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百日紅の花を頂いて……



「ほぉ! 賢いですなぁ!」
その年配の男性はジロの事を褒めて優しくなでてくれました。
「わたしは、この隣に住んでる者ですわ。奥さんがこの花に見惚れておられるから、切って差し上げようと思いましてな。」
そう言って、花ばさみを見せました。
「あの、……よろしいんですか?」
「ええ、私も、ここの奥さんにこの花を頂いていたのですよ。いないときは好きなの切ってくれって、言うてはって。その時は戸惑いましたが、今思えば、帰ってくることはないと分かっていはったんですな。」
「そうですか……」
まあばあちゃんはミミちゃんを預かった日の事を思い出しました。
「この花を今年も見られるか、少し心配だったのですけど、今年も見事な花を咲かせてくれたんですね。」
まあばあちゃんは、感慨深げに言いました。
「息子さんが、時々、手入れに来てはりますわ。生まれ育った家ですからな。」
息子さん達は生家を大切にされているのですね。有難いことです。
「はい。どうぞ……」
パチッと枝を切って、まあばあちゃんに百日紅を持たせました。
美しい百日紅がまあばあちゃんの腕の中で咲いています。
「ありがとうございます。大切に飾らせていただきます。」
まあばあちゃんは丁寧に頭を下げて、お花を頂きました。


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ミミちゃんのお家へ



「ミミちゃん、覚えてる?」
まあばあちゃんはミミちゃんに言いましたが、ミミちゃんは、分かっているのか分かっていないのかいつも通りです。
ミミちゃんのお母さんの百日紅は今年も見事です。まあばあちゃんの所まで花を咲かせて、枝がしだれていました。
「今年も、お花を見せていただきに参りました。ミミちゃんも元気にしています。安心してくださいね。」
その時、サッーと風が吹いて百日紅の枝が揺れました。一瞬、優しく微笑んでいるミミちゃんのお母さんが見えたように思いました。
(え?)
まあばあちゃんは目をパチパチして、もう一度目を凝らして見ました。そこには誰もいませんでした。
本当にミミちゃんのお母さんの魂が、この木に宿っているのかもしれないとまあばあちゃんは思いました。
「今年もキレイに咲きましたなぁ。」
後ろから声を掛けられました。
振り向くと優しそうな年配の男性が立っていました。
「おや? この子は……」
「はい、ここの奥さんからお預かりしたんです。」
「ああ、やっぱり……」
そう言って、ミミちゃんの頭をなでようとしました。
――― ウー! ワンワンワン! ―――
「すみません。だめでしょ! ミミちゃん吠えないの!」
すぐに抱きかかえたいのですが、膝の悪いまあばあちゃんは、ほんの少し離れたミミちゃんの所へ行くのもサッサッと行けません。
まあばあちゃんが困っていると、
ジロがペロッとミミちゃんの鼻をなめました。
すると、
ミミちゃんは、ジロにじゃれついて遊び始めました。
ミミちゃんは、ジロの事をお兄ちゃんのように思っているのかもしれませんね。
とにかく、ホッとしたまあばあちゃんでした。


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満月と日の出



「まあちゃん、昨日、おはぎとススキ有り難う。」
お豊ちゃんが、まあばあちゃんの顔を見ると一番に言いました。
「おはぎ美味しかったわぁ。ススキも立派やし。ええ、お月見やったわ。邦子も喜んでたわ。」
お春ちゃんもほくほく顔です。
「せやけど、昔、この辺、平屋ばっかりやったから、縁側から月見が出来たもんやけどなぁ。今やったら、外に出な、月なんて見えへんな。」
「そうやね。ずいぶん変わったわね。」
お豊ちゃんも頷きます。
「あ、太陽出てきたわ。」
まあばあちゃんが東を向いて言いました。
太陽が少し顔を出すだけで、辺りはグッと明るくなります。
まあばあちゃんは朝日にみんなの健康を願うのが日課です。
お春ちゃんと、お豊ちゃんも、まあばあちゃんと一緒に手を合わせていました。
「こんなにキレイな空で、満月と日の出が拝めるなんて、今日は贅沢な日ね。」
まあばあちゃんが嬉しそうに言いました。
「ほんまや。見てみ! 左手にお月さん、右手に太陽や。両手に花やなぁ。」
お春ちゃんが、両腕をパッと広げて、言いました。
「お春ちゃん、うまいこと言うね!」
お豊ちゃんが、感心したように言いました。
「へへ。うまいやろ。せやけど、日の出の時間、だんだん遅くなってきたな。家出る頃やと、だいぶ暗いやん? 足元危なないか?」
お春ちゃんが言いました。
「そうやね。時間遅らせた方が、ええかもしれへんね。もうちょっと明るぅなってからのほうがええね。」
とお豊ちゃん。
まばあちゃんもニッコリ頷きました。


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ススキとお月見



「おばあちゃんが、ススキ摘んできたの? こんな大きいの大丈夫だった?」
「チビちゃんのお父さんが持って来てくれたのよ。」
「へぇ、オッチャン、意外と風流だね。」
「今日ね、おはぎを持って行ったの。その時にお月見の話をしたからじゃないかしら。」
「へぇ。立派なススキだね。ジロのシッポみたい……」
「トモちゃんの小さい時も、ちゃんとススキとお団子をそろえてお月様見たのよ。」
「ススキ? お団子の事しか覚えてないなぁ……」
「ふふ。トモちゃんらしいわね。」
「あっ、でも。お父さんが、おばあちゃんの古里のススキを見に連れて行ってくれたことは覚えてるよ。すっごく綺麗だったね。」
「覚えてたの?」
まだトモちゃんがほんの小さい時の事なので、覚えているとは思いませんでした。
もう、まあばあちゃんの古里には、だれも残っていないのですが、古里のススキの話をしたときに、お父さんがみんなを連れて行ってくれました。
車で行っても、なかなか遠いところです。
まあばあちゃんは、ススキの話をしたものの、ずいぶん昔の事なので残っているか心配でしたが、行ってみると……
ススキ野原は当時のままでした。
青空の下で風に吹かれるススキもいいですが、
夕日に染まったススキの美しさは、言葉で表せないほどでした。
トモちゃんは先代犬のキャンディと走り回っていました。
「おばあちゃん、どうしたの?」
まあばあちゃんが物思いにふけっていると、トモちゃんが声を掛けてきました。
「え? ううん。チビちゃんのお父さんのおかげで、いいお月見になったわね。」
まあばあちゃんは嬉しそうにススキを撫でました。


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お月見



「あ! おはぎだ! おいしそう!」
トモちゃんが学校から帰って来るなり言いました。
「お月見だから。」
「ねぇ! 今日のお月見は、ちょっと特別なの知ってる?」
「? さあ、何かしら?」
まあばあちゃんは、こういった習わしをいつも大切にしていますが、特別とはなんでしょうか?
「今日は満月なのよ!」
「知ってるわよ。」
「だから! いつもは満月じゃないの、知ってた?」
「知ってるわよ。」
「えー! 私知らなかったよ。おばあちゃん、すごい!」
「昔は、陰暦の暦も使ってたしね。畑仕事してたらね。畑の事はその暦を見て、予定を立ててたのよ。」
「そうなんだ。私、ずっと満月だと思ってたよ。じゃあ、次の満月は、8年後って知ってた?」
「そんなに向こうの事は分からないけど……」
まあばあちゃんはそういうと、静かにお茶を飲みました。
(8年後、私、まだ生きてるかしら……)
まあばあちゃんはそう言いそうになりましたが、そんなこと言うと、トモちゃんが泣き出すので、ひっこめました。
「おばあちゃん、月でウサギさんが餅をついてるよって言ってたね。あの模様、はっきりそう見えるよね。」
「ほんとう、不思議ねぇ。」
「国によって見え方が違うらしいよ。」
「あら、まあ、ウサギさんじゃないの。」
「うん。ライオンやカニとか、他にもいろいろ……」
「みんなお月様が大好きなのね。」
まあばあちゃんはニッコリ笑って言いました。


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百日紅の花に……


まあばあちゃんの散歩コースにあるお家の塀越しから、百日紅の花が顔をのぞかせていました。
(今年も百日紅の花の季節が来たのね……)
まあばあちゃんは、百日紅を見てミミちゃんのお母さんを思い出しました。
とても美しいご婦人でした。そして、
ミミちゃんのお母さんの庭の百日紅は、それは見事でした。
燃えるように赤い花をたおやかな枝に咲かせて、行く人を立ち止まらせていました。
「ミミちゃん、ミミちゃんのお母さんのお花に会いに行きましょうか。」
ミミちゃんはシルバーカーの中で眠っていました。気持ちよさそうな顔をしています。
昨年のちょうど今頃、まあばあちゃんにミミちゃんを託して、病院で亡くなられたミミちゃんのお母さん。
あの見事な百日紅に、ミミちゃんのお母さんの魂が宿っているのではと、まあばあちゃんは思ったのです。
もしそうなら、ミミちゃんの元気な姿を見ていただきたいと思いました。

●まあばあちゃんとミミちゃんのお母さんの出会いです。
  百日紅とミミちゃん
もしも、ご興味を持っていただければすごく嬉しいです。
   

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自分で考える



「お豊ちゃん、あんたは誰がええと思うの?」
お春ちゃんが聞きました。
「私、お春ちゃん達と同じ人にしようと思って……」
「え? わたしと、まあちゃんが違う人に入れたらどないすんのん?」
「あら、ほんと……」
「あんた、何言うてんの……」
お春ちゃんがあきれ顔で言うと、お豊ちゃんは悲しそうな顔をしました。
「わたし、今まで、主人が入れろ言う人に入れてきたから……。なかなか自分で決められへんの……」
「はぁ? ホンマにいまいましいジジィやな。あんただけ江戸時代や。」
お豊ちゃんは、ションボリしてしまいました。
「でも、新聞とか読んでて、なんとなく感じるとこあるやろ。風ちゅうか……。私もエラそうに言うてても、テレビやら新聞の受け売りや……。」
「……亡くなった主人は、私の感じたこと言うたりすると、馬鹿にするし……。ご機嫌とろと思って、いい返事してたら、さっきまで自分の言うてたことやのに、怒り出したり……。思い出さんとこ……」
「せや、早いとこ忘れてしまい!」
お豊ちゃんは気を取り直したようで、ニッコリすると、
「ちょっと、自分で考えてみるわ。」
と言ってニッコリしました。
「選挙カーがよく走ってるけど、みんな堺のために頑張る頑張るって言うてるでしょ。」
「そりゃ、選挙前やからなぁ。」
「私ね、体の動くうちは、毎日欠かさず、家の前を掃除するわ。今までもしてたけど、やっぱり、あっちこっち悪なってきて、今日休もうかな明日にしようかなって思っても、頑張ってるの。堺の町の住人だもん」
「掃除が、堺のためになるやろか?」
お春ちゃんは首をひねりました。
「トモちゃんが言ってたけど、お掃除が行き届いた町は、泥棒が少ないそうよ。この町は助け合ってるんだなって思うんですって、そうすると、泥棒しにくいんですって。」
「わぁ! そうなの!?」
お豊ちゃんは、嬉しそうに言いました。
「ほな、うちらは、堺の町の中の、この町内の治安の一端を担ってるわけやな。」
お春ちゃんが、パッと腕を組んで言いました。
その様子がおかしくて、お豊ちゃんとまあばあちゃんは笑い転げました。
まだまだ日中は暑いですが、朝は爽やかです。そして、朝の会話も爽やかなものになりました。


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朝の公園で


お春ちゃん、お豊ちゃんとまあばあちゃん、仲良しのおばあちゃんたちが、朝の公園でベンチに座ってお話ししています。
「ねぇ、まあちゃん、投票用紙来た?」
お春ちゃんが開口一番言いました。
「来たわよ。月末の日曜日ね。」
「7時からやて。散歩の帰りに一緒に行こうよ」
とお春ちゃんが言いました。
「ねぇ、まあちゃんもお春ちゃんもどっちに入れるの? わたし、迷ってるねん。」
お豊ちゃんが聞くと
「私もよ。」
まあばあちゃんの返事に、お春ちゃんも頷きました。
「今回、橋下さんは、維新の人を押したはるやろ? 今は仲悪いけど竹山さんも応援してはった。橋本さんがええと言うだけあって、竹山さんも頑張ったはると思うねん。けど、橋下さんの言うように、堺市は堺区ならなあかんのかなあ? それやったら、維新の人にやなぁ」
「そうねぇ」
まあばあちゃんも困った顔で返事しました。
「難しいなぁ。でも、橋下さんは相手が大きいても、ひるまんとデンとしてはる。私、ああいうとこと大好きやねん。励まされる。まあ、私と邦子は、よう頑張らんかったけど……」
邦ちゃんが、昭雄さんと女の人に追い出されてから、お春ちゃんは自分の頑張りが足りなかったとよく自分を責めます。もっとハッキリきっぱり言うべきだったと……。
まあばあちゃんはそんなお春ちゃんを見て胸が苦しくなりました。
お春ちゃんの元気がなくなったので、話をもどそうと、まあばあちゃんは選挙の事を言いました
「でも、堺って、昔から自治都市でやってきたのに、ここにきて堺区になるって、なんか何ていうか……」
「何よぉ。橋下さんの言う事、間違うてるって言うの?」
「え? ……」
お春ちゃんが、すこし不満げに言ったので、戸惑ってしまいました。
「でも、確かにそうなんよ。わたし、別に大層なことは何もしてけぇへんかったけど。“堺の事は堺でするねん!”って思ってるところあるもんなぁ……」
お春ちゃんも難しい顔をして黙ってしまいました。
そして、急に笑い出しました。
「どうしたの?」
まあばあちゃんが聞くと、
「いやな。朝も早よから、年寄り三人が、竹山さんや橋下さんや言うて悩んでるなんて思ってないやろなって思ったら可笑しいなってきて。あははは」
お春ちゃんが、あんまり笑うので、まあばあちゃんもお豊ちゃんもつられて、可笑しくなってきました。
「まだ、投票日まで、日にちあるから。ゆっくりやな」
お春ちゃんが言いました。


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堺市長選



堺市長選が始まりました。
まあばあちゃんの小さな町にも選挙カーが走ります。
現職の竹山市長と維新の会の西林克敏さんの一騎打ちです。
どちらも堺のために一生懸命です。
竹山さんは、子どもの医療費を安くしたり、一人暮らしお年寄りのために訪ねて行く制度を考えてくれているそうです。これを聞いたとき、まずお豊ちゃんの事が浮かびました。いろいろ力を尽くしてくれています。
西林さんはさびれてしまった堺東の駅を元気にしようと力強く訴えます。確かに昔は銀座通り商店街はとっても賑やかでしたが、色んな町に面白いものがたくさん出来たせいか堺の町は素通りです。なんとも淋しい限りです。
トモちゃんなんかは、
「維新の人は、動画がたくさんアップされてて、なんか説得力があるかなぁ。維新の人に入れるかな? 今の市長さんぜんぜんないよ? でも、堺市が堺区になるのは違和感あるなぁ」
トモもちゃんはまだ選挙権がないのに悩んでいます。

まあばあちゃんは橋下市長さんは裏表がなくてハキハキしていて潔い感じに好感が持てますが、なんとなくお年寄りは置いてけぼりにされそうな気がしました。
もちろんお年寄りの事を考えると言ってくれているのですが、若いからか、なんだか分かってもらえないような気がするのです。
とは言え、時代はどんどん変わって行きます。拘っている方が可笑しいのかもしれません。大阪市のように、橋下さんに新しい風を入れてもらって、変化を受け入れる時が近づいているのかもしれませんね。
でも、堺市ともう呼ばれなくなるのは淋しいような気がしました。
“私は私”というように、 “堺は堺よ” という自分の事を干渉されたくない気質が堺の人にはあるような気がします。
大阪府の中にある堺市なのだけども、大阪都の中の堺区に変わってしまうのとは違うように感じるのです。

まだ、選挙戦は始まったばかり……


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待つ


「ごめんなさいね。ありがとう」
「どないしたんや。こんな雨の日に……」
オッチャンは車にあったタオルをまあばあちゃんに渡しました。
まあばあちゃんはペコッとして受け取ると、頭や顔を拭いました。
「ひろ子ちゃんとね。始業式の日に会う約束をしてたんやけど、今日まで一度も姿を見かけないの……」
「なんやて……」
「そうよ。」
「わし、新学期から正門の方に行かされてるんや。気付かんで、ごめんな。……そうか、学校来てへんのか……。ばあちゃんと知り合うてから、ひろ子ちゃんも友達が出来て、元気ようしてたから、安心してたんやけどなぁ。」
「お友達ができたのは、ジロとミミちゃんのおかげなのよ。」
「あのコらは、天使やからな。どっかで、“シッポの生えた天使”やて書いてたわ。あの言葉は感動したなぁ。」
「本当にそのとおりね。」
チビちゃんは幸せそうな顔をして、まあばちゃんの膝の上で眠っています。
「わし、担任の先生にひろ子ちゃんの事、聞いてくるわ。始業式から言うたら、もう十日ほど経っとるがな。わしも心配や。」
「ありがとう。ありがとう」
まあばあちゃんはオッチャンに拝むように手を合わせました。
「ばあちゃん、何してんのや。わし、仏さんと違うで!」
おっちゃんは慌てたように言いました。
「ひろ子ちゃんの事、心配やけど、この事はわしに預からせてくれへんか? せやから、ばあちゃん、もう、今日みたいに雨の中、歩いとったらアカンで! 病気になるで!」
最後の言葉は、ちょっと怒ったように言われました。
オッチャンはまあばあちゃんがとっても心配なのですね。まあばあちゃんもそれが分かるので、しっかりと頷きました。
こういう時、オッチャンはすごく頼りになります。チビちゃんの時もほんとうに有難かったことをまあばあちゃんは思い出しました。
まあばあちゃんは、すごく心配ですが、オッチャンの知らせを待つことにしました。


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雨の日



三日経ち、五日経ち、十日経ちましたが、ひろ子ちゃんは、現れません。
今日は、雨が降りました。
雨の日は、お散歩をお休みしています。
まあばあちゃんは、ジロとミミちゃんをお家に置いて、今日は、一人で小学校に行きました。
シルバーカーに寄りかかって、ひろ子ちゃんを待ちます。
可愛い傘の花を咲かせて子ども達が登校します。
今日はジロとミミちゃんを連れていないせいか、まるでまあばあちゃんがそこにいないかのように、みんな通り過ぎて行きます。
どんどん、校門に吸い込まれていく子ども達。
運動会の時に会った先生方にも会いません。会えば、ひろ子ちゃんの話を聞くこともできるのに……

今日も、校門は、ひろ子ちゃんを待たずに閉まってしまいました。
まあばあちゃん一人だけになってしまいました。
しばらく、まあばあちゃんはその冷たく閉ざされた重い鉄の門を見つめていました。もしかしたら、ひろ子ちゃんが遅れてくるんじゃないか、
(こんな雨の日に門を開けてもらえなかったら可哀想……)
まあばあちゃんは、今日もひろ子ちゃんは来ないと頭で分かっていながら、動けずにいました。
雨がだんだん強くなってきました。パシパシ痛いくらいです。まあばあちゃんは仕方なく帰ることにしました。

まあばあちゃんはゆっくりシルバーカーを押しました。
さらに雨が強くなってきました。
雨がっぱを着て、傘もさしているのに、雨はまあばあちゃんの顔に当たって視界を悪くします。
まあばあちゃんはショボショボした目をこすりながら、シルバーカーを押しました。

まあばあちゃんは、ひろ子ちゃんに何か良くないことが起こったのではと、心配でたまりません。
まだ、こちらに帰ってないのでしょうか、富田林にいるのでしょうか……?
―――プッ、プッ~―――
小さくクラクションが鳴りました。まるで、驚かせないように気遣っているように鳴りました。
「ばあちゃん、どないしたんや! こんな雨の日に! 早よ乗り!」
オッチャンでした。
オッチャンは車から降りると、まあばあちゃんを車に乗せようとするので、
車が濡れてしまうと思い、
「近くだから、このまま帰ります。」
と言いましたが、
「なに言うてんねん。かっぱ脱いだらええがな。」
ここで押し問答していてはオッチャンも濡れてしまうと思い、慌てて雨がっぱを脱ぎました。オッチャンは雨がっぱとシルバーカーをトランクに積みました。
まあばあちゃんが乗ると、チビちゃんが嬉しそうに膝の上に乗って甘えてきました。
「ありがとう。ごめんなさいね。」
「どないしたんや! こんな雨の日に出かけるやなんて!」
オッチャンが、車に乗ってくるなり言いました。


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始業式


9月1日になりました。
始業式です。
ひろ子ちゃんと会う約束をした日です。
まあばあちゃんは校門から少し離れた道の端っこに立って待っていました。登校する先生方や子ども達の邪魔にならないようにするためです。
「おばあちゃん、おはよう!」
ひろ子ちゃんではありませんでした。
「あ! いるいる!」
「ジロ、ミミおはよう!」
ジロやミミちゃんとお友達になってくれた子ども達が、頭を撫でたり抱きついたりしています。
「お早うございます。」
先生方も挨拶してくださいます。ジロ達を褒めて下さる先生もいます。
ジロたちに気付いて、慌てたように反対側を歩く先生もおられます。犬が怖いのでしょうね。
犬が嫌いな先生は、いまいましそうな目で見たりします。
そんなとき、まあばあちゃんはペコッと頭を下げて謝ります。
(“来ないように”と言われませんように……)
そう思って、まあばあちゃんは小さな体をよけい小さくして、ひろ子ちゃんを待ちました。

登校する子供たちの数が、だんだん少なくなって、そして、いなくなり……

とうとう校門が閉められてしまいました。

―――ひろ子ちゃんは、ついに来ませんでした。―――


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頑張ろうね



「せやけど、なんやな。私も昭雄さんと昭雄さんが連れてきた女の人に、何もかも根こそぎ持っていかれてしもたけど、まあちゃんやアンタがおったから、邦子も私も乗り切れたんやと思うわ。でないと、頭に血が上って血管キレてるわ。」
「私もよ。話を聞いてくれる友達がいるって本当に幸せなことやわ。まあちゃんとお春ちゃんがいてくれて本当に良かった。これからは、いつでも気兼ねなく遊びに来てね。二人なら大歓迎やわ。ジロちゃんもミミちゃんも一緒に来てね。」
そう言って、お豊ちゃんはジロとミミちゃんの頭を撫でました。
まあばあちゃんは、お豊ちゃんとお春ちゃんに昔の女性の底力を見たような気がしました。まあばあちゃんの時代の女性は、
嫁入りすると、舅に仕え、姑に仕え、夫に仕え、夫の兄弟に仕え……
耐えるだけの人生が始まります。
ならぬ堪忍するが堪忍です。
「これから、嫌なことは忘れて、明るく考えよう!」
お春ちゃんが元気よく言いました。
3人は、運動部の学生さんがするように、シワシワの手を握り合いました。
「歳はいっても、気持ちは若くよ!」
まあばあちゃんが言いました。
「そうそう! 気持ちが腐ってたら、福が逃げるわ!」
お春ちゃんが言いました。
「わたし、これから明るい心で頑張るわ!」
お豊ちゃんが言いました。
「ははっ、話し込んでたら、弁当食べるの忘れてたわ。せっかくまあちゃんが作ってくれたのに、もったいない。食べよ食べよ。」
「ほんとやわ。おいしそうやのに!お茶入れ替えるね。」
「ええで、このままで、お豊ちゃん。」
「ううん。新しい気持ちになった最初のお茶やよ。入れ替えるわ。」
「そうか? ありがとう。」
お豊ちゃんがいそいそと台所へ行きました。
まあばあちゃんは、同じ部屋にいるのに、空気が綺麗になって行くような気がしました。
きっと、皆の心が前向きになったからですね。
これから、またいろいろあるかもしれませんが、気をしっかり持っていれば、道も開けるはずです。
台所にいるお豊ちゃんの背中を見て、まあばあちゃんは思いました。


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葬式代



「うちの人、娘の主人の事、“安月給、安月給”って馬鹿にしてたけど、葬式代は、娘らがしてくれたんやよ。私、申し訳なくて……。でも、家族葬のこと、うちの人に聞いてなかったら、知らんかったから、それだけは助かったわ。」
お豊ちゃんの独り言か同意を求めているのか分からない言葉に、二人とも黙っていました。
お豊ちゃんのお葬式を安くで済ませようと思って調べていたことが、自分の葬儀で役立つとは、本人も思っていなかったのではないでしょうか。
「あんた、お墓どないすんの……」
「主人は、立派なお墓を買うとか言ってたけど、結局、仕事辞めてからは、パチンコ中毒で、そんなお金どこにもないし……。まだ、どうするか分からへんの」
「なんや、泥棒の縄ないやな。」
「ほんまやね。恥ずかしいわ。」
お豊ちゃんは淋しそうに笑いました。


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家族葬



「お豊ちゃん、娘さんいたやんな。邦子と同じくらいやったなぁ。どうない言うてたん。」
「……主人は、子どもがあんまり好き違うかったから、あの子にも申し訳ないことしたわぁ」
お豊ちゃんは、泣き出してしまいました。
お春ちゃんは、エライこと聞いてしもたという顔をしていました。
「あの子、七五三してへんの……。主人は、そういうのは必要ない言うて……! 家にお金が無いんやったら分かるよ。……私、自分が情けない……。でも、私、成人式の時は頑張ってん。振袖、着せてやれてん。それだけが、私……」
後は声になりませんでした。しばらくして、息を整えてからお豊ちゃんはまた言いました。
「でも、……もう、いないから……。忘れるようにしようと思って……。これからは自分の好きな物食べられるし……。ヒッㇰ もう、忘れる……!」
お豊ちゃんは、涙声でしたが、しっかりした口調で言いました。
「なぁ、お豊ちゃん、家族葬って何? わたし、初めて聞いたわ。」
お春ちゃんが、話題を変えようと尋ねたようですが、まあばあちゃんは、お葬式の事なんて聞いて大丈夫かとヤキモキしました。そして、お豊ちゃんは、驚くようなことを言いました。
「ああ、ごく身内だけでする葬式ってことなんやて……。安くてすむねんて。主人が、私のために調べてて、それで知ってたんよ。ほんとは葬式するのももったいないと思ってたみたいやけど……死体って、普通の人にはどないも出来んでしょ? ほんとはそこらへんに捨てときたかったんちがうかな……」
まあばあちゃんはゾォっとしました。お豊ちゃんのご主人とは、道で出会った時など、挨拶することもありましたが、頭の低い、感じのいい人だと思っていました。
お豊ちゃんが、ご主人に接している様子も、至れり尽くせりで、本当に仲のいい夫婦のように見えました。
(あの時、私なりに励ましたけど、……見当違いな事を言ってしまったんじゃないかしら……)
まあばあちゃんは、初めてお豊ちゃんとお話しした時の事を思い出して、心配になりました。


●まあばあちゃんとお富ちゃんが初めてお話しした時の事です
  お豊ちゃん
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お父ちゃんに感謝



「でも、この家があるから、住むところはあるわ。」
お豊ちゃんが言いました。
「せやん。家だけあれば、住むところはあるもんなぁ。少しはエエとこあるやん。昭雄さんなんか、私の主人が頭金出してんのに、邦子にあの仕打ちや! 他にもいろいろ助けたったのに!」
お春ちゃんは見直したように言いました。
「うちも同じよ。」
「は?」
お春ちゃんが素っ頓狂な声を出しました。
「この家はね、私のお父ちゃんが、土地と家の頭金出してくれてん。お父ちゃんには、ほんまに感謝してる。」
「なんや、あんたの主人、自分で買うたみたいに言うてたで。」
「うん。なんか勘違いしてるみたい。と、言うよりも、自分の親がしたと思い込みたいようやったわ。私のお父ちゃんにしてもらったことを認めたくなかったんかもしれへんね。でも、それを言うと怒鳴るし、……だから、家の修理なんかで、お金の工面を頼まれた時は、私、お父ちゃんに言えへんかってん。だって、お父ちゃんとお母ちゃんが苦労して工面したところで、また、忘れたふりするの分かってるし……」
「さんざん、文句言われたんちゃうん?」
お豊ちゃんは、頷くと、
「言われた、言われた。“お前の家は金持ちや言うとったやないか。この嘘つきめ”って」
「呆れたジジィやな! 土地と家の頭金してもろて、十分有難いのに、まだ、お金せびって!そんで、文句言うんかいな! そんだけ世話になっとって! へぇー! なんちゅうジジィや!」
お春ちゃんはカンカンです。
「お父ちゃん、定職に就かれへんかったし。主人に嫁にもろてもらえるだけ、せっかくやってん。でも、お父ちゃんが働いて働いて作ってくれたお金やのに忘れてる主人を見て、エライ人のとこ来たなぁってつくづく思ったわ。」
お豊ちゃんはしみじみ言いました。
「せや、あんた、ご主人の親の介護してたやろ。あんたいっつも探してたやん。」
お春ちゃんは、思い出したように言いました。
お春ちゃんの言葉にお豊ちゃんは、辛そうな顔をしました。
まあばあちゃんは、全然知らなかったのでビックリしましたが、黙っていました。
そう言えば、トモちゃんの小さい頃に、ウロウロしているおばあさんがいると聞いたことがありましたが、まあばあちゃんは会ったことがありませんでした。
お豊ちゃんのお姑さんだったのかもしれません。
「お舅さんは寝たきりで、まだマシやってんけど……、お姑さんがね……。痴呆になってねぇ。」
「痴呆は、ホンマに大変や……。邦子も頑張ったんやで……。せや、今は認知症て言わなアカンねんな。」
「そうやってね。私、難しいことは分からんけど、名前が変わったからって、介護する人間の大変さが軽くなるわけちゃうのにね。」
「ほんまやなぁ。あんだけ徘徊してたら、大変やったやろ、病院に入れへかったん?」
「お金がかかるからって。そのくせ、自分の母親の垂れ流したウンコを“汚い汚い”言うて。自分は何にもせぇへんのよ。閉じ込めとけ言うけど、家で世話してんのにそんなこと出来へん……」
「えらいこと言うなあ……」
まあばあちゃんもお春ちゃんと同じことを思いましたが、黙っていました。
「……一番、強烈やったのは、姑さんが自分のウンコをお皿に乗せて、主人のお茶碗の横に置いたことやったわ。」
「「ええ!」」
お春ちゃんもまあばあちゃんも、飛び上がりました。
「主人、逃げ出してね。姑さんは、その皿を持って、“どうしたの? 座りなさい”って追いかけるの……。なんかそれが、滑稽で……」
お豊ちゃんは、急に笑い出しました。
お春ちゃんとまあばあちゃんは、どこが可笑しいのか分かりませんでした。

あんまりに酷い扱いを受けてきたお豊ちゃん。
昔は、婚期が来たら、女性は、“早よ片付かなければ”なりませんでした。そして、
想い人と結婚できた人はそう多くはありません。
それでも、夫婦になったからには、寄り添って生きていくものです。
ご主人はどうして、お豊ちゃんとの結婚を受け入れたのでしょうか?
苛めるためでしょうか……
ご主人が亡くなって、気づまりは無くなったでしょうが、辛い時間は帰って来ません。
まあばあちゃんは再び写真に目をやりましたが、お豊ちゃんのご主人は、ただ笑っているだけでした。
まあばあちゃんの胸は苦しくなりました。


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生活保護か刑務所か……



「せやけど、あんた、年金の事、きちんと話せぇへんかったん?」
お春ちゃんが、言いました。
「何度もお願いしたわよ。でもね、おんなじ会話の繰り返しよ。虚しいなってきて……」
「同じって、早よ死ぬいうやつ?」
「それとね……」
お豊ちゃんは言いよどみました。
「教えてよ。私、昭雄さんの事で、散々恥さらしてるんだから……」
「“わしが先に死ぬことになったら、生活保護でも受けるか……。刑務所に入るいうてもある”って……。“雨はかからんし三度三度の飯は出るしな”って言われたわ。」
「なんちゅう。ジジィや。手ぇ合わせて損したわ。極楽には行かれへんな……」
まあばあちゃんは、ため息をついて遺影を見ました。写真のお豊ちゃんのご主人は嬉しそうに笑っていました。
お春ちゃんがポソっと何か言いました。
「えっ? 何、よく聞こえなかった……」
「……ん……刑務所かぁ……。それ、ええかもなぁと思って……」
「「お春ちゃん!?」」
まあばあちゃんもお豊ちゃんもビックリしました。
「私、殺してやりたいくらい憎いモンが三人おんねん……。私、あの三人、包丁で滅多切りにしてやりたい……!」
三人……。
その言葉を聞いてまあばあちゃんは、ああと思いました。
邦ちゃんを苦しめたあの三人の事です。邦ちゃんを追い出した前夫の昭雄さん、乗り込んできた前髪の女の人、そしてその母親らしい年配の女性……
「ははっ。でも、こんなヨボヨボの年寄りやったら、返り討ちにあって寝たきりにされるかもしれへんな……」
お春ちゃんは、自嘲気味に笑いました。


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明日は我が身



お春ちゃんは、ドッコラショッと立ち上がりました。
「どうしたの?」
と、お豊ちゃんが聞きました。
「ちょっと、あんたのご主人に、一言、いうてくるわ。」
「わたしも、お願いしたいことがあるわ。ちょっとお線香上げさせてね。」
まあばあちゃんも、膝をかばいながら、ヨッと立ち上がりました。
「わたしも、まだ、言ってない事あるから、皆と一緒の時に言うとこう。」
と言って、お豊ちゃんも立ち上がりました。
3人そろって、ご仏前で手を合わせました。
「まあちゃん、何を言うてんの?」
まあばあちゃんがあんまり長いので、お春ちゃんが声を掛けてきました。
「これまでは、お豊ちゃんに酷かったけど、今からは仏様になるんだから、お豊ちゃんをしっかり守って下さいって。頼んだの。」
「まあちゃん、そんなん聞かんと思うで。そんな気がちょっとでもあるんやったら。生きてる時に、やってるで。」
「そうだけど、あちらには神様もいらしゃるでしょ? 改心するかもしれないわ。」
「お豊ちゃんは、あんた、何言うてたん。」
「まあちゃんのを聞いてからやと、なんか言いにくわぁ。」
「なによ。言うてよ。」
「そっちの世界で、好きにしてください。お盆も帰ってこんといて下さい。って言うたんよ。この前、初恋の人が亡くなったそうやし。向こうで、楽しくしてくれた方が、私も嬉しい。」
まあばあちゃんは、良く似た言葉、どこかで聞いたなぁと思っていました。
「私、邦ちゃんみたいなこと、言ってるわね。」
お豊ちゃんが、気が付いたように笑い出しました。
「生活の不安はあるけど、なんか爽快な気分やわ。主人が亡くなって、こんな事を言うのは不謹慎なのは分かってるんやけど……。あとは、ボケたり、病気になって、娘に迷惑かけんようにせんと、これ以上の負担はかけられへんもんね。」
この言葉は、まあばあちゃんとお春ちゃんの胸にグサリと来ました。
「私もや。私は年金あるけど、ボケたらあんなお金じゃ、病院に入れてもらわれへん。邦子にどんだけ苦労させるか……」
ボケと病気、この問題はこの歳になると、誰もが恐れているものです。明日は我が身です。
(ほんとだわ。私もシッカリしないと……!)
まあばあちゃんも自分に言い聞かせていました。


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今までの事



「今まで、どうやって……」
まあばあちゃんが聞くと、お春ちゃんが答えました。
「お豊ちゃんのご主人、自分だけ入ってたらしいわ。それで、ほそぼそ……。なぁ」
「ええ……」
お豊ちゃんの目からポタポタと涙がこぼれました。
「わたし、若い時に大きな病気をしてるから、“ワシより生きることはない”って“60代そこそこで、くたばる”って、それがこんな長々と生きてしまって……」
「…………」
「…………」
二人とも言葉がありませんでした。
「あんた、これから、どうするん……」
「娘が家に入れてくれたお金があるの。本当は娘のためにと思ってずっと貯めてたんだけど、使うことになるんやね……」
「でも、あんたとこ、羽振りよさそうに見えたけど……」
「ええ。あれで、なかなか商売上手で……。でも、みんな自分で使ってしまって、何にも無しよ。」
「でも、ご主人、あんたに財布、握られてるて言うてたで……」
お春ちゃんは、ご主人とよく話していたのか詳しいようです。
「そうね。なんていうか……。私は、ほら、あれと同じよ。大昔、庭に穴掘って、大きな壺にお金入れて貯めてたじゃない。あれと同じよ……」
「? どういう意味?」
お春ちゃんは、分からない様子で聞き返しました。
「お金をなくさない様に持たされてるだけで、好きな時に取り出せる。……パチンコで負けて負けて、スッカラカンよ。」
「そんなん、渡さんといたら……」
お春ちゃんが、悔しそうに言いました。
「そんなん、出来るもんちゃうよ。通帳の場所も知らんのに、お金を降ろしてこなかったら、怒鳴ったり、降ろしてくるまで口きいてくれへんかったり……」
「せやけど、あんた、お金、持たされてるんやったら、コソコソ貯めといたら良かったのに!」
「でもねぇ、お春ちゃん。お春ちゃんも主人に聞いてると思うけど、“嘘つき、嘘つき”って言われてると、出来ないもんなんよ。お春ちゃんかて、私の事、そう思ってたでしょう?」
「あれは、悪かったわ。ゴメンやで」
「ううん。私の父も主人にあんなホラを吹いたのがいけないんだもん。でも、結婚してからこっち、ずーっと言われてるとね。嘘つきじゃないと認めてほしくて、身動きできなくなるんよ。」
お春ちゃんも黙ってしまいました。そして、ポツリと言いました。
「いつやったかなぁ。回覧板持って行ったときかなぁ。……あんたの持ってる本見て、ご主人、“また買うて来たんか”って大声出してたなぁ。」
「そうよ。わたし、結婚してから本なんて買ったことないんよ……。でも、本は好きだから、図書館のお世話になってるの。そのことはちゃんと言ってるのに、忘れて怒るんよ。」
お豊ちゃんは、そこまで言うと、涙をぬぐいました。


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無年金



「お料理上手なお豊ちゃんに、あれだけど、でも、簡単に食べれていいと思って…」
そう言って、まあばあちゃんがお弁当を広げました。
「わぁ! 美味しそう。」
と、お豊ちゃん。
「まあちゃんは、卵焼き上手やからなぁ」
と、お春ちゃん。
卵焼き、鮭、ウィンナーに煮豆を数種類と、お弁当の定番メニューですが、ハズレがないと思ってこの内容にしました。
「小皿、とって来るわね。」
そう言って、立ち上がったお豊ちゃんは生き生きして見えました。
「まあちゃん、不思議そうな顔して……。お豊ちゃんが明るいからやろ。」
まあばあちゃんは、顔に出ていたかしらと恥ずかしくなりました。
「朝から晩まで、小さな事をチクチク言う主人がいなくなって、ホッとしてるんよ。」
それでも、長年一緒に暮らしてきた人がいなくなって淋しくないのでしょうか……?
「あんなぁ、まあちゃん、お豊ちゃんは年金、無いんやって」
「え……」
驚いたまあばあちゃんは小皿を並べているお豊ちゃんの顔を見ました。
「そうなんよ。私にはそんなもんは必要ないって……」
お豊ちゃんは、寂しげに笑いました。


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笑い声



次の日、散歩や家事を済ませた、まあばあちゃんは、寂しい思いをしているに違いないお豊ちゃんと、一緒にお昼を食べようと思ってお弁当を作りました。
お豊ちゃんの家の前まで来ると、明るい笑い声が聞こえてきました。
「え?」
まあばあちゃんは驚いてしまいました。ご主人を亡くしたばかりの家から楽しそうな笑い声が聞こえてきたからです。
とにかく、お豊ちゃんは家にいるようなので、呼んでみることにしました。
「ごめんくださーい! お豊ちゃーん。」
「はーい! まあちゃんも来ると思って待ってたのよ!」
答えたのはお春ちゃんでした。後からお豊ちゃんも顔をのぞかせました。
「上がって! 上がって!」
「そうしたいんだけど、ジロ達を連れて来てしまったから、これで失礼するわ。これ良かったら食べてね。」
「何言ってんの! 気にしないで。足なんて拭けば大丈夫よ!」
とお豊ちゃんが雑巾を持って来て、パパッとジロとミミちゃんの足を拭きました。
お豊ちゃんの明るい様子についていけない、まあばあちゃんでした。


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思わぬ言葉

思わぬ言葉

「お母ちゃん、どなたか亡くなったの?」
6畳間に掛けてある喪服を見て、トモちゃんのお母さんが聞きました。
「……お豊ちゃんのご主人が……」
「この間、お見かけしたけど……。熱中症か何か?」
「え? えっと……、ねえ、トモちゃん、お豊ちゃんなんて言ってたかしら?」
まあばあちゃんの声が小さかったのか、返事がありません。
「トモちゃーん!」
もう一度、大きな声で呼んでみました。
「ハーイ。なに?」
「お豊ちゃん、ご主人の病気なんて言ってたかしら?」
「えっ? 言ってなかったよ。パチンコで負けてばっかりいてる話してたやん。あと、パチンコ屋で倒れて、救急隊員の人が連絡してくれて慌てて病院に駆けつけたって……。で、そのまま……」
「それだけだったかしら?」
「もー! 一緒にいたでしょ! それを何回か繰り返し聞いて帰って来たの。」
トモちゃんは、ぜんぜんお話を聞いていなかったまあばあちゃんに呆れています。
まあばあちゃんは、ションボリしてました。
「お母ちゃんは、突然ご主人をなくしてガックリきてる、お豊おばちゃんの事を心配し過ぎて、頭に入ってこなかったのよ。」
とお母さんがトモちゃんをいさめるように言いました。
「でも、元気そうだったよ。」
トモちゃんは、不思議そうな顔で言いました。
「お豊おばちゃんが?」
トモちゃんの言葉が意外で、お母さんは言葉が続きませんした。
「うん。なんかスッキリした顔してた。あんまり悲しそうじゃなかったよ。」
「……そう」
(気難しそうなご主人だったけど、お豊おばちゃん、すごく大事にしてるように見えたけど……)
トモちゃんのお母さんは、トモちゃんから思わぬ言葉を聞いて、考え込んでしまいました。


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お線香をあげに……

「お豊ちゃん……。あの……」
《あ! まあちゃん! すぐ行くわ。ちょっと待っててね。》
お豊ちゃんのしっかりした声が、スピーカーから流れてきました。
トモちゃんは、まあばあちゃんが思うほど気落ちしていないように思いました。
パタパタとお豊ちゃんが玄関から出てきました。
「お豊ちゃんも、足弱ってるんだから、ゆっくりでいいよ。」
「暑いのに来てくれて、ありがとう! 部屋、涼しぃしてるから、上がって上がって!」
お豊ちゃんは、まあばあちゃんが訪ねて行ったことがとても嬉しい様子でした。

ご仏前で手を合わせてた後、お豊ちゃんにお供え物を渡しまた。
「気ぃ使わせてゴメンね。」
「ご主人、突然のことで驚いたわ。」
「あの人、一番暑い、昼の日中でも帽子ひとつ被らんと出歩いてたから。血ぃドロドロやったんちゃうかしら。」
「まぁ」
「あの日は、パチンコ屋の開店日とかで朝一番に並びに行ったの。一日涼しいところにいて、いきなり暑いところへ出たからやないかしら。その場で倒れ込んだらしいわ。」
「そう、今年の夏は特に暑かったから、自分で気づかないうちに弱ってたんやね。ご主人おいくつだったの?」
「私は80才やから、83才やね。」
「そう……」
「あっ、おいしいお菓子があるのよ。ちょっと待っててね。」
「お豊ちゃん、お構いなく……」
まあばあちゃんが言うと、
「ううん。まあちゃんが家に来てくれて。トモちゃんまで来てくれるなんて……! 」
お豊ちゃんは、……いつものお豊ちゃんでした。
お豊ちゃんが気落ちしているに違いないと思い込んでいた、まあばちゃんは拍子抜けしてしまいました。
お豊ちゃんはいつもご主人の事を気遣って、大切にしていたので、食事ものどを通らないくらい落ち込んでいると思っていたからです。
(ガックリきて体を壊すよりはいいけれど……)
どうも釈然としない、まあばあちゃんでした。


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慰めの言葉



「おばあちゃん着いたよ。はい、私に捕まって」
お豊ちゃんの家の前に来たので、トモちゃんが車いすにブレーキをかけて、まあばあちゃんに手を差し出しました。ところが、まあばあちゃんは考え込んだ様子で、ジッとしています。
「どうしたの? おばあちゃん」
「お豊ちゃんに、なんて言って慰めればいいのか……。この歳になると、身近な人が一人二人と亡くなって、すごく不安になるものなのよ。お豊ちゃんは、娘さんがご主人の転勤で、転々としているし……。どんなに心細い思いしてるのかと思うと、言葉が見つからないの……」
「きっと、会いに行くだけで、救いになるんじゃないのかな?」
トモちゃんは、身近で年の近い人が亡くなるといった経験がないので、まあばあちゃんの気持ちが、よくかりません。でも、自分を心から心配してくれる人がいるという事が一番の慰めになると思いました。
「トモちゃんに言われてることも、気になってるの……」
「わたし?」
「ほら、ひっそりしていたいじゃないかと言ってたでしょ? 押しかけて行って大丈夫かしら……。気になって来たわ……。来てよかったのかしら……。」
「そんな事ないよ。おばあちゃんとはとっても仲良しなんだから。大丈夫。」
そう言って、トモちゃんがインターフォンのボタンに指を当てると、
「ちょっと、待って!」
まあばあちゃんが慌てて止めました。そして、すでに整っている襟元を少しなぞると、
「いいわ。トモちゃん。お願い……」
と言いました。
トモちゃんは、インターフォンを押しました。
家の中に、呼び出し音が響いています。
まあばあちゃんは、自分を落ち着かせようと胸に手を当てました。


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堺の町のまあばあちゃん

Author:堺の町のまあばあちゃん
堺の町に住む、ひとりのおばあちゃんのお話です。
住み慣れた町の人々との交流や孫のトモちゃんや犬のジロとの生活を通して力強く生きていく姿を物語に書きたいと思います。 
宜しくお願いします。
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