。
「本当にね。だけど、洗濯物は部屋の中でも乾いてくれるから助かるわ。」
「まあちゃんは、洗濯モンと掃除の心配ばっかりやな。」
「そりゃそうよ。家事を任されてるんだから。でも、ジロとミミちゃんの散歩にぜんぜん行けないから、かわいそう。」
「そやな。今日も昨日も、雨の合間にチョロッと行っただけやもんな。行った気がせぇへんのと違うか?」
「そうねぇ。雨が止んだら行こうね。もうちょっと辛抱してね。」
まあばあちゃんが優しくジロの頭を撫でました。
「こんな雨の日は、吉川さんも、寂しいやろな。弁当届けるのがやっとやもんな。最近の雨は、急に、土砂降りになるさかい。ぱっと届けてサッサと帰らんと、えらいことになるもんな。」
「そうなのよね。」
まあばあちゃんが、ため息をつきながら言いました。
―――ピンポーン、ピンポーン―――
「宅配かいな。」
お春ちゃんが言いました。
「でも、荷物がくるって聞いてないわ。」
まあばあちゃんが、インタフォンを取るまえに、
「吉川でーす。こんにちはー」
と吉川さんの声がきこえてきました。


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お月様にお祈り

「なあ、まあちゃん、ええお月さんやなぁ。」
「ほんと、ことしは台風が次から次へとくるから、お顔が見れないかなって思ってたけど、良かったわ。」
「わたしもや。そやけど、朝の早うからお月見団子作って、ススキも萩の花も供えて待ってるから、顔出してくれはったで。」
「本当ね。」
まあばあはちゃんは、雲の隙間から見えるお月様を嬉しそうに見ていました。
「まあちゃん、今のうちにお月さんにお願いしときや。せやないと、また、雲の中に隠れてしまうで。」
「そうね。」
まあばあちゃんは、急いでお祈りしました。お春ちゃんもお祈りしました。
「まあちゃん、なんてお祈りしたん?」
「家族みんなが、健康で幸せに暮らせますようにって。」
「まあちゃんは、いつも家族のことばっかりやな。」
「お春ちゃんは、なんてお祈りしたの?」
「私か? 私は、宝くじに当たって、まあちゃんと世界一周旅行ができますように頼んだわ。」
「まあ、お春ちゃん、宝くじ買ったの?」
「まだや。先にお月さんに頼んでから、買うたほうがええと思ってな。これから買うねん。」
「なるほど……。」
お月様が雲に隠れて、フッと暗くなりました。
「見てみ、私らがお祈り済ませるの待っててくれはったんやで。」
「嬉しいわね。じゃあ、トモちゃんたちを呼んで、お月見団子をいただきましょうか。」
「そやな。もう、お月さんも食べてくれはったで。私らも食べよう。」
お春ちゃんは、二カッと笑っていいました。


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みんなで草刈りしたよ

「ばあちゃん、キュウリ持ってきたで!」
オッチャンでした。
「まあ、ありがとう!」
「なあ、あんたか、庭の雑草キレイにしてくれたんは」
おはるちゃんが、オッチャンに尋ねました。
「ああ、あれですか? はい。恭子ちゃんとトモちゃんと ご主人とでやりましてん。今日は月見やいうのに ムードが出んやろと思いまして……」
オッチャンは、カチンコチンになってお春ちゃんに説明しています。
「そうかいな。まあちゃん、虫の声が聴きたい言うて、おいててんな。」
オッチャンは、お春ちゃんの言葉にがっかりした様子で、
「そうですか。すみません。余計な事したでしたか?」
まあばあちゃんは、ひねくれたことを言うお春ちゃんのお尻をギュッとつねったので、お春ちゃんは、
「あ! いた!」
と言いましたが、知らん顔して、オッチャンにお礼を言いました。 
「ありがとう! 帰ってきたら、キレイになっててビックリしてたのよ。神様がしてくれたのかしらって言ってたのよ。ね、お春ちゃん。」
「そない言うてたんは、まあちゃんやで。」
お春ちゃんは、少しそっけないです。
ずいぶん、よくなりましたが、今までひねくれた態度でいたのに、急に変わるのが恥ずかしいのか、なかなか素直に嬉しいと言えないようです。
「ほんとに、キレイにしてくれて、ありがとう。」
「あは、ばあちゃんが喜んでくれると嬉しいな。今晩、月見やろ? うちの分の団子も作ってな。邦ちゃんも楽しみしてるねん。」
「もちろんよ。たくさん作って持って行くわ。」
「ほうか! ばあちゃんの団子は最高や! あ、それからこれ、ススキと萩の花も持ってきたから、おいとくで。」
オッチャンは、そういうとニコニコ顔で帰っていきました。


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お庭がキレイ!

「朝一番の散歩は気持ちええな。」
「そうね。いい風吹いてていいわね。」
朝の散歩の帰り道、涼しくなってきたので、散歩の時間も少し遅くしています。家に着いて、まあばあちゃがカギを開けました。
2人で散歩するようになってから、まあばあちゃんはカギを開ける係、お春ちゃんは扉を開けたり閉めたりします。
お春ちゃんが扉を開けると、まあばあちゃんとジロがゆっくり家の中に入ります。ミミちゃんは、だいたいシルバーカーの中にいます。
「ほな、ドアガールが開けるで。」
と言って、お春ちゃんは扉を開けました。
「ありがとう。」
「あれま! まあちゃん、まあちゃん、見てみ!」
「どうしたの? あら!?」
草ボウボウだった庭が、キレイになっています。
ホウキではいた後もあります。
ツゲや松にはたっぷりと水がまかれ、葉っぱについ水滴が、朝陽にキラキラ輝いていました。
「誰やろ? こんなにキレイにしたのは?」
お春ちゃんが首をかしげました。
まあばあちゃんは、オッチャンかなと思ったけれど、
(勝手に家に入る人ではないし……)
と思い、
「神様かしら?」
と言ってしまいました。すると春ちゃんが、
「神様、掃除なんかしてくれはるやろか?」
と言いました。


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秋の音色

リーン  リリーン
「あ、ほんまや! ええ声してきたな。」
「ね! いいでしょ!」
まあばあちゃんがジロの頭をなでながら言いました。
「ええなぁ。月明りで見る庭はまた違うわ。」
「そうでしょ? それに今年はお春ちゃんと一緒だから、なお楽しいわ。」
「ほな、虫の声は、まあちゃん一人で聞いとったんかいな。」
「なんとなくね。年寄りになると、夜に目が覚めることも多いでしょ? ジロと一緒に聞いてたの。ね、ジロ。」
いつの間にかまあばあちゃんの膝に頭をのせて寝ています。
「あれ、ミミは?」
「ミミちゃんは、ジロのおなか。」
ミミちゃんは、ジロのおなかにコロンと入って寝ています。
「昼間は暑いけど、夜は涼しいからな。くっついてても暑ないわ。」
「ほんと、もうクーラーもいらないもんね。」
「ほな、虫の声を聞きながら、うちらも寝よか。」
「そうしましょ。」
まあばあちゃんとお春ちゃんは、虫が奏でる秋の音楽を楽しみながら眠りにつきました。


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草ひき

「なあ、まあちゃん、朝晩、涼しいなって来たな。」
とお春ちゃんが、縫い物をしているまあばあちゃんに言いました。
「ほんとにね、よく眠れるようになったわね。」
「前栽の雑草、ボウボウやな。朝にでも、草引きしよか?」
夏の間に伸びた庭の草は、好き勝手に生えています。
「そうね、でももう少しこのままにしとこう。」
「え? なんで? 蚊、わくで?」
「でもね、ほら、花をつけてる草もあるでしょ? あれなんか、ピンクで可愛いわ」
「そやけど、雑草は雑草やで?」
「通り道には生えてないんだし。いいんじゃないかしら?」
「そうか?」 
「それにね。夜になると、秋の虫が大合唱するでしょ? きれいな声で……ね?」
「ほな置いとこか?」
お春ちゃんが言うと、まあばあちゃんが嬉しそうに笑いました。


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お春ちゃんみたい

「良かったな。妙ちゃんも腹をくくったみたいやな。そやけど、ひどい目にあったもんやなぁ。」
お春ちゃんが、頭を振りながら言いました。
「ほんと……」
まあばあちゃんも頷きました。
「ホンマ言うたら、一番、息子に頼りたいやろうに……」
「うん。」
「なあ、どない思う? まあちゃん。」
「どうって?」
「あの息子ら、もう来ぇへんと思うか?」
「……う~ん。」
これを口にすると本当になりそうで、まあばあちゃんは言うのを迷いました。しばらく黙っていると、お春ちゃんが、
「私、あの息子はアカンと思うわ。また、来るで。」
「……でも大丈夫よ。妙ちゃん、シッカリしてたもん。まるでお春ちゃんみたいだったわ。」
まあばあちゃんが笑って言うと、
「え? 私みたい?」
お春ちゃんが、目を丸くしました。
「そうよ。こう……胸を張って、“帰ってちょうだい!”って」
「そうか?」
お春ちゃんは、不思議そうな顔をしていました。


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赤トンボ

「そやけど、あんたの息子、3人とも頼りないなぁ」
「そう、そんな風に見える?」
お春ちゃんの言葉に、吉川さんは心配そうに聞きました。
「うん。まあちゃんトコでもうちのトコロでも、もうちょっとしっかりしてるわ。」
「……そう……。」
吉川さんは、小さな声で返事しました。
「あ、そうや! どっか便利の悪いところないか?」
「え?」
「こっちが大家さん、こっちがうちのムコさんやねん。ムコさんには、引っ越しの時に会ってるな。」
「ご挨拶が遅くなって申し訳ありません。」
と吉川さんは大家さんに挨拶しました。オッチャンにも
「あの、いつもお野菜やおいしいもの届けていただいて有難うございます。先日は引っ越し手伝っていただいて有難うございました。家具やお布団までいただいて……、厚かましく使わせていただいてます。」
「いやいや、ばあちゃんたちに頼まれてですわ。そんな気ぃ使わんといてください。」
「有難うございます。」
吉川さんは、何度も頭を下げていました。
あんまりペコペコするので、オッチャンたちが困っていると、吉川さんの肩に赤トンボがとまりました。
「赤トンボやで、まあちゃん。暑い暑い思ってても秋やなぁ」
お春ちゃんが嬉しそうに言いました。


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独りぼっちじゃないよ

「そういうことやから、私の家に勝手に上がらんといてや。」
「……すみません。」
息子の一人が謝りました。
「分かってくれたらええねん。それから、自分を生んでくれた母親や、これからはもうちょい塩梅してもバチ当たらんと思うで。足止めて悪かったな。私の話はこれで終わりや。ほな、さいなら」
お春ちゃんはそう言うと、くるりと吉川さんのほうを向いて言いました。
「晩ごはん持ってきたで!」
「ありがとう。いつもいつも。」
「そんなん、かめへん。作るついでや。せやけどあんたも頑張って言うたなぁ! これで、まだ年金ほしがるようやったら鬼やで。」
「もう、大丈夫よ。ね?」
そう言って吉川さんが、息子たちを見ました。息子たちは、ウンともスンとも言いませんでした。吉川さんは寂しそうに笑って、
「心配しないで、銀行で新しい通帳も作ってもらうわ……」
「そうかそうか。妙ちゃんは、独り立ちする決心したんやな。」
お春ちゃんが、感慨深そうに言いました。
「でも、今までのほうが独りぼっちだったもの。これからは、神様みたいな友達がいるもん。」
と言って、お春ちゃんの手を握りました。
「神様?」
お春ちゃんは目を丸くしました。


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年寄りをいじめないで……

「それと、この間、ここに来たのは誰の嫁はんや?」
とお春ちゃんが聞きました。
「私のです。」
息子の一人が言いました。
「あんたな、あの嫁はん、通帳、取り返さんとあんたに怒られるって言うてたけど、ホンマか?」
「え? ……いや……、別に……」
息子は口ごもりました。
「あの挨拶の出来へん嫁はん、えらい勢いで通帳ひったくって行ったわ! 姑に対する態度と違うで、あんなことを許してるんか?」
「……いやー……」
息子は、小さく言うとお春ちゃんから目をそらしました。
「あんた、嫁はんに妙ちゃんのこと“厄介者、厄介者”って言わせてるらしいな。母親がそんな言われてなんとも思わへんのか!」
「…んー、いやー……」
「妙ちゃんから、みんな取り上げといて、何が厄介者や!」
息子はムッとした様子で黙り込んでしまいました。
「あんた! 嫁はんにキチンと言うといてや。今度、来たら警察に突き出すからな。」
息子たちは行き詰ったような顔をして黙り込んでしまいました。
「そないな怖い顔せんでもええがな。足腰の弱い年寄りをイジメんといてやって頼んでるねん。頼りになるのは、3人もいる息子と違うねん。年金だけやねんで。そやから、こないしてお願いしてるねん。」
お春ちゃんは、ニヤリと笑いました。


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試してみる?

「は?  ……なんでしょうか?」
息子の一人がお春ちゃんの声に驚いた様子で聞きました。
「“何でしょうか”やあらへん。あんた、私らに挨拶もなしかいな。この家、誰が借りてると思ってんの? 私が借りてるんやから気軽に上がらんといて!」
「え? 母のものじゃないんですか?」
「あんたな、バカも休み休み言うてや。月に3千円の小遣いしかないのに、どないして家借りるんや!」
「あ」
息子は、そうか、というような顔をしました。
「今時、子どもでも、もっともらってるわ。あんた、自分の子どもの小遣いのほうが多いんと違うやろな。」
息子の一人はバツの悪そうな顔をしました。
「とにかく、私に断りなしで、一歩たりともこの家に入らんといて! そやないと不法侵入で警察呼ぶで!」
「そんな、大げさな……」
「ほな、試してみたらええがな。」
お春ちゃんの気迫に、息子3人は押されてしまって次の言葉が出ないようでした。


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今度来るときは……

「親子の縁を切るのかと聞いたわね?」
「だって、そうだろ? 親を頼るなって……」
「……わたしは、どこの家に行っても、一緒にご飯を食べたこともない。出かけたこともない。どのお嫁さんもお母さんていう人はいないし。陰でバアサンなんて言われてて、嬉しいと思う? それで親子って言える?」
息子は黙ってしまいました。
「さようなら、次に来るときは年金手帳と通帳を持ってきてね。」
「お母さん。」
「それから、勝手に使った退職金と貯金もおいおい返してください。それでは、長い間お世話になりました。」
いつの間にか吉川さんの口調がお春ちゃんの口調に似ていて、まあばあちゃんは不思議な気持ちになりました。
「はい。さようなら、いつまでも突っ立ってないで帰ってちょうだい。」
息子の一人は、苦虫をかみつぶしたような顔をしました。また一人は、吉川さんをにらみつけていました。もう一人は、深刻そうな顔をして下を向いていました。
息子たちは、もう話を続けても無駄だと思ったのか、まあばあちゃんたちのいる門扉のほうへとゾロゾロと歩き出しました。
まあばあちゃんたちの前を通っても挨拶もしません。
「ちょっと待ちや!」
お春ちゃんが、大きな声で呼び止めました。


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話すことは……

「まあ、あなたの口から『お母さん』なんて言われるのは、何年ぶりかしら?」
呼びかけた息子は、ウッとなんて、次の言葉が出ないようでした。
さっきとは別の息子が、言いました。
「だけど、もう少し話を聞いてくれないかな?」
まあばあちゃんもお春ちゃんもオッチャンも大家さんも、帰るのもおかしいし、話に入るのもおかしいし、その場に立ち尽くしていました。
夕方とはいえ、まだまだ暑いです。日差しが照り付けます。オッチャンと大家さんは、日差し側に立って、なるべくまあばあちゃんとお春ちゃん陽が当たらないようにしました。
「まあちゃん、外は暑いから家の中に入ってお願い!」
「でも……」
「お母さん、今日は帰ってもらったら? 内輪の話なんだし。よその人に聞かれるのは……」
息子の一人が言いました。
「私から、あなたたち3人に話すことは、もうありません。」
「お母さん!」
「それから、親子の縁を切るのかと聞いたわね。」
吉川さんは、そう言って小さくため息をつきました。


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ここで暮らします。

「あんたの晩ごはん持ってきたんや。そしたら、大家さんとウチのんも来て。まだ話が終わらんみたいやから、帰ろか言うててん。」
お春ちゃんが、オッチャンのことを“うちのん”と言いました。まあばあちゃんは、その一言を聞いて、邦ちゃんのほっとする顔が浮かびました。
「もう、3人とも帰ってくれる。お昼からずっと同じ話の繰り返しだけど、私の決心は変わらないから。8月に入った年金持ってきてくれたのかと思ったわ。私はあなたのお嫁さんに通帳とカードを取られたのよ。まさかその年金も使ったんじゃないわよね。」
息子さんたちは黙っていました。
「この年金は、私が一生懸命働いたからもらえるお金なの。私の年金ばっか当てにしないで、あなた達のお嫁さんにも働いてもらいなさい。働きながら子育てすることがどんなに大変か分かるはず。そうすれば、こんなことできないはずよ。そうでしょ?」
3人の息子さんたちは誰も口を開きません。
「もう3か月ごとに、家を渡り歩くのは嫌。月に3千円だけもらって、お嫁さんに邪魔にされて生きていくのは嫌なのよ。私の年金は私が使います。早く持ってきてちょうだい。」
吉川さんはみんなの前で一気に言いました。もう泣いていませんでした。
「これからは、私はここで暮らします。もう頼らないでちょうだい。」
「僕らと縁を切るってこと? お母さん。」
息子の一人が言いました。


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吉川さんが出てきた

「そやろ? 私らも聞いたときはビックリしてん!」
お春ちゃんの声は、だんだん大きくなります。
「お春ちゃん、もう少し小さな声で……!」
まあばあちゃんが、慌てて言いました。
「ああ、そうやった。つい興奮して。」
お春ちゃんが、頭をかきながら言いました。
「あの~、なにか?」
お春ちゃんの大きな声が気になるのか、息子さんの一人がのそっと顔を出しました。
そして、その後ろから吉川さんが慌てたように表に出てきました。
「まあちゃん、お春ちゃん上がって上がって!まあ、大家さんもお春ちゃんの息子さんまで来てくださって! さ! どうぞどうぞ!」
吉川さんが、一生懸命にまあばあちゃんたちに言いました。
「ちょっと、まだ話が……」
と息子さんが言いかけると、吉川さんは遮るように、
「話はもう終わってますから、どうぞ! 上がってください!」
と必死な顔で言いました。


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Author:堺の町のまあばあちゃん
堺の町に住む、ひとりのおばあちゃんのお話です。
住み慣れた町の人々との交流や孫のトモちゃんや犬のジロとの生活を通して力強く生きていく姿を物語に書きたいと思います。 
宜しくお願いします。
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