お昼の用意



「お母ちゃん、お昼ご飯、作るの手伝って~」
恭子ちゃんがまあばあちゃんを呼びに来ました。
「卵焼きは大変やから、ゆで卵にしてん。オニギリ作ってるねんけど、お母ちゃんの方が早いから……」
恭子ちゃんはお料理が苦手です。お手上げになったので、まあばあちゃんを呼びに来たのでしょうね。
「恭子ちゃん、お昼作ってくれたんか。おおきに!」
オッチャンが嬉しそうに言いました。
「出来たら呼ぼうと思ったんやけど、間に合えへんから呼びにきてん。」
恭子ちゃんは、そう言ってアハハと笑いました。
「ほな、昼はバーベキューにしよう!」
とオッチャンが言いました。
「わー、嬉しいな!」
いつの間にか戻ってきたトモちゃんがポンと両手をたたいて言いました。
「よっしゃ! 決まりや。わし、コーナンで網と炭と帰りに見繕ってくるわ。トモちゃんも行くか?」
「うん! 行く!」
「あっ、肉はワシら行きますわ。」
とお父さんと樺山さんが言いました。
「じゃ、わたし、イスとか用意しとくわ」
と恭子ちゃんが、張り切った様子で言いました。

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柿の実ひとつ


「ばあちゃん、ひとつだけ、柿の実、残しといたで。てっぺん見てみ。」
オッチャンの指さす方を見ると、柿の実がひとつ、ありました。
「わぁ、ありがとう!」
「ばあちゃん、鳥が食うから残しといたり言うけど、こんなん食うやろか。」
と、オッチャンが笑いながら言いました。そうするうちに、スズメが三羽、チュンチュン鳴きながら舞い降りてきました。ちょうど柿の実のある枝にとまりました。
「おっ! さっそく柿、食いに来たんかな?」
おっちゃんが嬉しそうに言いました。
「食うかな?」
オッチャンの期待をよそに、しばらくするとスズメたちはどこかに飛んでいきました。
「ありゃ、行ってしもうたで。」
「あのコ達には、大きすぎたのかしら?」
まあばあちゃんが自分の古里の習わしを話すと、オッチャンは思いほか驚いて、柿を残してくれたのですが……
実は、まあばあちゃんも鳥が食べるところを見たことはありません。
でも、いつの間にか、穴が開いて、小さくなって、そして、なくなっているように思いました。
オッチャンが、あんまりガッカリするので、悪い気がしました。
(スズメさん、食べてくれればよかったのだけど……)
「本当に、立派な柿ね。あんまり凛としてツヤのある柿だから、もったいないと思ったのかも……」
「はは、そんなん思うやろか?」
オッチャンは面白そうに笑いました。
まあばあちゃんが、もういちど柿を見上げると、凛として艶やかな柿の実が、
(わたしは、まだまだ、ここで秋を楽しみますよ!)
と言っているように思えました。だから、スズメも食べなかったのかもしれませんね。
サーッと肌寒い風がふいて、ひらっと柿の葉っぱが落ちてきました。
まあばあちゃんは、この晩秋の肌寒い風が吹く頃、一番思い出すのは古里です。
どこか物悲しく、郷愁を誘う季節。忘れてしまった何かを探したくなる季節です。
これから、まあばあちゃんの古里は白い雪に包まれます。寒さに震える季節です。
今では、そんな思いをすることはありません。まあばあちゃんは暖かく包んでくれる家族や周りの人たちに感謝して、幸せを噛み締めます。

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みんな仲良し


コナン君のお母さんが遠慮して、まだ外にいました。
まあばあちゃんは、心は慌てているけれど、足元は慎重に、コナン君のお母さんの元にもどりました。
「行きましょうよ。」
「ええ、でも……。お話して二度目で、厚かましいかなっと……」
「お早うございます。」
樺山さんでした。
「あら! おはようございます。」
樺山さんは、事故でケガをしたワンちゃんを家族として迎えて一緒に暮らしています。
ワンちゃんは、まだ、エリザベスカラーを付けていて、痛々しいですが、もう大分元気になりました。
ワンちゃんはハッピーちゃんと名づけられました。酷い目にあったけど、これからは幸せになろうねという思いから付けたそうです。
オッチャンが表に出てきました。エリベスカラーをつけたハッピーちゃんを見て、
「おや、お宅さんやね。ワンちゃん助けたお人やな。ばあちゃんからよう聞いとります。」
オッチャンは感心したように言いました。
「え? ああ、いや……」
樺山さんは照れ臭そうに頭をかきました。
「今、ちょうど柿狩りしてますねん。良かったら、どうぞどうぞ! その子も中に入れたってください。ガレージ閉めたらリード離せますさかい。」
と、戸惑う樺山さんとコナン君のお母さんを急かして、シャーっとガレージを引っ張りました。
「トモちゃん、ガレージ閉めたからジロとミミちゃん離せるで~。」
「はーい。」
トモちゃんの返事とともに、ジロとミミちゃんとチビちゃんがまあばあちゃんの所に飛んできました。コナン君とハッピーちゃんに挨拶しています。
みんな仲良しです。
まあばあちゃんが嬉しそうに目を細めました。

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柿狩りが始まりました


「あっ、来た来た! まあちゃん、早く早く!」
お春ちゃんが、まあばあちゃんに気付いて、手招きしました。
お春ちゃんもお豊ちゃんも、白い割烹着に、手ぬぐいを頭に巻いて、まるで炊き出しに行くみたいです。まあばあちゃんは、戦時中こんな恰好をして、町会の会合に出て行ったことを思い出しました。
「気合い十分ね!」
まあばあちゃんが目を丸くして言うと、
「そうやで! 張り切ってんねん。あれ、まあちゃんは、いつもの散歩と変わらんやんか」
「慣れてる恰好がイイかなと思って。」
と、まあばあちゃんは答えました。お豊ちゃんを見るとちょっと恥ずかしそうです。
「ちょっと、やり過ぎやない? 柿を頂きに来ただけなのに……。」
「そんなことないわよ。元気な感じでいいわよ。」
まあばあちゃんが言いました。
オッチャンを見ると、高枝切ばさみで丁寧に柿を取っていました。
「これでええですか?」
とお父さんが大きな脚立を持って、裏庭に入ってきました。
「ああ、すんまへん。助かりますわ!」
お父さんが上手に脚立を置くとタタッと登って、手際よく柿を取ってザルに入れていきました。
邦ちゃんも車いすに乗ってやって来ました。トモちゃんが邦ちゃんを迎えに行ったようです。
まあばあちゃんが、柿に見惚れている間に、みんながクルクル動いています。
柿狩りが始まりました。
まあばあちゃんはワクワクしてきました。

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柿狩り


今日は勤労感謝の日です。
お休みの朝は、いつものんびりしていますが、今日は朝からバタバタしています。
それは、オッチャンの家の柿の実をみんなで取りに行くからです。トモちゃんとまあばあちゃんは、ジロとミミちゃんを連れてオッチャンの家に行きました。
「あれ、おばあちゃん、お春おばあちゃんとお豊おばあちゃんが先に来てるよ。」
トモちゃんが言いました。
二人のシルバーカーがオッチャンの家の車庫の前に止まっています。
「あら、みんな、早いわねぇ。」
「お早うございます。 今日はお二人でお散歩ですか?」
コナン君のお母さんです。
「お早うございます。」
「あっ、おはようさん。早よう、入ってや!」
オッチャンが出てきました。
「あらぁ、お家ココなんですか?」
コナン君のお母さんが言いました。
「そうなんですわ。今から、皆で、柿狩りするんですわ。良かったらどないですか?」
(柿狩りなんて言葉あったかしら?)
と、まあばあちゃんは思いましたが、オッチャンは当たり前のように言っています。
「え? いえいえ、そんな突然、申し訳ないです。」
コナン君のお母さんは遠慮して言いました。
「ようさんありますねん。お母さんに持って帰ったってください。」
オッチャンはニッコリ笑って言いました。

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柿の木の思い出


「ばあちゃん、すまんな。ちょっと裏に入ってんか」
まあばあちゃんが家の前で待っていると、オッチャンが裏庭に来るように言いました。
まあばあちゃんは、表にシルバーカーを置いて、ゆっくりオッチャンの声のする方へと進みます。車庫の隅を通って、家の壁を手すりがわりにして、ゆっくりゆっくり進みます。
裏は、小さな庭になっていて、大きな柿の木が植わっていました。
「まあ、立派な……」
「こんなに実ぃつけたんは初めてや。あいつがおる時は、そんなにならんかったのになぁ。」
“あいつ”とは、奥さんの事ですね。
「そうなの……」
奥さんが、オッチャンが寂しくないように、たくさんの柿の実をつけたのでしょうか?
「味はうまかったけどな。今年は、大きい上にようさんで来たわ。」
「ほんとに、見事ねぇ……」
「ばあちゃん、今度の日曜日、トモちゃんも呼んで、この柿とってしまわへんか?」
「でも、もったいないわ。今が一番、キレイで秋らしいのに……。」
「なに言うとんねん。早よう取ってしまわな。熟柿になってしまうがな!」
オッチャンは張り切って言いました。
まあばあちゃんは柿の木を見ると、いつも古里を思い出します
もう誰も残っていませんが……。
秋は厳しい冬に備えるための準備で大忙しです。そして、柿の実を取り終えて、干し柿を作る頃、冬の足音が聞こえてきます。
幼いまあばあちゃんは、柿を取らなければ、冬はもっと遅くに来るのでは思ったものです。

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柿の実のおすそわけ


今年も、おいしい柿をいただきました。
大きくてつやつやした柿の実です。たくさんいただいたので、おすそ分けすることにしました。
まあばあちゃんはひとつひとつ丁寧にビニール袋に入れていきます。
今年の柿は去年に比べて、ひとつひとつが大きくてずっしりとしています。10個ほど入れると、グッと重いです。
(お春ちゃん、喜んでくれるかしら)
まあばあちゃんはヨッコラショッとシルバーカーに入れます。
(お豊ちゃん、大きくてびっくりするかしら? コナン君のお母さんどんな顔するかしら?)
この前、コナン君は柿が好きと聞いていたので、きっと喜んでくれるはずです。
「ジロ、ミミちゃん、お留守番、お願いね。」
と頼んで、まあばあちゃんは出発しました。
向うから、オッチャンがチビちゃんを前かごに乗せて、やって来ました。
「あれ、ばあちゃん、一人かいな。」
「ええ、柿をたくさんいただいたので、おすそ分けにしようと思って。」
それを聞いて、柿が大好きなオッチャンは目を輝かせました。
「後で、皮を剥いて持って行くわね。」
「おおきに! おおきに!」
オッチャンは、ほくほく顔です。
「なあ、ばあちゃん、今から邦ちゃんところに行くんやろ?」
「そうよ」
「その前に、ちょっとだけ、ワシの家に寄ってほしいんや。」
オッチャンの家は、邦ちゃんの家の手前です。

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置手紙


「おっ、もう、こんな時間や、ばあちゃん、ワシ、行くわ。見守り隊に行かなあかんねん。それ終わったら、近所で修理頼まれてんのや。」
「じゃあ、チビちゃん、預かっとくわ。」
「すまんなぁ。おおきに。ほな、行ってきまっさ。」
オッチャンは、そう言うと、チビちゃんをまあばあちゃんのシルバーカーの中に降ろして、走って行きました。オッチャンの後ろ姿をしばらく見送った後、まあばあちゃんはチビちゃんに、
「チビちゃん、今日はおばあちゃんのお家に行きましょうね。ジロとミミちゃんが待っているわよ。」
まあばあちゃんは、シルバーカーを押し始めました。
家に入ると、ジロとミミちゃんがパタパタと嬉しそうに出迎えてくれました。
ご飯を入れるお皿が二つ置いたままになっていました。
ジロ用のは、空っぽです。ミミちゃんのは、残してあります。
ミミちゃんはおなか空いてなかったのでしょうか?
冷蔵庫に、お手紙が貼ってありました。大きな字でマジックペンで書いてあります。
老眼鏡なしで楽々読めます。
『お母ちゃんへ
あの子の様子はどうやった?
ジロとミミちゃんの散歩はすませました。
ご飯もあげました。ミミちゃんはおかわりしました。残してたら、ごめんやけど片付けとってね。今日はゆっくり朝飯食べてね。』

恭子ちゃんの手紙に、まばあちゃんの心はホッコリ暖かくなりました。

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どうして、秘密にしてたの?


「でも、ちっとも知らなかったわ。どうしてトモちゃん一言も言ってくれなかったのかしら……」
オッチャンの話を聞いて、まあばあちゃんは寂しくなりました。
なんでも、まあばあちゃんにお話ししてくれるトモちゃん。
どうして教えてくれなかったのでしょう?
「トモちゃんは、学校の帰りにわしの車を見つけて、病院に来てくれたんや。」
そう言えば、邦ちゃんが行った病院は駅までの通り道にあります。
(毎日手伝うのは、なかなか続けられることじゃないわ。)
まあばあちゃんは、トモちゃんに我が孫ながら感心しました。そして、フッと気づきました。
「ねぇ、足は折れてないって言ってたし、骨折したのが肋骨だったら、普通は、養生して日にちを開けてから、お医者様に診てもらうものよね……」
まあばあちゃんは、急に違和感を感じました。まあばあちゃんぐらいの年になると、お友達が、クシャミで肋骨にひびが入ったりして、よくコルセットの様なものを巻いて安静にします。
オッチャンは、困ったように顔をクシャクシャにして、頭をかきました。
「実はな、肩もだいぶ強く打ってて、他にもあちこち悪いねん。それで、毎日通う事になっててん……。」
「ええ!」
「でも、始めに比べれば、落ち着いてきてるんやで。まぁ、内緒にしてたんは悪かってんけど、ホンマのこと言うたら、ばあちゃんは気落ちするのは分かってたし、お春さんなんか西の方に行ってしまうんやないかと思ってな。邦ちゃんとトモちゃんとワシで相談して、そんなにひどくないように言おういう事になってん。ごめんやで……」
まあばあちゃんは、邦ちゃんのケガの内容にもビックリしましたが、それに加えて、そんなに頼りなく思われていたのかと、ションボリしました。
「おばあーちゃーん! オッチャーン! 行ってきまーす。」
学校に向かう時間になったらしく、トモちゃんは元気よく二人に挨拶して、自転車で走り去っていきました。

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病院通い


「なあ、ばあちゃん、この町に新しい人が来るなあ。」
「ほんと、にぎやかになっていいわね!」
「せや、あの人のお母ちゃんやったら、優しい人やで。」
オッチャンは、嬉しそうに
言いました。
「邦ちゃんの事、ほんとうにありがとう!」
まあばあちゃんは、オッチャンに一番言いたいことを言いました。
オッチャンは、驚いたような顔をして、
「ばあちゃん、何言うてんのや。わしの方こそばあちゃんに助けられて有難いと思てるんやで。ホンマにありがとうな。」
オッチャンはワハハと笑いながら言いました。
でも、毎日毎日、病院まで来るまで送り迎えするなんて、なかなか出来ることではありません。お春ちゃんも感激して泣いていました。まあばあちゃんも同じ気持ちです。
「コナン君のお母さん、邦ちゃんの事、奥さんだと思ってはったわね。」
「せやな、いつも病院でご主人、ご主人て呼ばれとるから、慣れてしまうで。トモちゃんは、お嬢さんとか娘さんとか言われとるで。」
「トモちゃん?」
「そや、トモちゃん学校帰りにいつも、病院に寄ってくれるんや。上手に邦ちゃんの介添えしてくれてるで。あの子はホンマにええ子やな。」
「トモちゃんが……」
まあばあちゃんは、トモちゃんとオッチャンの優しさに、ホロっと涙を流しました。

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気心



「それは、よろしいわ。早よ、呼んであげなはれ。ばあちゃんも友達ふえて、ええで!」
「本当に、この歳で、新しい友達ができるのは、とっても嬉しいことですよ。」
その言葉に、コナン君のお母さんはパァっと明るい顔をして、
「そう言っていただけて嬉しいです。この町に越してきて、いい人にいっぱい会えて、私は幸せ者です。これからも仲良くしてくださいね。」
「こちらこそ!」
まあばあちゃんもニッコリ笑って言いました。
「母は、若いころから苦労のしどおしだから、後は、ゆったりした気持ちで過ごしてほしいんです。」
まあばあちゃん、うんうんと頷きました。
この歳になると、思うように動けなくなって、心も弱ります。
風邪などひくと、ほんとに気持ちが塞いでしまいます。
でも、気心の知れた人と一緒にいると、心が明るくなるものです。
まあばあちゃんは、一刻も早く、一緒に暮らしてほしいと思いました。
「これから、お母さんが来られたら、またお友達が増えますね。」
まあばあちゃんはもう一度言いました。

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兄嫁さんのとこで……


「奥さん、いつもお母さん大切にされていて、頭が下がります。」
コナン君のお母さんは、邦ちゃんの事をオッチャンの奥さんと思っているようです。
でも、邦ちゃんは、オッチャンのおくさんではありません。
(言わなくていいのかしら?)
と、まあばあちゃんは思いましたが、当のオッチャンが何も言わないので、黙っていました。コナン君のお母さんは話を続けます。
「私も、田舎の母を引き取りたいと思いまして……」
とコナン君のお母さんがしんみり言いました。
「兄のところで、苦労してるんです。」
コナン君のお母さんの目は潤んでいます。
「この間、母の所に行きましたらね。狭い部屋を一つあてがわれてて、そこにずっと一人でいるみたいでした。兄嫁さんは、恩着せがましく、アレしたってるコレしたってる大変やって、言うんですど……、部屋も母の服も薄汚れてるし……。それに、帰り際に、母は、目に涙を浮かべて、ギューッと私の手を握って離さないんです。」
コナン君が心配そうにコナン君のお母さんの足元でお座りしました。
コナン君のお母さんは、コナン君を優しくなでながら、
「わたしも、定年で時間もあるし、小さいけど家もあるし、母と二人で暮らそうと思うんです。」
「お母さん、喜ばれますよ。」
まあばあちゃんが言いました。
「母は、足が不自由なんでけど、まだ、なんとか歩けますし、母の体が利くうちに介護の勉強もしようと思ってるんです。奥さんには、とても勇気をもらいました。」
とコナン君のお母さんは、オッチャンに頭を下げました。
オッチャンは、あいまいに笑って頭を下げ返しました。
どうして、何にも言わないのか、まあばあちゃんは不思議でした。

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邦ちゃんの様子


まあばあちゃんがコナン君のお母さんと話していると、オッチャンがチビちゃんに引っ張られて、こっちに来ました。
「やー。引っ張る引っ張る。チビは、ばあちゃんが好きやなぁ。さっきは寝とって知らんかったからなぁ。」
「まあ! チビちゃんに好かれるなんて、嬉しいわ。わたしもチビちゃん、大好きよ。」
と言って、足元でじゃれついているチビちゃんを撫でました。
まあばあちゃんは、さっきすごく聞きたかったのだけど、聞きそびれたことがありました。それは、
「邦ちゃん、どんな様子?」
「ああ、大分良うなってきたで。もうちょっとで、松葉杖いらんようになるって、医者が言うとったわ。」
「そう! 良かった!」
まばあちゃんは胸をなでおろしました。
「日に日に良うなってるで。なあ、チビ。」
「いつも、奥さんと仲良くて、いいですね。」
とコナン君にお母さんが、ニコッと笑って言いました。
まあばあちゃんとオッチャンは、
(奥さん???)
意味が分からなくてキョトンとしてしまいました。

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コナン君のお母さん



まあばあちゃんがオッチャンと別れて、シルバーカーを押して一人で歩いていると、
「あら、ジロちゃんのお母さん!」
コナン君のお母さんでした。
「あら! おはようございます。」
「お一人でどうしたんですか? ジロちゃんとミミちゃんは?」
朝は、いつもセットで歩いているので、コナン君のお母さんも驚いているようです。
コナン君もジロとミミちゃんは? と聞きたいのか、まあばあちゃんをクンクンしてきます。
「ええ、実は……」
と、あのコの事を話しました。
「まあ! なんてひどい!! つかまえて、とっちめてやりたいわ!!」
コナン君のお母さんは怒りで、プルプル震えていました。
「そのコの具合は?」
「ええ、足の骨を折って、あちこち打ってるそうなんだけど、命は助かったの。後は、大事にしていれば、良くなるって……」
「そうですか……」
コナン君のお母さんは、目を潤ませてウンウンと頷きました。

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犬トモ


動物病院からの帰り道、まあばあちゃんはチビチャンのオッチャンに会いました。
「あら、お早うございます。」
「あっ、ばあちゃん、おはようさん。あれ? ジロとミミちゃんは?」
「今日はお見舞いだから、お留守番頼んでるんです。」
「お見舞い?」
この辺に大きな病院などないので、オッチャンはキョトンとしています。
まあばちゃんは今まであったことをオッチャンに話しました。
「はーっ。酷いことしよるなー。で、どないや。大丈夫なんか?」
「ええ、もう先生が大丈夫って言って下さって、後はたくさん食べてよく寝ていれば……」
「そうかそうか。良かった。」
オッチャンは、ホッとした顔になりました。チビチャンがオッチャンに抱っこされて、ホッコリした顔をして寝ています。
その幸せそうな顔を見て、オッチャン、樺山さんや花ちゃんママ……他にもたくさん犬トモがいるまあばあちゃんですが、みんなが犬トモみたいな人だったらいいのにと思いました。

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どんな名前?


次の日その次の日も、まあばあちゃんとトモちゃんは樺山さんと、動物病院で出会いました。
あのコの様子を見に来ているからです。
そして、傷の具合も日に日に良くなっているようでした。
今日は点滴も外されていて、ご飯もしっかり自分食べています。まだ立つことは出来ませんが、器のご飯を器用にパクパク食べています。先生も、
「気力がありますからね。もう大丈夫ですよ。骨折の完治はまだかかりますが、もう心配いりません。」
「良かった~。」
3人は、ホッと胸をなでおろしました。
「わっ、もう、こんな時間! 私、もう行くね!」
トモちゃんが、パタパタと慌てて学校に行きました。
まあばあちゃんと樺山さんが、残りました。
ご飯を食べていたそのコは、お腹がいっぱいになると、うつらうつらしはじめました。
樺山さんが優しくそのコの体を撫でます。嬉しいのか、パタンパタンとシッポを振りました。
「このコはえらいですなぁ。酷い目に遭わされたのに、ちっとも人間を恨んだりせんと、優しい目で見返してくれる。人間も見習わなあきませんな。」
撫でているうちに、スヤスヤ眠り始めました。とっても幸せそうな顔をしています。
「このコの名前を考えなあきませんなぁ。どんな名前がええやろう。」
まあばあちゃんも頷きました。
よく考えて、素敵な名前にしてほしいと思いました。

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幸せになろうね

 

「もう、大分、落ち着いてます。あとは、必要な栄養を取って、十分休ませれば、良くなりますよ。
「ああ、そうですか。よかった。よかった。」
樺山さんはそう言って、そのコのゲージの前でかがむと、
「頑張るんやで。」
その声を聞いて、そのコはキューンと鳴きました。
(良かったわ。樺山さんの事、いい人だって分かってくれたのね。きっと、事故の時に唸ってしまったのは、ショックで混乱してたのね。)
と、まあばあちゃんは、樺山さんがこのコを引き取りたいと言った時、たいへん有難いことだと思いながらも、このコがいい子にできるか心配していたのです。この様子なら安心ですね。
「このコは、幸せになれますね。」
先生が言いました。
「はい。仲良うにしていきたいと思います。」
先生は、嬉しそうにうなずくと、
「犬の幸せというものは、100%飼い主によって決まってしまうと思います。このコは、こんなに心配してくれる人たちがいて、本当に幸せだと思います。」
先生もそのコのゲージの前にかがんで、
「つらい事は忘れて、幸せになるんだよ。早く元気になろうな。」
と言いました。そして、先生は、まあばあちゃん達に会釈すると、部屋から出て行きました。
「あの……」
樺山さんが、何かを言いかけて、黙ってしまいました。
「なんでしょうか?」
まあばあちゃんが尋ねると、
「……わし、今まで、犬を外で飼ってて、世話は嫁さんに任せきりやったんですわ。ところが、ここで皆さんの話を聞いてたら、家の中で一緒に暮らしてるみたいやから、わしもそうしたいと思いますねん。厚かましいお願いなんですが、しつけの仕方とか、ご飯の事とか教えてもらえませんか? 宜しくお願いします。」
そう言って、深々と頭を下げました。
「もちろんです。ねぇ、トモちゃん。」
この人は、本当に家族として、このコを迎え入れてくれるのですね。
まあばあちゃんは、嬉しくて、泣きそうになりました。
オッチャンがチビちゃんを助けてくれた時と同じくらい嬉しくなりました。

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翌朝、様子を見に……


トモちゃんとまあばあちゃんは、あのコの様子を見に動物病院へ行きました。
看護師さんのお話では、診療時間前に、お散歩やお掃除、ご飯をあげたりするので、6時には着ても良いと言う事でした。
いつもは表から入る動物病院ですが、今日は、裏口のインターフォンを押しました。
『開いてます。どうぞ。』
と看護師さんの声がしました。
中に入ると、看護師さんが忙しそうに、薬を量ったり、点滴の確認をしたりしていました。
まあばあちゃんとトモちゃんに気付いた看護師さんが、
「奥のゲージで休んでいます。どうぞ。」
「失礼します。どうも気になってしまって……」
と、まあばあちゃんが頭を下げました。トモちゃんも会釈しました。
エリザベスカラーを付けて、包帯でぐるぐる巻きになって、点滴を打たれて、それは痛々しい姿ですが、トモちゃん達の姿を見ると、パタン、パタンとシッポを振ってくれました。
「もう、目の光がしっかりしてるでしょう。」
先生でした。
「はい。思ったより元気そうで、安心しました。」
まあばあちゃんがホッとした様子で言いました。
「お早うございます。もう、お二人は来られてたんですなぁ。どんな具合です?」
昨日の初老の男の人もやって来ました。

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帰りは雨


「じゃ、わしは、これで、失礼します。」
と言って、樺山さんは、先に動物病院を出ました。
雨がたくさん降っているらしく、診察室にも雨音が聞こえてきます。
「たくさん降ってきたみたいだね。」
トモちゃんが心配そうに言いました。
「大丈夫よ。トモちゃんの分の傘も持って来てるから。」
「さすが、おばあちゃん!」
「ほな、わたしも今日は帰るわ。」
「花ちゃんママ、今日はごめんなさいね。ありがとう。」
「ううん。ううん。大事にならんで、良かったわ。見た時はビックリしたけど。なぁ、ジロちゃんのお母さん、歩きやろ? 私、車で来てるから、送って行きましょか?」
「そんな、もったいないわ。近いから、大丈夫よ。ありがとう。」
「なんで、そんなん気にせんと……。まっ、もう遅うなってるから、とにかく出ましょか。先生、失礼ます。また、来まーす。」
花ちゃんママの挨拶が終わったのを見計らって、トモちゃんが、扉を開けると、お父さんの車が止まっていました。
「お父さん。あっ、お母さんも来てる。」
トモちゃんの言葉を聞いて花ちゃんママもそれを見て、ホッとした顔をしました。
「トモちゃん、お母ちゃん! 帰ったら、メモがあったから……。待ってたんよ。ねっ。お父さん。」
「うん。早よ、乗り。」
お父さんが、トランクにまあばあちゃんのシルバーカーを積みました。
お母さんはまあばあちゃんが座席に乗るのを手伝っています。
トモちゃんは二人に傘をさしかけました。
みんなが車に乗りました。
「さっ、ジロとミミちゃんが待ってるわよ。帰りましょう。出発です。」
と、恭子ちゃんの掛け声とともに、車が走り出しました。
「ホッとしたら、おなかすいた~。」
「今日は、簡単にオニギリにしましょう」
とまあばあちゃんが言いました。
「あっ、オニギリは私がするわ。お母ちゃんが、卵焼き焼いて!」
まあばあちゃんの卵焼きがみんな大好きなようですね。

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カバヤマさん



「診察券を作りますので、こちらにご記入いただけますか?」
横にいた看護婦さんが、クリップボードを渡しながら男の人に言いました。
男の人はボード記入すると、看護師さんに渡しました。
「これは、なんとお呼びすれば?」
「ああ、すみません。カバヤマと読みます。」
「へぇ……」
看護師さんは、感心したように頷きました。そして、フリガナを書き込んでいました。
トモちゃんとまあばあちゃんは、どんな字なんだろうなと思いました。
「今できることは、終えました。しばらく入院していただくことになります。」
「また、明日、様子を見に来ていいですか?」
男の人が言いました。
「いつでもおいでください。」
お医者様がうなづきました。
麻酔のせいでそのコは、ぐっすり眠っています。
「先生、よろしくお願いします。」
三人ともペコペコ頭を下げて、診察室を出ました。
「どないやった?」
花ちゃんママは、治療を終えるのを待っていたようです。
「花ちゃんママも、急いでたの? ゴメンね。先にしてもらって……」
まあばあちゃんがすまなそうに言いました。
「ううん、違うの。うちはメタボ花子のドッグフードを買いに来たのよ。ダイエット用のでないとアカンの。まだまだあるし、別に明日でも明後日でもいいもんなの。でも、気になって待ってたんよ。」
「ありがとう……。骨折とか、他にあちこち怪我してるけど、命の危険はないって……」
「ほんまぁ。良かったね。」
カバヤマさんが、清算を済ませてきました。カバヤマさんにトモちゃんが、
「私たちも、あのコの様子を見に行ってもいいですか?」
「もちろんです。宜しくお願いします。」
「カバヤマさとおっしゃるんですね。珍しお名前ですね。どんな字をお使いになるんですか?」
まあばあちゃんは、これからあのコがお世話になる人の事が気になるようで、質問をしました。
「キヘンに、栄華の華と書きます。珍しいでしょう。いつも呼び方を聞かれます。」
樺山さんは照れくさそうに頭をかきました。

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ひかれずに、すんだかも……


「放り出されたこのコは、はじめ、状況が理解できず、オロオロしてましたけど、すぐに追いかけようと走り出しました。後続車が来るまで少し時間がありました。わし、どないか出来たんちゃうかなと思って、そしたら、このコ、車にひかれんで、すんだんちゃうかな思うて……。」
男の人は、そのコを撫でながら、
「すまんなぁ。すまんなぁ……」
と謝りました。
先生はケガの状態を調べた後、すぐに治療を初めて、麻酔をかけたので、もう、ぐっすり眠っています。
「あんた、ほんまにエライなぁ。」
と、男の人がトモちゃんに言いました。
「わたしですか?」
トモちゃんはキョトンとしました。
「先生、わし、このお姉ちゃんがこのコを抱かえて、走り出した時、感動しましたわ。汚いやら、気持ち悪いやら言うて、物珍しそうに、見てんのもおりましたが、そんなん全く気にせんと、走り出した姉ちゃんに、感動しました。」
男の人が、あんまり褒めるので、トモちゃんは、照れ臭そうに下を向いてしまいました。
「わし、このコを引き取って、暮らそうと思います。一人暮らしやし、気楽なもんや。」
その言葉を聞いて、まあばあちゃんは治療を受けている、そのコを撫でながら、
「あなたは、とっても、優しい方なんですね。このコは幸せになれますね。」
と優しく微笑んで言いました。

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後続車


「このコの具合はどうすか?」
まあばあちゃんが心配そうに聞きました。
「事故のケガと思われるもののほかに、あちこち古いケガもあるし、これは……」
先生は言いかけて、やめました。
「でも、命にかかわるようなケガしてないから、大丈夫ですよ。」
先生は、静かにまあばあちゃん達に言いました。そして、一緒に来た初老の男の人に、
「とりあえず、怪我の手当をして、他の検査は明日にします。」
「宜しくお願いします。」
男の人は、軽く頭を下げました。それから、
「先生、さっき……話しかけて、やめたのって」
ためらっていましたが、思い切ったように言いました。
「……虐待のことですか?」
トモちゃんとまあばあちゃんはビックリして飛び上がりましたが、先生は落ち着いていました。
「なぜ、そう思われます?」
「このコが、事故に遭った時の話で、ウソをついてることがあります。すみません。」
男の人は先生に頭を下げました。
「本当は、このコ、道を横切ったんじゃないんです。車から放り出されたんですわ。車から放り出されたこのコは、夢中で飼い主を追いました。その時、後続車にひかれたんですわ。」
みんな絶句しました。


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Author:堺の町のまあばあちゃん
堺の町に住む、ひとりのおばあちゃんのお話です。
住み慣れた町の人々との交流や孫のトモちゃんや犬のジロとの生活を通して力強く生きていく姿を物語に書きたいと思います。 
宜しくお願いします。
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