休憩


「そろそろ一服しませんか?」
とコナン君のお母さんが、お茶とお菓子を持って来てくれました。
「わぁ、ありがとう!」
まあばあちゃんが嬉しそうに言いました。
「ああ、久しぶりに針もったら肩こったわ。」
とお春ちゃんが、肩をポンポンと叩きながら言いました。
「あんた、お花ちゃんのんばっかり見てて、いくらも進んでへんやないの。」
と、お豊ちゃんが、呆れたように言いました。
「さ、甘い物どうぞ。」
と、コナン君のお母さんが、お菓子をテーブルに置きました。
「あら!」
と、まあばあちゃん。
「まあ!」
と、お豊ちゃん。
「おやま!」
と、お春ちゃん。
「美味しそうでしょ? 近所の奥さんがうちの母がお友達と集まると話したら、作ってくれたんです。」
ひろ子ちゃんが届けに行くと言っていたシュークリームとおはぎでした。
「これ、小学生の女の子が持って来てれたんちゃうん?」
お春ちゃんが聞きました。
「ええ。可愛い子でしょ。コナンともお友達なんですよ。さっ、とっても美味しいんですよ。召し上がれ!」
コナン君のお母さんが、お菓子を持って来てくれた女の子の事を言ったのはそれだけでした。
(邦ちゃんとお春ちゃんが親子って、コナン君のお母さん知らなかったかしら?)
まあばあちゃんは不思議に思いましたが、もう少し時間が経ってからお春ちゃんに話したいと思っていたので、良かったと思いました。
まあばあちゃんは、おはぎのお皿を手に取りました。
頬張ると、
とっても甘くて、それでいてあっさりしていて優しい味でした。

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もう一匹のミィちゃん


「うまいなぁ。お花ちゃん、紺地に白い糸を通すだけで、こないな模様がいっぱい出来るんやあなぁ。」
と、お春ちゃんが感心して言いました。
「そうなのよ。組み合わせを変えるといろいろな模様ができるんよ。」
「わたしはこういうのどうも下手やわぁ。でも、お花ちゃん、教え方上手いわ。」
とお春ちゃんが、言いました。
「ほんま? ありがとう。あら、まあちゃん、キレイねェ。ミシンみたいに縫い目が揃てるわ。」
とお花ちゃんが目を丸くして言いました。
「そら、まあちゃんは、若い頃お針子さんやったんやもん。」
とお春ちゃんが答えました。
「そう、うまいわぁ。」
始めのうちは、こんな風に会話していましたが、そのうちみんな刺し子に集中して無言になって、せっせと針を進めていました。
そのうちに、お春ちゃんがふと気づきました。
「お花ちゃん、刺し子してへんやん。 あれ? これミィか?」
「そうなんよ。なんか気になって、ごめんね。」
「いやぁ。よう似てるわ。ありがとう! へぇ……。なんや、いろんな縫い方があるんやなぁ。これ、なんていうの?」
「これは、サテンステッチ。」
「こっちは?」
「これはチェーンステッチ」
「へぇ。」
見ている間に、どんどんミィちゃんらしくなっていきます。
ミィちゃんも気になるのか、お春ちゃんと一緒にお花ちゃんの手元に見惚れているようでした。

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大事にされれば嬉しいよ



コナン君がコナン君の刺繍の座布団にノシノシと座りました。
「あら、それ、コナン君の座布団なん? 自分のやって分かってるんや。かわいいなぁ。」
お豊ちゃんが感心したように言いました。
「そうなんよ。お母さんが作った座布団、気に入ってずっと座ってるわ。あら、ジロちゃん達は?」
コナン君のお母さんが、聞きました。
「お庭に待ってもらってるんよ。」
お豊ちゃんが答えました。
「そんなんこの暑いのに、熱中症で死んでしまうわ。ここに入れてたって!これ、あの子らの座布団なんよ。」
お花ちゃんが、慌てたように言いました。
「ええ! これ犬の座布団なんかいな! へー!」
お春ちゃんが、素っ頓狂な声を上げてました。
「ありがとう、涼しいとこ入れてもらえて喜ぶわ。」
と、お豊ちゃん。
「連れてくるわね。ありがとう。」
と、まあばあちゃん。
二人は、いつも持ってる足ふきのタオルで、それぞれの足を拭きました。それから、クビに巻いてきた保冷剤をはずしました。保冷剤を付けていても外は暑かったらしく、ハアハア言いながら、クーラーの効いた涼しい部屋に入ってきました。
コナン君はピョーンとジロにじゃれつきました。
「なんや、笑ってるような顔してるな。幸せそうな顔してるわ。犬も大事にされてのが分かるんかいな。」
お春ちゃんが、不思議そうに言いました。
「分かりますよ。私や母が元気なかったりすると、側から離れようとしないし、この子達はあげた愛情の100パーセント以上で返してくれます。無垢ですもんね。」
と、コナン君のお母さんがコナン君の頭を撫でながら言いました。

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もうすこしだけ秘密に……


「あら、あの子もう帰ってきたわ! 元気やなぁ!」
お豊ちゃんが、言いました。
「あら。ほんと、早いなぁ!」
お春ちゃんもビックリしています。
「おばあちゃーん!」
「ひろ子ちゃん、もうご用事すんだの?」
「すんだよ!」
「ひろ子ちゃん、お母さんは?」
「お母ちゃんはね、お昼ご飯作ってるよ。お父ちゃんが帰ってきたから、一緒にオツカイ行こうってお父ちゃんが言ったんやけど、ひろ子、一人でオツカイできるよって、出てきたんよ!」
「そうだったの……」
まあばあちゃんは邦ちゃんが、この暑さでまいってしまったのかと心配しましたが、そうではなかったようです。そうですね。これからが夏本番だし、ひろ子ちゃんのいる邦ちゃんがくたびれるわけにはいきませんね。
「お母ちゃんね、たっくさんシュークリームを作って、おはぎもあるよ! お母ちゃんのおはぎは、おばあちゃんに教わったから美味しいよ! それをお母ちゃんのお友達の家に持って行ったの!」
「そう」
まあばあちゃんは優しく微笑んで、ひろ子ちゃんの頭を撫でました。
「あ! お母ちゃんだ! おばあちゃん、ばいばーい!」
振り返ると、ひろ子ちゃんを迎えに来た邦ちゃんが、まあばあちゃん達に頭を下げていました。ひろ子ちゃんは、元気よく走って行きました。お春ちゃんは邦ちゃんに気付きません。この前もそうでしたが、依然と違って生き生きしている邦ちゃん。お春ちゃんは変わりすぎて分からないようなのです。
「せや、あんた、アメちゃん、あげるって言うてたのに、また忘れたなぁ。」
「なに言うてんの?」
「なにって、あの子、ミィちゃんを捕まえてくれた子やんか……」
お豊ちゃんが呆れたように言いました。
「ええ! そうか? 服、違ったで。さっきの子はピンクや。今の子は白いの着てたやんか……。へー、そうかいな……」
お春ちゃんは不思議そうに頭を振りました。
「あんた、服、変えただけで分かれへんのかいな。せやわな……」
そこまで言うと、ハッとして話を止めました。お豊ちゃんもさっきの女の子のお母さんが邦ちゃんであるということは、まだ言わないほうがいいと思っているようでした。
「お春ちゃん、お花ちゃんところに行きましょうよ。」
と、まあばあちゃんが言いました。

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ひろ子ちゃん と おつかい


「まあ! それどうしたの?」
ひろ子ちゃんは、大きな紙袋を持っていました。小さなひろ子ちゃんは、引きずるようにして歩いています。
「お母ちゃんに、おつかい頼まれたの!」
ひろ子ちゃんは嬉しそうに言いました。まあばあちゃんは、
「重いでしょ? こっちにいっらっしゃい。ここに乗せなさい。ね!」
とシルバーカーを指さして言いましたが、
「ううん。大丈夫! 近くなんよ! 行ってきます!」
と言うと、ひろ子ちゃんは紐を肩に掛けて走って行ってしまいました。
「なんや。今時の母親は、あんなちぃさい子どもに、ついて行かへんのかいな。あんな大きなモン持たして。」
お春ちゃんです。
「ううん。そんなことないんよ。いつも一緒に歩いてる仲のいい親子なんよ。」
まあばあちゃんが慌てて言いました。
「せやかて。今、一人で歩いてるがな。」
「それは……、お母さん、体調崩してるのかしら……。一人で使いに出すなんて……」
まあばあちゃんが心配そうに言いました。邦ちゃんの様子を見に行きたい気持ちになりましたが、ひろ子ちゃんの元気な様子を見ていると、邦ちゃんが病気になったというわけでもないようです。
(お春ちゃんもいるし、話がややこしくなってもいけないし……。)
まあばあちゃんは、迷いました。
「まあ、行ってしもうたし、しゃあないな。荷物、持ったりたかったけど、足がついていかへんしなぁ。」
お春ちゃんも手伝ってあげたかったようです。
「……そうね。」
まあばあちゃんも同じ気持ちだったので、少しションボリしています。
「そろそろ、うちらもお花ちゃんトコに行こうか。遅うなってしもたから、待ってるで。」
お春ちゃんの言葉を合図に、3人は歩き始めました。
(明日にでも、邦ちゃんに会いに行こう……)
と、まあばあちゃんは思いました。

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ひろ子ちゃんは可愛い子


「さっきの女の子、可愛らしい子やったなぁ。ピンクのTシャツがよう似合ってたわ。」
と、お春ちゃんは、ミィちゃんの頭を撫でながら言いました。さっきまで走り回っていたせいか、今はお春ちゃんの胸の中でクークー眠っています。
「人の気も知らんと、幸せそうに寝てるわ。」
お春ちゃんが呆れ顔で言いました。
「ふふ、可愛いわね。」
まあばあちゃんが、ミィちゃんの寝顔見て微笑みました。
「せやけど、あの子、ネコちゃんが大好きなんやね。ミィちゃんも吸い込まれるようにあの女の子の胸におさまって……」
お豊ちゃんが感心したように言いました。
「まあちゃんの知り合いか? あの子、まあちゃんに抱きついとったなぁ。」
お春ちゃんが尋ねてきました。
「ええ、春ごろは子ども達が登校する頃に散歩してたから、その時に知り合ったの。動物はみんな大好きなんよ。」
「今度、あの子に会ったら、アメちゃんあげよ。さっきはうっかり忘れてしもうたわ。」
まあばあちゃんは、ひろ子ちゃんが邦ちゃん達の養女だという事を伏せました。いつかは分かる事ですが、今は言うべきではないと思いました。
お春ちゃんは、思ったことをすぐに口に出してしまうので、ひろ子ちゃんに心ない事を言ってしまうのではないかと怖かったのです。
ひろ子ちゃんを中心に幸せに暮らしている邦ちゃん。やっと得た平穏な生活に波風立てたくないと思いました。
「おばあちゃ~ん!」
元気よくまあばあちゃんを呼ぶ声がします。
「!」
ひろ子ちゃんでした。

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ひろ子ちゃん と お友達


「おばあちゃん、この子、探してたの?」
ひろ子ちゃんは、お春ちゃんが大事そうに抱いているチぃちゃんを見て言いました。
「そうよ。一人で走って行ってしまって……。ひろ子ちゃんがいてくれて、本当に助かったわ。」
ひろ子ちゃんは、えへへと嬉しそうに笑いました。
「ひろ子ちゃん、お昼ゴハンは今から?」
「うん。帰ったら食べるの。お母さんが、今日は暑いから、そうめん食べようねって! お父ちゃんもお昼食べに帰ってくるの。おばあちゃんは?」
「おばあちゃんは、お昼ゴハンはもうすんで、今から、お友達に刺し子を教えてもらいに行くの。」
「さしこ?」
ひろ子ちゃんが首をかしげました。もう一人の女の子は動物が怖いらしく、離れたとこに立っていました。
「そうよ。木綿の布に、太めの糸で模様を作るの。とっても綺麗よ。おばあちゃんが、覚えたら、ひろ子ちゃんにも教えてあげるわね。」
「わーい。ひろ子、嬉しいな!」
ひろ子ちゃんは、ぴょんぴょんスキップしました。そして、
「ひろ子が覚えたら、ゆいちゃんにも教えてあげるね。」
と言うと、ゆいちゃんと手を繋いで走って行きました。

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ミィちゃんを抱いてた女の子


やっとのことで、三人が次の角を曲がると、ミィちゃんとジロちゃんが待っていました。
「はぁ、やれやれ、どんだイタズラッ子やな。」
お春ちゃんが、胸をなでおろしました。
ところが、まあばあちゃん達の姿を確認すると、ミィちゃんもジロちゃんも走って行ってしまったのです。
これには、まあばあちゃんもアングリしました。
いつも、まあばあちゃんの足の調子を気にしてくれたジロ、倒れた時は寄り添ってくれたジロ、大急ぎで知らせに来てくれたとトモちゃんから聞いた時は涙がこぼれました。
そのジロが……
「あら、向こうから、小さい子どもが来るわ。」
お豊ちゃんが、声を上げました。
女の子二人のようです。ジロは途中で止まりました。ミィちゃんはそのまま走ります。
「ちょっと!あんたら、そのネコつかまえて~!」
お春ちゃんが叫びました。
一人はミィちゃんを怖がって、しゃがみ込みました。もう一人の女の子は両手を広げて、ミィちゃんを呼んでいるようです。ミィちゃんは、その子の胸に飛び込みました。ミィちゃんは、女の子の顔をペロペロ舐めると、女の子はくすぐったがっていました。
(あら、あの子)
近くまで来ると、まあばあちゃんはミィちゃんを抱いている女の子が誰だかすぐに気づきました。
「あんた! ありがとうさん! その子、うちのネコやねん! 捕まえてくれて、おおきにな!」
女の子は、お春ちゃんの所へ走ってきて、
「はい。」
と言って、ミィちゃんを渡しました。ミィちゃんはお春ちゃんの胸に頭を預けると、ゴロゴロと喉を鳴らしました。
「いやぁ。助かったわ。ほんまに、おおきに。おおきに。」
お春ちゃんの声が大きいせいか、女の子は緊張してカチンコチンです。お春ちゃんがお礼を言うたびに、お人形のようにペコペコと頭を下げていました。
「こんにちは。」
まあばあちゃんが声を掛けると、女の子はパッとまあばあちゃんを見上げました。
女の子の顔がパァッと明るくなりました。
「おばあちゃん!」
そう言うと、キュッと抱きつきました。
ミィちゃんを抱いていた女子は、ひろ子ちゃんだったのです。

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ジロちゃん、頼むよ!


「とにかく、追いかけよう!」
3人のおばあさんは、一生懸命走りました。息はゼイゼイ、心臓もバクバクしています。でも、傍目には走ってるようには見えません。
ミィちゃんはどこにも見えません。
「あかん、……もう、走られ……へんわ……」
お豊ちゃんが、膝に手をついて止まってしまいました。
「……どないしよう。……えらいこっちゃ。ミィが行ってしもうた。ないしよう……」
お春ちゃんが、ガックリと肩を落としました。急に老けたように見えました。
「お母さんのニオイがしたんやろか……」
お豊ちゃんが、言いました。

ジロがリードを離してと、まあばちゃんに目で訴えます。ホントはいけないのですが、ジロならミィちゃんを連れ戻してくれるかもしれないと思い、まあばあちゃんは、リードを離しました。
リードを離すと、まあばあちゃんはジロの顔を両手で包んで、
「ジロ、お願いね。ミィちゃんを見つけてね。」
ジロは、ターッと次の角まで走って行きました。そこで、いったん立ち止まると、まあばあちゃん達を振り返り、右に曲がって行きました。
「ミィのにおいを追ってるんやろか。」
お春ちゃんの目に光が戻りました。
「そうよ。ジロは頼りになるから。きっと、見つかるわ。」
「ジロちゃん、頼むよ。ミィちゃんおらんようになったら、お春ちゃん、ショックでボケてしまうわ。」
お豊ちゃんが、手を合わせて祈りました。

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ミィちゃんが逃げた。


あの後はケンカもなく、和やかな散歩になりました。そして、お昼ご飯を食べた後、お花ちゃんの家で刺し子を習うことになりました。
「やっぱり昼から出ると暑いなぁ」
お春ちゃんが暑そうに汗を拭きました。
「娘さん、刺し子、教えてもらう話、お花ちゃんに聞いてたんやな。お揃いで出来るように用意してくれてたんやなぁ。」
「そうやな。お花ちゃんの娘さんは、優しいわ。ホンマにええ娘や。」
お春ちゃんは、今度は邦ちゃんの事を言いませんでした。お春ちゃんは話を続けます。
「完成したら、お花ちゃんと4人で、おそろいの巾着、持とうな。楽しみやわぁ」
「ほんまや。ちょっと、目ェも、疎なってるけど、頑張って作ろな。」
お豊ちゃんが嬉しそうに言いました。
「まあちゃん、私、不器用やから、もし、よう作らんかったら、私のも作ってな。」
と、お春ちゃん。
「また! アンタはすぐそれやから……」
お豊ちゃんは呆れ顔です。
「でもな、まあちゃんはお針子さんやったから。ものすごい上手いんやで。なぁ、まあちゃん。」
「もう、今は駄目よ。」
「そんな事ないわ。トモちゃんが小学生の頃なんか、可愛らしい布かばん持たせてたやんか。まあちゃんが手を入れるとヤッパリどっか違うわ。」
お春ちゃんは褒めちぎります。
「せやけど、刺し子の用意、みんなしてくれてるやなんて。なんか気ィ使わしてしもたかなあ。……私も一応、買っといてんけど……。なぁ、ハッピー」
と、お豊ちゃんはハッピーちゃんの頭を撫でました。
「なんやな、私らに聞いてたんと違うんかいな。」
お春ちゃんがもっけな顔をして言いました。ミィちゃんが、つぶらな瞳でお春ちゃんを見ています。
「ミィは、いっつも私のこと気にかけてくれて、可愛いわぁ。」
と言って、お春ちゃんはミィちゃんを撫でました。ミィちゃんはお散歩の時、いつもシルバーカーの中でおとなしくしています。
それからしばらくして、ミィちゃんは、ひょいっとシルバーカーから飛び降りました。
「ミィ、どないしたんや! どこへ行くんや。」
ミィちゃんは、お春ちゃんの呼びかけには答えず、走って行ってしまいました。

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お花ちゃんの散歩初日


(どうしましょう。また始まってしまったわ。お花ちゃんも最初の散歩がこれじゃ、明日から来るかしら……)
と、まあばあちゃんは、ガッカリしました。お豊ちゃんの気持ちも分かるし、朝から怒られて、ムッとしたお春ちゃんも応戦しています。コナン君のお母さんはオロオロしています。
(困ったわ。)
まあばあちゃんも、かける言葉が見つからず、悩んでいると、
「はははは、あははは。」
と、お花ちゃんが笑い出しました。
お豊ちゃんもお春ちゃんも、ビックリしてケンカを止めてしまいました。
「お花ちゃん、何がオカシイの?」
お春ちゃんが、目を丸くして言いました。
「う~ん。なんでやろ。話の中身はなんやよう分からんけど、二人見てたら、なんか可笑しゅうなってきて、あんたら、仲ええなぁ。」
お花ちゃんは、まだ可笑しいらしく、笑いをこらえて言いました。
「どこが可笑しいんか、さっぱりわからんわ。なぁ、お豊ちゃん。」
「そやねぇ。うちら、真剣にケンカしてるねんで。お春ちゃんの言うこと聞いてたら、腹立って来て……」
「なによ!」
また、お春ちゃんがカッとなりました。
「なんちゅうか。言葉の掛け合いが気持ちええわ。」
お花ちゃんが、ニカッと笑いました。
「なんか、ケンカしてんのアホラシなってきたわ。散歩行こうか。」
と、お春ちゃんが言いました。ミィちゃんがシルバーカーから顔を出しました。
「そやね。みんな、うちらのケンカで待たせてごめんやで。行こか。」
お豊ちゃんが言いました。
その声をきっかけに、ハッピーちゃんが一歩踏み出しました。ジロとミミちゃんも続きます。
お春ちゃんとお豊ちゃんが、急にケンカを止めて歩き出したので、キョトンとしているお花ちゃんにコナン君がチョンと足を掛けました。お花ちゃんが頭を撫でると、コナン君は“行こうよ”と言うように歩き始めました。お花ちゃんとコナン君のお母さんも続きます。

朝の散歩が始まりました。

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親孝行な娘


「おはようさん、一緒に来たん?」
お春ちゃんが声を掛けました。お春ちゃんの仕草でお花ちゃんは、二人の事に気付いて振り返りました。
「あら、もう大丈夫やって言うたのに……」
お花ちゃんが、コナン君のお母さんに言いました。
「いゃな、お花ちゃん、いてるかなと思って、お花ちゃんの家に行ったら、もう出かけた言うから、娘さんも一緒に行こうって誘ってん。あんた、足、達者やなぁ。」
と、お豊ちゃんが言い訳しました。
「来てくれたん?」
お花ちゃんの顔がパッと明るくなりました。
「せやねん。一緒に行こう思ってな。」
「ほんまぁ。ごめんなぁ。先に出てしもて。」
「そんなん気にせんといて。約束してへんのに行ってんから……」
とお豊ちゃんがニッコリして言いました。
「フフフ。私は分かってるで。」
とお春ちゃんが急に笑い出しました。
「な、なによ。」
お豊ちゃんがドギマギしています。お春ちゃんが、
「ほんまは娘さん、心配してついてきてたんやろ?」
お春ちゃんが、にんまり笑って言いました。
「そうなん?」
お花ちゃんが、少しがっかりしたように言いました。
「違うわよ。ホンマに私が連れてきたんよ!」
とお豊ちゃんが、強く言いました。
「まあ、ええやんか。お花ちゃんは、ええ娘さんを持ってて幸せやで。私の娘なんか出て行ったまま、顔も見せへん。ホンマに親不孝な娘を持ってしもうたわ。ご近所に恥ずかしいわ。」
しばし沈黙になりましたが、口を開いたのはお豊ちゃんでした。
「恥ずかしいのはアンタや。邦ちゃんのどこが恥ずかしいの! 邦ちゃんを家に帰られへんようにしたのは、アンタやで! アンタ、家、返してもらえる言うてたのに、なにグズグズしてんの。早く取り返して、邦ちゃんを安心さしたりや!」

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やっぱり心配


コナンちゃんのお母さんを説得して、お花ちゃんは今日からみんなと朝の散歩に行きます。お花ちゃんは、張り切って朝早く起きると、髪をとかして薄っすらお化粧しました。とっても楽しそうです。
「コナン、静かにしてね。お母さんを起しちゃだめよ。」
お花ちゃんは、口に人差し指を当てて話しています。コナン君もいつもはバタバタして忙しく駆け回るのに、今日は静かにしています。しばらくしてから、玄関に鍵をかける音がしました。コナン君のお母さんはすでに起きていました。
昨日、お豊ちゃんがお花ちゃんに、
「家に迎えに行くわね。」
と言うと、お花ちゃんは、
「大丈夫やで! 公園で待ち合わせしよう。な! な!」
と言って聞かないので、お花ちゃんは一人で公園に行くことになりました。とは言え、お花ちゃんを一人で出すのを心配して、
「その頃に、迎えに行くわね」
とお豊ちゃんが、コナン君のお母さんに言ってくれたのに、お花ちゃんは、だいぶん早めに家を出てしまいました。
“母が家を出てしまいましたので、先に公園で待っています。”
と書いた手紙を、門扉にキュッと巻きつけて、お花ちゃんに気付かれないように距離を置いてついて行きました。
前を行くお花ちゃんは、楽しそうにコナン君に話しかけながら、しっかり歩いて行きます。
「待って~。待って~。」
振り向くと、お豊ちゃんがハッピーちゃんと一緒に走ってきました。
「あっ、お早うございます。すみません、母が、もう出てしまったので……」
「ううん。ううん。いいのよ。お手紙ありがとう。」
お豊ちゃんが手をヒラヒラさせて言いました。
「それにしても、お花ちゃんは、足がしっかりしてて羨ましいわ。追いつかれへんわ。」
「じゃあ、私は帰りますね。」
「なんでよ。一緒に散歩しよ。昨日、あんなん言うたんわ。あんまり気負ってたらお花ちゃんもアンタも気力が続かんよって言いたかってん。行こう行こう!」
コナン君のお母さんは、
「はい!」
と嬉しそうに返事しました。

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今から行く道


「コナンちゃんのお母さん、心配も分かるけど、自分の足で歩ける間は歩かせたげたほうがいいよ。そのうち足がアカンようになったら、それこそ、ちょっとそこまでも行かれへんねんから。自分の身の回りの事、ある程度できるって有難い事やで。」
とお豊ちゃんが立ち止まって言いました。
「でも、どこへ行ってしまうか分からない母を探すのは、どれだけ大変か……。こればっかりは経験した者でないと分からないと思います。寝る前には家中カギをかけているんですが、お菓子袋も満足に開けられないのに、鍵を開けて、いつのまにか外に出ているんです。気が休まる時がありません……」
お母さんを引き取った時はとても嬉しそうだったのに、今のコナン君のお母さんは疲れ切っていました。
「兄夫婦に、疎外された生活の母を見ているのが辛くて、無理矢理に引き取って、これからは母子でのんびりと思ってたのも、つかの間……」
そう言ったきり、コナン君のお母さんは黙ってしまいました。下を向いて背中を丸めて歩いている姿は、疲労の濃さがうかがえます。
コナン君のお母さんのお母さんを見ると、お春ちゃんと嬉しそうに話しています。仲間に入れてもらいたいくらい楽しそうです。
「もし、お花ちゃんがまた一人でお出かけしてしもたら、みんなで探そう。年寄りは時間だけは、たっぷりあるからね。それにね、どっかで聞いたんやけど、友達とたくさん笑うと、頭にエエらしいよ。」
と、お豊ちゃんが元気づけました。
「でも、こんなに良くしてもらってるのに、迷惑をおかけするかもしれないと思うと……」
「うちらも刺激があった方がボケんでええし、それに、私らも行く道やから……」
とお豊ちゃんが、ニカッと笑いました。
「え?」
コナン君のお母さんが意味が分からず首をかしげました。
「子ども叱るな来た道じゃ、年より笑うな行く道じゃ、ってね。まあちゃん。」
まあばあちゃんも頷きました。
「年寄りは足から来るからね、毎日、お散歩してるんよね。」
お豊ちゃんが付け加えました。
「そうよ。だから、コナン君のお母さんも気楽に構えないと、倒れてしまうわよ。道は長いんだから」
まあばあちゃんが、コナン君のお母さんの手を握って言いました。

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お花ちゃんの車イス


しばらく公園で休んでから、帰り道につきました。
お花ちゃんは、先頭を歩いています。足はしっかりしているのです。
続いて、お豊ちゃんとお春ちゃんが並んで、最後にコナン君のお母さんとまあばあちゃんの順で、いつの間にか歩いていました。
「あんまり心配し過ぎも良くないわよ。お花ちゃん、ずっとお家にこもっているんでしょ?」
「…………」
コナン君のお母さんは、目を伏せました。
「コナン君の散歩も出来るんだし、しっかりしてるわよ。もし、迷ってもコナン君が連れて帰ってくれるんじゃないかしら? ね! コナン君!」
コナン君を見ると、“僕にまかせて!”と言うように、オッポをキュッと上げて、コナン君のお母さんを見上げていました。
「そうよ。大丈夫よ。」
お豊ちゃんが振り返って言いました。ハッピーちゃんはお豊ちゃんの歩調に上手に合わせて歩くので、お豊ちゃんはとっても自由に歩けます。
「お花ちゃん、初めて会った時、車イスだったでしょ? 私、歩かれへんのかなと思って、気の毒に思ってたん。私らかて、明日は我が身やん? こけて骨でも折ったりしたら、寝たきりコースやんか……。そやから、車いすに乗ってる理由を聞いた時はビックリしたわ。」
まあばあちゃんは、小さく頷きました。

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見えない苦労


まあばあちゃん達がお花ちゃんとお話ししていると、コナン君のお母さんが走ってきました。コナン君も一緒です。休んだり走ったり、ハーハーゼーゼーいって、苦しそうです。
「すみま…せん……。母が……ご迷惑おかけして……。」
一所懸命走って来たらしく、ヒィーヒィーと喉の奥から苦しそうな息が聞こえます。
「ここまで、走ってきたの?」
コナン君のお母さんが、肩で息をしながら頷きました。
「お母……さん、帰……ろう……。」
「うん、ごめんやで……。」
「ちょっと、休んでいこうよ。ここベンチもあるし。こんな朝早いんやから時間はいけるやろ? 10分ぐらい座っとき。」
お豊ちゃんが、コナン君のお母さんを気遣って言いました。
「ええ、でも……」
「お花ちゃん、どないしたん?」
お春ちゃんが、お花ちゃんに声を掛けました。
お花ちゃんは、聞こえないのか返事をせずに何やらソワソワと、公園の端の方へと歩いて行きました。
「ちょっと、行ってくるわ。」
お豊ちゃんが、シルバーカーを押していきました。
「私も行くわ。」
お春ちゃんもついて行きました。
それを見て、コナン君のお母さんも慌てて立ち上がりました。
「まあ、あなたは、休憩していきない。二人がついてるんだから、大丈夫よ。お友達なんだから。」
「でも……」
「もっと、気楽にしないと持たないわよ。心配なのは分かるけど、お花ちゃんをもう少し自由にしてあげたら?」
お花ちゃんは、花壇のところで、しゃがみました。お春ちゃん達と楽しそうにしゃべっています。それ見て、コナン君のお母さんは、安心したように座りました。
「でも、昨日みたいにフラッといなくなったら、もうこれで、3度目なんです。今回みたいに一晩越すなんてことは、初めてですけど……」
コナン君のお母さんは、とても疲れているようでした。お母さんを長男夫婦から引き取ったのはいいけれど、見えない苦労がたくさんあるのだということが、伝わってきました。

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じゅうぶん


「ごめんね。せっかく友達になってもろたのに、こんな私で……」
お花ちゃんは、また俯いてしまいました。
「ホンマや、アンタにいろいろ教えてもらう約束したのに、まだ、な~んも教えてもろてへん。」
「え……」
お花ちゃんは、何の事だろうというように首をかしげました。
「刺し子や、刺し子。あんた、教えたる言うてたやんか。」
「刺し子?」
「そうやで。うちら、ちゃーんと布と糸そろえて待ってるんやで……」
「お花ちゃん、早よ教えてよ。そのいつも持ってる小さい手提げ、ええなぁ思てるねん。」
と、お豊ちゃんが言いました。どうやらお春ちゃんとお豊ちゃんで、お花ちゃんに約束していたのですね。とってもいい事だと思ってまあばあちゃんも頷きました。
「お花ちゃんかて、まあちゃんに刺繍を教えてほしいて言うてたやん。」
お花ちゃんは、しばらくポカンとしていましたが、
「そうや、……そんなん言うてたわ。」
そして、手提げかばんをキュウっと握りしめました。
「私、ちょっと頭がおかしいんかもしれへん。」
お花ちゃんが、真剣に言いました。
「この歳になったら、みんなどっかおかしいで。」
お春ちゃんが慰めました。
「ううん。そんなんと違うねん。私、長男の所におった時、離れに一人でおってん。ずーっと一人や。嫁がご飯だけ持ってくるねん。何日も誰とも話せぇへん。娘が来た時だけや。せやから、言葉もなかなか出てけぇへん。頭もなんやボーっとしてる気がする……」
「ヒドイ嫁やなー!」
お春ちゃんが、怒りました。
「でも、私も悪いねん。頼まれたこともちゃんとできへんし、ヘマばっかりするから……」
「でも、あんた、年金みんな息子の家のローンになってる言うてたやん。自分は新しい家に住んで、母親を古い離れに置いとくて、息子夫婦のほうがよっぽど悪どいで。そんなモンの言うこと、鵜呑みにしたらアカンで。」
と、お豊ちゃんが続けました。
「そうやで、お花ちゃんの元気をなくして、エエようにしたれと思ってたんやで。お花ちゃん、どこもオカシイところないで!」
お春ちゃんもお豊ちゃんの言葉に頷きながら言いました。
「そう? そうやろか?」
お花ちゃんは、パッと明るい顔をして、お春ちゃんとお豊ちゃんを見て言いました。
「それに、あんた、言葉出てけぇへん言うけど、そんだけ喋れたら十分やで。」
お豊ちゃんの言葉に、みんなドッと笑いました。

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マイナス思考


「娘さん、心配して探してたで!」
お豊ちゃんの言葉に少しだけ顔を上げると、また俯いてしまいました。
「わたしって、アカンね。娘に迷惑ばっかりかけて……」
ポロポロ涙を流しました。
「何をやってもヘマばかり、どうして早くお迎えが来ないのかしら……」
「お花ちゃん、考え過ぎよ。お迎えなんて、頼まんでも向こうから来てくれはるわよ。それまでに、美味しいもん食べて、みんなで楽しいお話しよう。な?」
と、お豊ちゃんが言いました。
「でもなぁ。こんなんで生きててもなぁ……」
と、お花ちゃんは、ションボリしています。
「あんた! あんたみたいにしょぼれくれてたらアカンで! 今からでも、エエ人見つけよかいうぐらいでないと!」
「え! お春ちゃん、そんな人いるの?」
とお豊ちゃんが目を丸くして言いました。
「たとえばやがな。ちょっと、話の腰、折らんといて!」
「なんや、……ビックリしたわ。」
二人を見ていて、お花ちゃんが羨ましそうに、
「ええなぁ。そんなんポンポン言いあえて……」
その言葉に、お春ちゃんが思い出したように、
「なに言うんやったかいな。……せや、そやからな、お花ちゃん、あんた、お迎えお迎え言わんと、前向きにならんと、アンタそんなマイナス思考やから、病院と家を行ったり来たりせなアカンねんで。病院帰りにお茶しよ思って、家に寄ってもいつも入院してておらへんやないの。そんなんしてたら、娘さんに悪いで……。しっかりしぃや!」
と、お春ちゃんがお花ちゃんに言いさとしています。
お豊ちゃんが、嬉しそうに笑って、まあばあちゃんにこっそり耳打ちしてきました。
「どっかで聞いたことない?」
まあばあちゃんも小さく笑って頷きました。
それは、お豊ちゃんが、いつもお春ちゃんに言っていた言葉だったからです。

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見つけた


「探すのを手伝う言うたんはええけど、心当たりあるんか? 公園にはおらんかった んやで?」
と、お春ちゃんが言いました。
「そうねぇ。とりあえず歩きましょう。フッとそこらへんで会えるかもしれないし。」
というわけで、今日は近所をグルグル歩くのではなく、足をのばすことにしました。
「もう、隣町まで来てしもうたなぁ。こっち側と違うかもしれへんなぁ……」
お春ちゃんが首をかしげながら言いました。
「そうねぇ。」
まあばあちゃんも不安げに言いました。すると、お豊ちゃんが……
「あっ、あれ! あそこに座ってんの。お花ちゃん違う?」
「え! どこどこ?」
「ほら、公園の中、タイヤにもたれかかってるの……」
「あ! ほんまや! お花ちゃんや! お花ちゃーん!!」
お春ちゃんが手を振りました。
お花ちゃんがこっちを向きました。そして、手を振りかえしてきました。
まあばあちゃんはお春ちゃんとお豊ちゃんが、お花ちゃんの所へ行くのを見て、携帯電話を取り出しました。
そして、ぎこちない手で、しっかりボタンを押しと、携帯電話を耳に当てました。
「あ。コナン君のお母さん。わたし、ジロの……そうです。お母さん見つかりましたよ。」
電話の向こうで、コナン君のお母さんは何度もまあばあちゃんにお礼を言いました。ホッとしているようでした。
まあばあちゃんがお花ちゃんの近くまで行くと、お春ちゃんとお豊ちゃんはシルバーカーに座って話していました。
「お花ちゃん、散歩行きたいんやったら、一緒に行こう。楽しいよ。一人で行ったら危ないで」
お豊ちゃんが言うと、お花ちゃんは虚ろな目をして首を横に振りました。
「違うねん。わたし、新鮮なお野菜をたくさんもらったから、オカズにお肉つけようと思って、買い物に出てん。でも途中で道が分からんようになってしもて……」
花ちゃんは、うなだれて言いました。

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フッとお出かけ


近頃のまあばあちゃんはいつもより早い時間に散歩に出かけています。
今までの時間だと、帰る頃には気温が上がって地面に近いジロやミミちゃんには暑すぎると思ったのです。
お豊ちゃんも賛成してくれて、今は4時半に起きて公園で待ち合わせています。お春ちゃんは、最初は渋っていたのですが、
「猫は散歩せんでええらしいけど、この子は犬みたいな子でなぁ。散歩に行きたいんかして、この時間になったらミャーミャー鳴いて私を起こしにくるねん。」
お春ちゃんはそう言いながら、ミィちゃんを抱き上げました。
そして、柔らかな毛並みを優しく撫でています。
まあばあちゃんもお豊ちゃんもその様子を見ていると、微笑ましくて顔がほころびます。
しばらくして、向こうからコナンちゃんとコナンちゃんのお母さんがこちらに向かってくるのが見えました。何だか様子がおかしいです。
「おはようございます。どうかしたんですか?」
まあばあちゃんが声を掛けると、
「ああ、ジロちゃんのお母さん、お早うございます。母がいなくなってしまったんです。」
「ええ!!」
「昨日の夜から、母の姿が見えなくて、ずっと探しているんです。見かけませんでしたか?」
コナンちゃんのお母さんは疲れた様子で言いました。
「いいえ、見なかったわ。」
「そうですか……。前にも、いつの間にかフッといなくなって……。その時は、そこの公園のベンチに座っていてすぐに見つかったんですが……、今回は心当たりを探して全然ダメで……」
「私たちも探してみます。」
「わぁ! ありがとうございます。助かります。」
「今から、みんなで歩くんですもの。お見かけしたら、お家の方に伺います。」
そう言って、まあばあちゃん達は歩き始めました。

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トモちゃんに話すと……


「あははっ! あははは!」
トモちゃんは、おなかを抱えて笑っています。邦ちゃん以上にウケたようです。
「そんなにおかしいかしら?」
「おかしいよ! だって……、ね、だって……あははは!」
トモちゃんは、笑い過ぎて言葉が出ないようです。 
「邦ちゃんも、トモちゃん程じゃないけど、笑い過ぎて涙目になって笑っていたわ。そんなにおかしいかしら?」
まあばあちゃんは、不思議そうにトモちゃんを見て言いました。
「おかしいよ。道路に忘れたツッカケに、手を合わせてるなんて……あははは。」
トモちゃんは、また笑い始めました。
「でも、本当に、心配になったわよ。キレイに揃えられたツッカケが……」
「アハハハ! おばあちゃん、もうやめて、またおかしくなってきた! だって、3人そろって……。おまわりさんもビックリしたんじゃない?」
トモちゃんは、おなかを押さえて、ヒーヒー言いながら話しました。
(トモちゃんは、こんなに笑うけど、きっとあのポツンと置いていかれた淋しそうなツッカケを見たら、トモちゃんだって、同じことを考えたと思うわ。)
まあばあちゃんは、そう思いましたが、心の中にしまう事にしました。

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お春ちゃんの心の内


「ねぇ、邦ちゃん、その子猫は、三毛猫だったんじゃないの?」
「……はい。」
「……お春ちゃんが育てている子猫も、三毛猫なのよ。」
「え……」
邦ちゃんは、驚いたようでした。
「きっと、お春ちゃんは、邦ちゃんに会いたいんじゃないかしら。」
昭雄さんの事で、お春ちゃんが邦ちゃんの事をどう思っているのか不可解に感じていた、まあばあちゃんでしたが、お春ちゃんの心の内が少し見えたようで気持ちが温かくなりました。
お春ちゃんは、邦ちゃんの事が本当は気がかりだったのです。
「そうでしょうか……」
邦ちゃんは、そう言いながら少し嬉しそうでした。
「そうよ。だから、拾った子猫をミィって名付けたのよ。最近はお散歩にも来るようになったし、ミィちゃんを連れてくるのよ。お春ちゃんは、少しずついい方に変わってきたと思うの。」
邦ちゃんの子猫の話には驚きましたが、お春ちゃんも弱い立場にいる動物たちに優しくできる心を持てたら、邦ちゃんの事もきっと理解できるはずだと、まあばちゃんは思いました。
「お母さん、これからはその子がいるから、淋しさがまぎれるかもしれませんね。」
邦ちゃんは少し安心したようにほほえみました。

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捨て猫 と 思い出


まあばあちゃんは、今朝の道路のツッカケの事を邦ちゃん話しました。
母親であるお春ちゃんの事は、何でも知っておきたいのではと思ったのです。
邦ちゃんは、話を聞いて、おなかを抱えて笑いました。
「まあおばちゃん、母のせいで、お巡りさんもお兄ちゃんも大変だったのね。」
「そうなのよ。でも、お巡りさんもお兄さんもいい人で、気を悪くされてなくて良かったわ。」
「本当ですか? 良かった。でも……」
「どうしたの?」
「いえ、……母が猫を飼うなんて、すごく意外なので……」
邦ちゃんは、子猫のこと思い出したらしく、少し暗い顔になりました。
「大丈夫でしょうか? 母に子猫の世話なんて出来るでしょうか?」
「……大丈夫よ。」
とは言ったものの、まあばあちゃんの声にも説得力がありません。今は可愛がっているようですが、いつ飽きたと言わないかヒヤヒヤしているのも事実です。もしそうなってしまった時の事も考えなくてはいけません。邦ちゃんもとても心配そうです。
「私が、小学生の頃……、子猫を拾って帰ってきたことがあるんです。」
「まあ……」
「その時、母は、『そんな汚いもの持って帰ってきて、元のところに返しといで』って……。」
「…………」
「私、捨てるに捨てられず、かと言って、家にも帰れないし……。公園でその子猫といました。」
「お春ちゃん、迎えに来てくれた?」
まあばあちゃんは、思わず言ってしまいました。
邦ちゃんは悲しそうに、首を振りました。
「暗くてなってきて、その日は月もなくて、怖くて、その子猫を抱きしめて泣いていたら、お父さんが迎えに来てくれました。『邦子は優しい子やな。お父さんが頼んだげるから帰ろう』って……。母は気持ち悪がって、一切の世話をしませんでした。」
(お春ちゃん、どうして……)
その話を聞いて迷いましたが、まあばあちゃんは話してみました。
「でも、本当に大丈夫だと思うのよ。名前を付けたぐらいだから、ミィちゃんと言うのよ。」
「ミィ? ミィと名付けたんですか? 本当ですか?」
「え、ええ、そうよ。」
邦ちゃんがあんまり驚くので、まあばあちゃんはドギマギしました。
「私は、拾ってきた子猫にミィと……」
邦ちゃんは、ポロポロっと涙をこぼしました。

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新車のニオイ


「もう、お春ちゃんのおかげで朝から大騒ぎやったなぁ。」
と、お豊ちゃんが興奮したように言いました。
「せやけど、今時の車は、靴、脱いで車に乗るんやなぁ。」
お春ちゃんが、不思議そうに言いました。
「あんたが、ツッカケなんか見つけるから……」
お豊ちゃんが、ため息をつきながら言いました。
「あんたが、自殺なんて言うから……。」
ムッとしたようにお春ちゃんが言いました。
「よう言うわ。履物脱ぐのは、首吊りと飛び降りだけやって、罰当たりなこと言うて、馬鹿にしたやないの。」
と、お豊ちゃん。
また、ケンカが始まりました。まあばちゃんがどうしたものかと悩んでいたら、お春ちゃんが、
「だいたい、靴脱がなあかんような車作る車屋が悪いねん。なあ、まあちゃん。」
と、お春ちゃんが白髪をかきあげながら言いました。
でも、まあばあちゃんは、返事できませんでした。あの若さです。一所懸命働いて、やっと買った車なのでしょう。道を歩いた履物で車を運転する気になれなかったに違いありません。
まだ、新しいニオイのする車に、ふかふかのマット。大事に乗りたい気持ちなのでしょう。
トモちゃんのお父さんも、初めて車を買った時、同じように靴を履き分けて運転していたので、お兄ちゃんの気持ちがよく分かりました。

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Author:堺の町のまあばあちゃん
堺の町に住む、ひとりのおばあちゃんのお話です。
住み慣れた町の人々との交流や孫のトモちゃんや犬のジロとの生活を通して力強く生きていく姿を物語に書きたいと思います。 
宜しくお願いします。
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