泣いてる理由

「あら、妙ちゃん、泣いてるの?」
お豊ちゃんが驚いた様子で、吉川さんの背中をなでました。
「どうしたん?」
お豊ちゃんがまた聞きましたが、
吉川さんは、答えず泣いてばかりいます。
「あんた、吉川さんのこと、妙ちゃんて呼んでるんか?」
「うん。いつの間にか……」
「そうか……」
お春ちゃんは、思うところがあるのかそれきり黙っていました。
きっと、身内にひどい仕打ちを受けていたお豊ちゃんとは、どこかしら気持ちが通じるのかもしれません。
吉川さんは、ひとしきり泣いた後、ボーっとしていました。
お豊ちゃんが、ハンカチで吉川さんの涙をぬぐってあげると、手に握らせてあげました。
「大丈夫?」
まあばあちゃんが訪ねると、吉川さんは頷いて、
「辛いときに、側にいて慰めてくれる友達がいるって、こんなに嬉しいことなんだなって思ったら、胸があったかくなって涙が止まらなくなったの。心配させてごめんね。」
それを聞いたお春ちゃんはあきれ顔で、
「なんやな。たらい回しにされて泣いてんのかと思ったら、違うんかいな。あれで泣いたりこれで泣いたり忙しいこっちゃ。」
吉川さんは照れたように微笑みました。まだ目は真っ赤です。
「ま、泣き止んだんやったら、お茶でも飲もう。」
そう言って、お春ちゃんがお茶を入れました。


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お豊ちゃんもお茶に来たよ

―ピンポーン―
とインターフォンが鳴りました。
「あら、誰かしら?」
まあばあちゃんが言うと、お春ちゃんが、
「お豊ちゃんや。ようさんお土産もろたから、一緒にお茶しよう思って電話してん。」
「ああ。」
まあばあちゃんはなるほど言うように頷きました。
「はーい! 今行くで!」
と、お春ちゃんは大きな声で返事して、ヨッコらショッと立ち上がると、迎えに出ました。その間に、まあばあちゃんもパジャマから普段着に着替えました。
「あれ、まあちゃん、着替えたんかいな。ゆっくりしとかなアカンやろ。」
とお春ちゃんが言いました。
「え? まあちゃん、どうかしたの?」
お春ちゃんの言葉に心配したお豊ちゃんが、まあばあちゃんのそばに駆け寄りました。
「ちょっと、朝、調子が悪かったのよ。しっかり寝たからもう元気よ! ほら!」
そう言って、まあばちゃんは腕をブンブン振り回しました。
「あら、ハッピーちゃんは?」
いつも一緒のハッピーちゃんがいません。
「今日は、マコちゃん、家にいるんよ。だから、ハッピーもお留守番。」
お豊ちゃんがそういうと、お春ちゃんが、
「そやねんで。この人いうたら、家すぐそこやのに。車で送ってもらって来たんやで。あんた、歩かんと歩かれへんようになっていくで。」
お春ちゃんの言葉にお豊ちゃんは苦笑いしました。


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因果はめぐる

「でも、こんな年寄りに家を貸してくれるわけないわ。」
吉川さんは心細そうにいいました。
「なに言うてんねん。なんも努力せんうちからウダウダ言うてもしょうがないやろ! 邪魔にされてまでおることないやんか!」
お春ちゃんは力強く言いました。
「ほんまに、聞いてるだけで胸くそ悪うなってくるわ。大の男3人が3人とも、嫁はんに頭上がらんと、自分を生んで大きいしてくれた母親に辛い思いさせて。」
お春ちゃんは怒りに震えています。
「お春ちゃん……」
「そやろ? こんな惨めな思いするために、苦労して育てたんと違うやろ? 親に感謝の言葉のひとつも言われへんのかいな! ほんまに世も末や!」
「たぶん、孫たちが大きくなって自分の部屋を欲しがるようになったからだと思う。」
「そんで邪魔者扱いかいな!」
吉川さんは頷きました。
「そやけどな。自分らがしたことは必ず自分に戻ってくるで! アンタにしたのと同じように今度は自分らが自分の子どもに放り出される日が来るで! 『因果は巡る』や!」


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家を出たら?

吉川さんは、セキを切ったように涙がとまりません。
まあばあちゃんに出来ることは、震える背中をただ擦るだけでした。
独りぼっちの淋しさが、まあばあちゃんの胸に伝わってきます。
「ほんで、息子は母親をたらいまわしにして、ほったらかしかいな。」
お春ちゃんが、腹立たしそうに言いました。
「3人とも、お嫁さんの言いなりで……、この頃は、私がいなかったらいいのにってそんな話ばっかり……! 聞いてるだけで死にたくなってくるわ。」
お春ちゃんは、それを聞いて言いました。
「あんた、学校の先生やってたんやろ?」
「え? ええ。」
「ほんだら、私らより、ようさん年金あるやろ?」
吉川さんは、面食らったようにお春ちゃんを見ました。
「もう、そんな家出て、年金で一人暮らししたらええやんか!」
「え?」
「え!」
吉川さんとまあばあちゃんは、ビックリして、お春ちゃんの顔をまじまじ見ました。


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私の居場所

「吉川さんこそ、大丈夫?」
「え?」
吉川さんはドキッとしたような顔になりました。
「こんなこと聞いていいのかどうか……」
「まあちゃん、どうしてそんな風に聞くの?」
「間違ってたらごめんなさいね。何か大きな悩みを抱えてるんじゃないかと思って……」
まあばあちゃんは、そこまで言ってから、
「ごめんなさいね。変なこと言って。忘れてね。」
と、言いました。
「ううん。まあちゃん、そのとおりよ。」
吉川さんは辛そうに笑いながら言いました。
「私ね。息子が3人いるの。長男夫婦と暮らしてたんだけど、主人に死なれてから、長男のお嫁さんが、自分だけ私の面倒は見るのはおかしいって言いだして……」
「面倒って、あんた、まだまだシッカリしてるやんか!」
お春ちゃんが憤慨して言いました。吉川さんはかすかに笑いました。
「……それからは、3人の息子の家を転々としていたの。愛媛と神戸とここ。わたし、愛媛を出るなんて考えたことなかったら……」
「情けない息子やな。嫁はんの言いなりかいな。追い出した長男の嫁って、元はと言えばアンタら夫婦の家に来たわけやろ。」
「え? ええ、そうなの。長男の勤めてた会社が倒産して、一緒に暮らすことになったんだけど……」
「ええ! そうなんかいな。それやったら、アンタ、もっと頑張らなアカンやんか!」
お春ちゃんは、自分に重ねているのか、我がことのように怒りました。
「そんなこと言うけど、主人が死んだら、私の居場所なんかどこにも無かったわ。」
吉川さんは、顔を覆って泣き出しました。


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愛媛のお土産

「あら、まあちゃん、どこか悪いの?」
吉川が心配そうに尋ねました。
「たいしたことないのよ。ちょっとフラフラするから横になってただけなの。」
「そう、大丈夫?」
「大丈夫よ。それで、今日は家の事みんなお春ちゃんに任せきりで。奥様みたいにここで寝てたの。」
「お医者様には行ったの?」
「ううん。いつものことだから。寝てれば治る、なまくら病なの。だから、心配しないでね。」
吉川さんは心配そうにまあばあちゃんを見つめています。
「それより、こんなにたくさんお土産もらっていいの?」
「私ね、愛媛生まれの愛媛育ちでしょ。まあちゃんに愛媛のおいしいもの食べてもらいたくて、あれこれ選んでたらこんなになってしまって……」
「ありがとう。」
「あ、体調の悪い時は私にも言ってね。まだまだ家事くらいはできるから。」
まあばあちゃんは、明るく振る舞っていてもどこか淋しそうな吉川さんが気にかかりました。


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吉川さんがきたよ

「まあちゃん。これ見てみ、この人、お土産ようさん持ってきてくれはったんやで。」
お春ちゃんが嬉しそうに言いました。
「えらい達筆な……、えーっと」
お春ちゃんが、お菓子の包装紙の名前が読めなくて首をかしげています。
「それ、家の近所の和菓子屋さんなの。栗饅頭がとってもおいしいの。それで、食べてもらいたいなって思って。」
「へえ! 嬉しいわぁ。」
お春ちゃんが、目を輝かせました。
「甘いものお好きでしょ?」
吉川さんが、まあばあちゃんに言いました。
「ええ、大好きよ。ありがとう。うちはみんな甘いもの大好きなの。」「良かった。」
「あ、私、お茶入れてくるわ。ちょっと待っててや。」
お春ちゃんが、キッチンに行きかけました。
「あ、私も……」
吉川さんが言うと、
「あんたは座ってて。まあちゃんの話し相手になったって。」
と、お春ちゃんは吉川さんを座らせました。
「すぐ入れるから、待っとってや。」
お春ちゃんは、いそいそとお茶を入れに行きました。



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インターフォンがなったよ

まあばあちゃんとお春ちゃんが楽しそうに話をしていると、
―――ピンポーン―――
とインターフォンがなりました。
「誰や、こんなややこしい時に訪ねてくるのは。」
お春ちゃんは、ヨッコラショっと立ち上がりました。
しばらくすると、表の方から、お春ちゃんの声が聞こえてきました。
「あんた、どないしたん? しばらく見ぃひんかったから病気でもしたんちゃうかと心配してたんやで。」
「ちょっと、四国の息子のところに帰ってたの。これ、お土産、お口にあえばいいんだけど……」
吉川さんが来たようです。まあばちゃんも挨拶しようと立ち上がりましたが、少しフラッとしたのでやめました。それに、寝間着姿のままです。
「人前に出る格好じゃないわね。」
とまあばあちゃんは独り言を言いました。すると、
「まあ、ここで立ち話もなんやから、入って入って!」
と言う、お春ちゃんの声が聞こえてきました。


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お春ちゃんは、忙しい

「今日は、まあちゃん、急にフラフラするって言うから、ビックリしたわ。」
お春ちゃんが、自分で入れたお茶を飲みながら言いました。
「ビックリさせてごめんね。」
「そんなんエエねんけど、それより、まあちゃんは、洗濯やら掃除やらいうて毎日一人でやってたんやなぁ。すごいわ。」
お春ちゃんが感心したように言いました。
「どうしたのよ。急に……」
「これからは、私も一緒にするからな。今までごめんやで。」
「何言ってるのよ。お春ちゃんは、自分の好きなことやればいいのよ。私は洗濯や掃除をするのが好きなのよ。」
まあばあちゃんが言うと、お春ちゃんは
「やっぱり、まあちゃんはエライわ。」
「何言ってるの。あ、お春ちゃん、ジロたちを散歩に連れていてくれたのね。ありがとう。」
「そやねん、この犬、まあちゃんがシンドイ言うのに、散歩散歩いうて離れへんねん。そやのに、公園についたら、まあちゃんが心配みたいですぐに帰る言うてな。ややこしいこっちゃ。」
「あら。」
「それにな。会う人会う人、みな、まあちゃんどないしたんですかって聞くから、ちゃんと説明しなアカンやろ? 忙しいこっちゃ。」
お春ちゃんは、嬉しそうに言いました。


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お春ちゃんの家事

まあばあちゃんが、洗濯物を干しているお春ちゃんに声をかけました。
「お春ちゃん、ひとりで大丈夫?」
「あ! アンタ、寝とかなあかんで! これ干したら、おかゆ作るから、それまで寝とき!」
お春ちゃんが、怒ったように言いました。
まあばあちゃんは、まだ疲れがとれないのか、素直に寝にいきました。

「まあちゃん、おかゆできたで~。食べよう。」
お昼ごろ、お春ちゃんが食べ頃に覚ましたおかゆをテーブルに並べました。
「ありがとう。いただきます。」
「はー疲れたわ。まあちゃん、まだ、掃除できてないねん。ごめんやで。」
「何言ってるの。本当にありがとう。しっかり寝させてもらって、シャキッとしてきたわ。」
「そうか。そら良かった。」
「ジロたちのお散歩、どうだった?」
「ちゃあんと行ったで! 今日は、いつもより遅かったのに、いつもの顔に全部会ったわ。」
お春ちゃんは、おいしそうにお茶を飲みながら言いました。
「そうなのよ。不思議でしょ。早く行っても会うし遅くなったらなったで会うの。約束してないのにね。」
まあばあちゃんも嬉しそうに笑いました。


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私がいるから心配ない!

「おはよう。どないしたん? まあちゃん」
早起きのまあばあちゃんが一番最後に起きてきました。どうも様子が変です。
「なんだかフラフラするの。」
「おばあちゃん、大丈夫?」
トモ子ちゃんが、心配そうに言いました。
「ちょっと、お水を飲んで、休むわね。お弁当、パンにしてね。ゴメンね。」
「お母ちゃん、早く寝たほうがいいよ。最近、夏みたいに暑かったり急に涼しかったりするから、うちらも体がシャキッとせんもん。今日、わたし、家にいるわ。」
と恭子ちゃんも言いました。
「私も学校、休む。」
トモちゃんが言うと、
「何言ってるの。寝てれば治るわよ。」
まあばあちゃんが、小さく首を振って言いました。
「じゃあ、行く前に、ジロたちの散歩行ってくる。」
トモちゃんが言うと、お春ちゃんが
「ちょっとアンタら、わたしのこと忘れてへんか?」
「え?」
恭子ちゃんもトモちゃんもキョトンとしています。
「わたしが、いるねんから、心配せんと行っといで! 散歩も洗濯も、ちゃあんとしとくから。」
「でも……」
「さあ、行った行った!」
お春ちゃんがみんなを送り出しました。


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お春ちゃんが思ってたより?

「あ、今日のお茶は松露やな。手作りちゃうん?」
お春ちゃんが目を輝かせて言いました。
「吉川さんに頂いたの。」
「四国から来はった人やな。」
「そうよ。」
「うまいこと出来てるな。外はカリッとなかシトっとしておいしいわ。」
「ほんと。」
まあばあちゃんがお茶を入れながら返事しました。
「子どもって面白いな。」
お春ちゃんが、松露を頬張りながら楽しそうに言いました。
「そない思わへんか? ヒロ子をイジメた女の子がきとったやろ。」
「ええ」
「憎らしいて、ギュッとにらんどってんけど。しばらく見てたら、ヒロ子と手ぇつないで、楽しそうに走り回ってるんやもんな。ヒロ子も嬉しそうにしてたしな。あのキララいう子も根は悪い子違うんやな。わたしにも“おばあちゃんおばあちゃん”言うてなついてくれたわ。」
「良かったわね。」
「そやねん。ヒロ子にも友達が出来たし。ホッとするわ。」
お春ちゃんはそう言ってお茶をすすりました。
「そやけど、いちばん感心したんは、邦子の婿さんや。子どもにえらい人気あるねんな。私が思ってたより、ええ人なんかな。」
お春ちゃんはお湯呑をのぞき込みながら言いました。


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オッチャンはビックリ

子ども達がお昼を食べにお家に帰ったあと、オッチャンは感心したように言いました。
「いやー。まいったわ。今の子らはよう頭回るなぁ。」
「ほんとね。」
「ようあんだけ質問出てくるなあ。ビックリするわ。」
まあばあちゃんも頷きました。
「わし、昔話、なんでもフンフンいうて信じてたわ。なんも不思議に思わんかったけどなぁ。」
「私たちの子どものころは街灯もなくて夜は真っ暗だったし、神隠しや妖怪のことホントに信じてたものね。」
「そやなぁ。神隠しの話は怖かったわ。」
「ほんとね。」
「わし、結局、子どもらに何が言いたかったんやったけ?」
「お母さんの言うこと聞いて早く寝なさいって。」
「おお。そうや。言いそびれたわ。」
「大丈夫よ。あの子たち、今夜はいい子にするわよ。」
「そうかな?」
「そうよ。」
まあばあちゃんはにっこり笑って言いました。


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Author:堺の町のまあばあちゃん
堺の町に住む、ひとりのおばあちゃんのお話です。
住み慣れた町の人々との交流や孫のトモちゃんや犬のジロとの生活を通して力強く生きていく姿を物語に書きたいと思います。 
宜しくお願いします。
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