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思い出



「どうしょう、まあちゃん、私、これ邦子に渡すなんて、できへんわ。」
「…………」
まあばあちゃんも答えが見つかりませんでした。
「昭雄さんの頭の中、どないなってんねやろ。腐ってるわ」
まあばあちゃんもそう思いました。
まあばあちゃんだって、これまでに、近所や会社で些細なことがきっかけで、もめてしまったり言い合いになったりしたことはありました。
ケンカをしていても、よく話し合えば、誤解が解けたり納得できたりと、分かり合えるものです。
でも、昭雄さんは……。

お春ちゃんは、投げ入れられた離婚届を握りしめて、真っ赤な目で言いました。
「こんな仕打ちされて、邦子が可哀想でたまらん!」
「お春ちゃん、それ、しまいましょう。人目に付くといけないから……」
「あ……うん。そやね……」
お春ちゃんは、慌てて巾着袋の中に離婚届を入れました。
通りの向こうからウォーキング中の人が、こっちの角からワンちゃんを散歩している人がと、あちこちから人が現れました。

お春ちゃんは、朝の散歩で、以前住んでいた家の前を通ります。
町の不動産屋さんに買い取ってもらったのですが、家は当時のままそこにあります。違うのは花好きなお春ちゃんがいないために、花は枯れて落ちた葉も散ったままになり、庭は荒れてしまっていますが……

お春ちゃんは家の前まで来ると、静かに立ち止まります。
お春ちゃんは時が止まったような眼をして、家を見つめています。
邦ちゃんの小さい頃などを思い出しているのかもしれませんね。長年住んでいた家です。たくさんの思い出が詰まっているのですから……
 

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離婚届



今朝は、梅雨の晴れ間、しかもジメジメしていなくて爽やかな朝です。今日は2回お散歩が出来そうです。
「今日は気持ちよくお散歩が出来ますよ!」
まあばあちゃんの足元をクルクルまわっているジロとミミちゃんに言いました。
表に出ると、お春ちゃんが立っていました。まあばあちゃんは驚きました。
「お春ちゃん! どうしたの?」
この春、まあばあちゃんの近くに越してきたお春ちゃん。
朝一番の散歩を一緒にしています。いつもはまあばあちゃんがお春ちゃんを迎えに行きます。その次にお豊ちゃんを二人で迎えに行きます。最初に公園に行ってからこの町をくるくる散歩します。
ところが、お春ちゃんは先に来ていました。今日のお春ちゃんはなんだかゲンナリしていました。昨日はいつものお春ちゃんだったのに……
「お春ちゃん?」
まあばあちゃんがもう一度呼びかけると、お春ちゃんは悔しそうな顔をして、一枚の紙を差し出しました。
「まあちゃん、これ、見てよ……」
まあばあちゃんは老眼が強いので、一番大きい文字でも、すぐには見えません。
ジーッと見ていると、ボワッと文字が浮かんできました。その文字は……

―――離婚届――――

「お春ちゃん、これ……!」
「ポストに投げ入れられててん。封筒にも入れんと……」
お春ちゃんは苦しそうに表情をゆがませました。
さらに読み進むと、昭雄さんの記入欄の署名と捺印はすんでいました。
邦ちゃんの記入する欄に鉛筆で丸がしてありました。
邦ちゃんにハンコを押して、役所に出しておけと言う意味でしょう。
「これ、邦ちゃん、知ってるの……?」
「ううん。知らんと思う。夕刊取りに来た時は無かってん、朝刊の時に気ぃ付いたし。晩の雨で濡れてへんて事は、朝一に入れたんちゃうかな。」
邦ちゃんが、一番に取らなくて良かったと、まあばあちゃんはホッとしましたが、知らせないわけにもいきません。どうしたものでしょう……。
(なんで、邦ちゃんばっかりこんな目に……)
まあばあちゃんの目に涙が滲んできました。
こういう結果になることは、あの女の人が邦ちゃんの家に入り込んで来た時から、皆、覚悟していたでしょうが、どこかで希望も持っていました……。邦ちゃんのご主人の目が覚めるのではないかと―――
(離婚届をむき出しのままポストに投げ入れるなんて……)
まあばあちゃんは、邦ちゃんの気持ちを思うと胸が締めつけられるようでした。


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まあばあちゃん と トモちゃん と ボール


まあばあちゃんは、ジロのくわえているボールを追いかけて、家中を走り回っているミミちゃんを見ていて、トモちゃんの小さな頃を思い出しました。
小さなトモちゃんは、お花の模様の赤いボールが大好きでした。歩き始めたばかりのトモちゃんは、自分の顔と同じくらいの大きさのボールを両手で持ってヨチヨチ歩いていました。両手がふさがっているので、こけたら大変です。まばあちゃんは気が気ではありません。ヨチヨチ歩くトモちゃんの後ろを転ばないようにと、ずっとついて歩いていました。これがなかなか大変で、突然方向を変えたり急に止まってボールを投げたりと、意外と忙しく動き回ります。
もう少し大きくなると、
ボールを投げたり、投げ返したりするのが好きなりました。受けそこねたボールを嬉しそうに取りに行くトモちゃん。まだまだまあばあちゃんも若くて体力があったので、いつまでもトモちゃんとボール遊びしていました。

雨が降っていて時間を持て余していたミミちゃんはジロに遊んでもらって大喜びです。家中を走り回っています。お転婆のミミちゃんですが、ぶつかって物を壊したりはしません。器用なものですね。
ミミちゃんがまあばあちゃんめがけて走ってきたかと思うと、まあばあちゃんの膝の上でコテっと寝てしまいました。ジロも丸くなってまあばあちゃんに背中をくっつけるとスースー寝息を立てはじめました。
急に静かになりました。
そう言えばトモちゃんも、
(静かだなぁ。どこにいるのかしら?) 
と思って探していると、寝ていたなんて事がよくありました。
フワフワあったかいジロとミミちゃんを撫でている内に、まあばあちゃんもコックリコックリしはじめした。


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また、雨……


雨は小降りになったり、強くなったり,
たまに止んだりしながら降り続いています。
太陽で洗濯物を干すのが好きな、まあばあちゃんは乾燥機を持っていません。でも大丈夫。まあばあちゃんの家は古いので、部屋干ししてもニオイはこもらないし、もう少しで乾くという頃に取り込んでアイロンを掛けます。このくらいでアイロンをかけるとシワが良く伸びるのでキレイに仕上がるのです。霧吹きが入りませんね。
まあばあちゃんがアイロンを当てている側で、ジロがつまらなさそうに寝転がっています。ミミちゃんは外ばかりに見ていますが、雨はやむ気配をみせません。もう、3日も散歩に行っていません。
まあばあちゃんは家事が終わると、ミミちゃんにボールを見せて、ぽーんと向こうに投げました。ミミちゃんは喜んでとってきます。ミミちゃんは“取ってこい”が大好きです。ジロは興味がないらしく寝ころんだままです。
しばらくすると、まあばあちゃんは、ヘコタレテきました。ミミちゃんは元気一杯なので、いつまでたっても疲れません。
「ミミちゃんは、元気ねぇ、疲れないの?」
と聞いてみても、もっともっととピョンピョンします。お散歩に行けないので、たくさん遊んでほしいのでしょう。
ジロが、まあばあちゃんが疲れてきたのを感じたのか、むっくり起きて、まあばあちゃんが手に持っているボールをくわえました。まあばあちゃんから少し離れたところで、伏せをしてボールを胸の前に置き、顔でふたをしました。ボールが見えなくなりました。
ミミちゃんは、ジロからボールをとろうと背中に乗っかったり耳をひっぱったり、おしりをかじったりとあの手この手でジロにかまいます。ミミちゃんがおしりの方に回ったら、ジロはミミちゃんにチラッとボールを見せました。パッとミミちゃんが飛びつきます。それより早くジロは立ち上がって、右へ左へとボールをヒラヒラします。
ミミちゃんはボールに夢中です。
まあばあちゃんはそれを微笑ましい気持ちで見ていました。


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暴れん坊の雨



「こわ! おばあちゃん、今回の雨で、あっちこっちヒドイ事になってる……!」
トモちゃんが、テレビを見て大きな声を出しました。
夕飯の支度をしている。おばあちゃんが慌ててトモちゃんところに来ました。
道路が川のようになって、車が泳いでいます。
以前、豪雨を経験した人がインタビューを受けていました。
―――雨が降るたび、あんなことが起こるのでは恐ろしい気持ちになる―――
そう答えている姿を見て、まあばあちゃんは心が苦しくなりました。
次に天気予報になりました。
一昨年と同じようなところに雨がたくさん降るとありました。
「日照りも困るけど、どうしてこんなに、いっぺんに降るのかしら。いつもみたいにシトシト降るのがいいのに……」
「ほんとだね。」
トモちゃんも心配そうに言いました。
 
神様、カンカン照りも困るけど、雨はちょうどいいくらいにお願いします。
こんなに暴れん坊の雨では、みんな困り果ててしまいます。

まあばあちゃんはそっと手を合わせました。


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やっと、雨……



「おばあちゃん、もうすぐ、雨が降るって!」
トモちゃんが、テレビを見て言いました。
「まあ……。やっとねぇ。これで田んぼも生き返るわね。」
まあばあちゃんがホッとした顔で言いました。
「でも、今度は洗濯物がたいへんだわ。」
まあばあちゃんは晴れても、雨が降っても心配ごとがつきませんね。
トモちゃんもなんだか浮かない顔です。
「トモちゃん、どうしたの?」
「うん……。今度の雨は、すごくたくさん降るらしいよ。」
まあばあちゃんは、外を見ましたが、それらしき気配はありません。強い日差しがガレージの屋根に照り付けています。本当に雨は降るのでしょうか?
翌朝、外を見てみると、どんより灰色の重い雲で空がおおわれていました。
ジロもミミちゃんも、そして、シルバーカーを押すまあばあちゃんも急ぎ足で散歩します。今にも、降りそうな空を見ていると、勝手に足が速くなるものです。
なんとか、雨が降る前に、家に戻って来れました。
「間に合ったわね。ジロ、ミミちゃん」
ジロとミミちゃんの足を拭いていると、
ポン、ポン…ポン
と音がしたかと思うと、ザーという音に変わりました。
やっと、まとまった雨が降って来たのです。
まあばあちゃんは、手を止めて、空を見上げていました。


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太陽さん


「まあ! きれい!」
まあばあちゃんは、美しく広がる水田を見て、ホッとした顔になりました。
「ねっ、心配いらないでしょう。この辺りは池がいっぱいあるから、まだ大丈夫みたい。」
「ほんとうね。有難いね。」
まあばあちゃんは、田んぼの水を見て、ほっとしましたが、困っている他の土地の事を思うと申し訳ない気持ちにもなりました。
まあばあちゃんが、田んぼの水があることのお礼と、他の土地にも雨が降りますようにと祈っていると、
「おばあちゃん、今日も暑いらしいから、気を付けてね。2度目のお散歩どうしてるの?」
「うん。大丈夫、暑いのは平気なのよ。毎日ちゃんと歩かないと、次の日がシンドイから続けないとね。」
「おばあちゃんは、えらいね!」
「えらくなんかないわよ。この歳になると、膝や腰がしっかり動くことがほんとに有難く感じるものよ。」
トモちゃんは水をタンタンにはられた水田の間の農道を、車いすでゆっくり進んで行きます。空を映した田んぼが道の両端を囲んでいると、まるで空中散歩しているような気持ちになります。
そして、
水田の向こうには金剛、生駒の山並み、その山腹から朝日が顔をだしています。
のどかな朝の風景です。
「おばあちゃん、ここでお祈りしよっか。」
ともちゃんが車イスを止めました。
「そうね」
まあばあちゃんはトモちゃんと一緒に手を合わせて、大きく輝く太陽にお祈りしました。

―――太陽さん、ちょっと一休みして雨を降らせてください
それから、家族みんなが健康に暮らせますように―――


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水田



「おばあちゃん、早く早く!」
トモちゃんが、車いすを出してきました。
ミミちゃんは車いすが大好きなので、大喜びです。ピョンピョンしています。
「ミミちゃん、待って! おばあちゃんが座ってからね。」
「あら、車イスで行くの?」
「そうよ! ちょっと遠出しよう! はい、座って!」
「ありがとう。どっこいしょ」
おばあちゃんが座ると、ピョーンとミミちゃんがまあばあちゃんの膝の上に乗りました。
「ふふ、ミミちゃん、嬉しそうね。おばあちゃん」
「おばあちゃんも、とっても嬉しいわよ! トモちゃんが一緒に散歩してくれて!」
とまあばあちゃんがトモちゃんににっこり笑いました。
トモちゃんも嬉しくなって、キュッとまあばあちゃんを抱きしめました。
ジロのリードはトモちゃんが持ちます。ジロはとってもお利口なので、車イスの合わせて上手に歩きます。
外に出ると、まだまだ薄暗い日の出前なので、ヒンヤリした気持ちよい風が吹いています。
まあばあちゃんの町を抜けて、隣町を過ぎて、細い道を抜けた町はずれ……
「まあ!」
そこにはタンタンに水が張られた、水田が広がっていました。
田んぼや畑が潰され、どんどん家が建って、この近くに田んぼなんてないと思っていたのに、こんなに水田が残っていたなんて感激です。
辺り一面、鏡のようになって空を映しています。
まあばあちゃんは、目を輝かせました。


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空梅雨



「ねぇ、トモちゃん、今年は空梅雨かも知れないわねぇ。」
まあばあちゃんが心配そうに言いました。
トモちゃんもニュースで酷い状態の田んぼが映っているのを見て、知っていました。
堺でも、まとまった雨はまだ降っていませんでした。
「雨が降らない梅雨は大変なのよ。田んぼがカラカラになって、お米が出来ないし……。畑もダメになるのよ。」
まあばあちゃんは、雲一つない夏のようなカンカン照りの空を見上げて言いました。
「おばあちゃん、朝の散歩は何時ごろに行くの?」
「5時前かしら。どうして?」
「明日の朝、私も行っていい?」
「行きましょう! 行きましょう!」
まあばあちゃんはトモちゃんも散歩に行くと聞いて大喜びです。
「あ、でも、学校、行く時間、大丈夫?」
「大丈夫よ。お釣りがくるよ。」
“お釣りがくる”とは何かが余るときに、まあばあちゃんがよく使う言葉です。トモちゃんも使うのですね。
「そう! 行きましょう!」
まあばあちゃんはウキウキしてきました。


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まあばあちゃんと集団登校


かたまりになって校門を通過していく子ども達。
その子ども達が門をくぐるたびに
「おはよう」
と声を掛ける先生と見守り隊の人達をまあばあちゃんは微笑ましく見ていました。

まあばあちゃんもこの子ども達のように集団登校でした。
大きな子と小さな子が一緒に山道を歩いて行くのです。
一つ間違うと深い山の中に迷い込んでしまうからです。大きな子が小さな子をしっかり面倒見て登校します。大人の人はいませんでした。一緒に通ったお兄ちゃんやお姉ちゃんから、楽しいお歌をたくさん教わりました。みんなで歌いながら学校まで長い道のりを歩いて行くのです。今でも、まあばあちゃんの大切な思い出の一つです。
しっかり覚えていると言えば、教育勅語もです。
テレビで教育勅語を取り入れている学校が取材された時、先にまあばあちゃんがスラスラ全部言ったので、トモちゃんは驚いていました。
何度も何度も繰りかえして覚えたので、この歳になっても空で言えます。
まあばあちゃんの頃の先生は、みなビシッと背広を着て、カチッとしている先生ばかりでした。厳しく威厳があったように思います。その反面、テスト中に子守を任された生徒の赤ちゃんが泣きだしたら、代わりにあやしたり……。昔は託児所なんてありませんから、先に生まれた子が下の子の世話をするのが常識でした。先生もそれを心得ているので、問題になることもありませんでした。今では考えられない事ですね。

時代は進んで、暮らしの在り方が変わっていっても、
子どもの笑い声はかわりません。
子ども達の様子に、自分の子供時代を重ねてみた、まあばあちゃんでした。


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怖いと思っていた先生は……



まあばあちゃんは、ビクッとなりました。
この声には聞き覚えがあります。
ひろ子ちゃんを怒鳴っていた怖い先生です。まあばあちゃんは何を言われるのかと、緊張して体が強張ります。
「ご苦労様です。この間は、すみませんでした。」
「……え? ……いいえ、こちらこそ……」
まあばあちゃんは、聞き間違えたのかと思いました。あの怖い先生が謝ってくれています。
申し訳なさそうに頭をかきながら、笑っていました。
「自分の母親ぐらいの人に、怒られて目が覚めましたわ。あの時は運動会を無事すませたいと思って緊張してたんですわ。これからは、子どもへの言葉遣いに気を付けますから、許してやってください。」
あの時、子供を怒鳴りつける怖くて悪い先生だと思っていたのですが、本当は優しい先生だったのですね。
大人になってから、態度や考え方を指摘されて、きちっと心から謝ることのできる人はそうたくさんいません。まして、父兄ではないまあばあちゃんなんて、関わらずにすませる事もできたはずです。
「私こそ、出過ぎたことをして、申し訳ありませんでした。」
まあばあちゃんもあの時こわいと思った先生に深々と頭を下げました。
「いやいや、こちらこそ、ホンマにすみませんでした。」
と男の先生もペコペコしました。
こうして見ると、あんなにいかつくて怖く見えたのに、人懐っこく優しそうに見えます。
まあばあちゃんは、ひろ子ちゃんの事を頼んでみようと思いましたが、思いとどまりました。
ひろ子ちゃんが、すでに担任の先生に相談しているかも知れないし、その先生は、お弁当のないひろ子ちゃんと自分のお弁当を分け合いっこしようと言った思いやりのある先生です。
取り合えず、まあばあちゃんはひろ子ちゃんに会う機会を増やすようにしようと思いました。


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ひろ子ちゃんの新しいお友達 



「おばあちゃん、来てくれたの?」
可愛いおめめをパチパチさせて、ひろ子ちゃんが言いました。
「そうよ。ひろ子ちゃんのお顔が見たくて。」
「わーい! 嬉しいな!」
ひろ子ちゃんは、まあばあちゃんの手を取ってスキップしました。
まあばあちゃんも、ひろ子ちゃんがとっても喜んでくれるので、嬉しくなりました。
トモちゃんも小さな頃、ひろ子ちゃんみたいに、まあばあちゃんの手を取ってよくスキップしていました。
幸せそうなひろ子ちゃんを見て、ホッとしました。
(来てよかった……)
「あ! 運動会の日も一緒だったね! おばあちゃんとこの子?」
ひろ子ちゃんは、ジロとミミちゃんの頭を優しくなでながら言いました。
「そうよ! ジロとミミって言うの。お友達になってね。」
「おはよう、ジロ! ミミ! ひろ子をお友達にしてね!」
返事するように、ジロがひろ子ちゃんの手をペロっとなめました。
「さっ、ひろ子ちゃん、学校に行かなくちゃ……」
まあばあちゃんはひろ子ちゃんの頭を優しくなでて言いました。
「はい! 行ってきまーす!」
ひろ子ちゃんは元気良く返事すると、校門の方へと歩いて行きました。その途中、何度も何度もまあばあちゃんを振りかえっては手を振るひろ子ちゃん。なんとも可愛い子です。
まあばあちゃんがひろ子ちゃんに手を振りかえしていると、
「お早うございます。」
まあばあちゃんの後ろから、野太い声がしました。


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ひろ子ちゃん



まあばあちゃんは、ジロとミミちゃんを連れて、2度目のお散歩に出かけました。
昨日は、運動会の代休で、ひろ子ちゃんはもちろん、子ども達もいませんでした。
シーンとしていて寂しいものでした。
今日は打って変わって、大賑わい。あっちの道からこっちの道から元気な声が聞こえてきます。楽しそうにはしゃぐ子たちを見て、学校は楽しいんだろうなあと想像しました。 
小さな子ども達の周りにそれぞれ大人が数人付いています。自転車を押して歩いている人や、普通に歩いている人と様々です。
まあばあちゃんはジロとミミちゃんと小さくなりながらその人たちに頭を下げながら歩いています。まあばあちゃんは早くは歩けないので、邪魔にならないようにと、出来るだけシルバーカーを道の端に寄せて、少しずつ進んでいました。
ひろ子ちゃんに会えるでしょうか?
ゆっくりしか歩けないまあばあちゃんですが、校門が見えてきました。ナイロンベストを着た見守り隊の人達もいます。
でも、オッチャンの姿はありません。
(今日はお休みかしら……)
まあばあちゃんは、少し心細くなってきていたので、オッチャンがいないことにガッカリしました。
「あ!」
まあばあちゃんは思わず声を上げました。
運動会の日、ひろ子ちゃんをガミガミ怒鳴っていた、あの意地悪な男の先生が立っていました。
でっぷり出たお腹でパンパンになったジャージ姿に腕組みをして校門の際に立っています。改めてみると、大柄な体格です。あの日は夢中で意見していましたが、まあばあちゃんは怖くなって、シルバーカーの向きを変えようと思いました。
「おばあちゃん! おはようございます!」
という声と共にまあばあちゃんに抱きついてきました。ひろ子ちゃんです。


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御陵さんに行こう!



まあばあちゃんは、トモちゃんが開いたグーグルのページに見入っています。トモちゃんは、
「ねっ、おばあちゃん、涼しくなったら、また一緒に御陵さんに行こう!」
「いいの? 嬉しいわぁ!」
「もちろん!」
トモちゃんは、まあばあちゃんをキュッと抱きしめて言いました。
「最近はちょっと暑いけど、まだ涼しい日もあると思うよ。」
トモちゃんがニッコリ笑いました。
「ありがとう! 世界遺産になったら、世界中からたくさんの人がいらっしゃるから、堺に住んでる者は遠慮しなくちゃいけないしね。」
さっきはあんなに嬉しそうにしてくれたのに、まあばあちゃんは、少し沈んだ表情になりました。
「どうしたの?」
「ううん。なんだか御陵さんを遠くに感じてきたの……」
「どうして?」
トモちゃんはキョトンとしています。
「よく分からないけど……」
「今までと変わらないように守っていくことが目的なんだから、何にも変わらないわよ。」
世界遺産に選ばれることは大変名誉なことですが、そのことで観光地化され、遺産の保全という目的を守ることを返って難しくすることもあるようです。
まあばあちゃんは、それを感じて不安に思っているのでしょうか?
とはいえ、堺は街です。色々なことを乗り越えてきています。解決する術を持っているはずです。
「おばあちゃん、心配ないわよ。御陵さんは今まで通り、みんなを守って下さるよ。」
「そうね。」
まあばあちゃんは静かに微笑むと、テレビ画面に映した御陵さんに小さく手を合わせました。


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グーグルで見た御陵さん



「ね! トモちゃん、御陵さん、世界遺産になれればいいのにねぇ。」
まあばあちゃんは目を輝かせて言いました。
「きっと、なれるわよ!」
トモちゃんが、ノートパソコンをテレビにつなぎました。
「どうしたの? トモちゃん」
地球の写真が写っています。
「見て!」
トモちゃんが言うと。テレビに移された地球がどんどん近づいてきて、日本列島が現れました。
「あら!」
紀伊半島が近づいてきて、『堺』の文字が浮いてくると……
「あれ、御陵さんじゃない? 側にある白っぽく見えるのは?」
「建物よ。」
「へぇー。」
まあばあちゃんはメガネをかけましたが、建物かどうかよく分かりませんでした。
「御陵さんは、こんなに離れてても、こんなにはっきり見えるの。」
「へぇ! 立派ねェ」
立派だとは思っていましたが、こんなふうに御陵さんを見れるなんて……!
まあばあちゃんは感動しました。
「もう少し、大きくするね。」
トモちゃんが御陵さんを大きくしようと、画面を操作していると、ふわふわっと動くので、なんだか鳥のように空を飛んでいるような気持ちになりました。

まあばちゃんの足は、もうシャキシャキ歩けないけれど、どこへでも行けそうな気になってきました。



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世界の宝



「ねぇ、トモちゃん、世界遺産ってどんなものなの?」
「世界遺産? どうしたの? 急に……」
「最近よく聞くでしょう? それにね、ほら!」
まあばあちゃんは『さかい広報6月号』を見せました。
「御陵さん、世界遺産になるのかしら?」
「登録されるには、御陵さんの事を世界的に見て素晴らしい事をユネスコの人に分かってもらわないと……」
「ユネスコ?」
「ユネスコは世界の平和のために教育や文化を守る活動をしてる国際機関のことよ。」
「ヘぇ……!」
まあばあちゃんは、そんな世界的な団体に認めてもらえるかと、急に心配になってきました。
(御陵さんは、日本にとっては素晴らしいものに違いないけれど、ユネスコの人はどう思うかしら?)
「もし、認めれるとどうなるの ?」
「認められると、世界の宝物として、この御陵さんや登録された古墳をきちんと守って行きましょうって義務付けられるの。次の世代に受け継いでいきましょうって!」
「そうなの!」
次の世代に受け継ぐ……まさに御陵さんにピッタリな言葉ではありませんか! 御陵さんが大好きなまあばあちゃんは目を輝かせました。
「それに、世界中の人が御陵さん会いに来ると思うよ。きっと、にぎやかになるね。」
「日本だけじゃなく、世界の御陵さんになるのね!」
「そう!」
トモちゃんがニッコリ笑いました。
気の早いまあばあちゃんはもう認めれたような気になって、ワクワクしてきました。


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世界遺産


さっき届いた6月号の『広報さかい』の一面に、『「百舌鳥・古市古墳群」世界遺産ミーティング』と大きく書かれていました。
(世界遺産? テレビでよく聞くわね。小笠原諸島や平泉とか……)
まあばあちゃんはメガネをかけて、ショボショボした目で一文字一文字、丁寧に読みます。
世界遺産といえば、世界的に素晴らしい景色や建物だと認められた表彰のように思っていたまあばあちゃんは、まさか自分の住んでいる堺の町にこんなお話があるなんて、嬉しい驚きです。なんだかドキドキしてきました。
(あら、百舌鳥って御陵さんがあるところだわ)
紙面に御陵さんの写真が掲載されているのですが、以前もらったパンフレットのように御陵さんを大きく映したものではないので、よく分からなかったようですね。
(あら、この写真、御陵さんじゃないかしら?)
まあばあちゃん、やっと気づきました。
写真の説明を確かめると、仁徳天皇陵とあります。あんまり文字をじっと見過ぎて、目がかすんできました。まあばあちゃんはメガネをはずすと、写真をそっと擦りました。
(御陵さんの際まで町がびっしり……)
空から写した写真を見ると、御陵さんは街に溶け込んでいるように見えます。
いつも民の事を思って下さった仁徳天皇様、時代の移り変わりをどんなお気持ちでご覧になってたのかしら? 
古代から現代に至るまで、ずっと堺を、日本を見守って下さった仁徳天皇様。仁徳天皇陵は日本の宝です。
(こんどは世界の宝になられるのですね。)
まあばあちゃんには世界遺産の事は難しくてよく分からないけれど、この堺の町に世界中の人が来て下さるのは嬉しい事だと思いました。


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運動会の翌日



まあばあちゃんはシルバーカーを押して校門の前に立っていました。
ひろ子ちゃんの事が心配で、様子を見に来ました。
ところが、
もう、8時だと言うのに、校門は閉じられたままでした。
子ども達の姿はまったくありません。シーンとしています。
ジロが心配そうにまあばあちゃんを見上げました。ミミちゃんも落ち着かない様子です。
(あっ、そうだったわ)
まあばあちゃんは気が付きました。運動会の翌日は休みなのです。
ホッとしたような寂しいような気持ちになりましたが、今日、ひろ子ちゃんは苛められることはないという事です。
まあばあちゃんは、校門から離れて行きます。
今頃は疲れて、まだ眠っているかも知れません。どの子もカケッコしたり、玉入れしたりと張り切っていました。
まあばあちゃんも、
「ひろ子ちゃんガンバレ!」
と大きな声で、たくさん応援しました。
トモちゃんの運動会の時と重なって、気持ちも若返ったようです。
「ジロ、ミミちゃん、明日もまた来てみましょうか。」
ジロとミミちゃんが笑いかけてきました。
ひろ子ちゃんは喜んでくれるでしょうか?


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ひとりぼっち……


オッチャン は朝、通学する子ども達に分け隔てなく、
「おはよう!」
と、声をかけますが、きちんと挨拶できる子、下を向いたまま知らんぷりする子、友だちと話していて気付かない子。
いろいろな子がいます。
そして、ひとかたまりの団体が先に行った後、毎日一人で走ってくる女の子がいます。ランドセルをカタカタ鳴らせながら……
「オッチャン、おはようございます!」
その女の子はいつも嬉しそうに笑って挨拶してくれます。
「おはよう! 気をつけて行きや」
(あの子はなんでいつも一人なんや?)
オッチャンはいつも気になっていました。

ある日、校門を出たところで、子ども達の集団と出会いました。
なんだか様子が変です。
子ども達は頭を寄せ合って一様に下を向いています。足元には……
(あれ、女の子がうずくまっとんちゃうか!?)
オッチャンは自転車のスピードをあげました。
「こら! 何しとるんや!」
オッチャンは、子どもの集団に大声で怒鳴りました。
子ども達はクモの子を散らすように方々へ逃げて行きました。
頭を押さえてうづくまっていた女の子は、いつも笑顔で挨拶してくれるあの子でした。
それが、オッチャンとひろ子ちゃんが話をするようになったキッカケでした。

ひろ子ちゃんは、同じクラスの子達に仲間外れにされていて、ひとりぼっちだと言いました。


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楽しかった運動会



「おかえり! どうだった? 運動会楽しかった?」
まあばあちゃんが帰ると、トモちゃんが出迎えてくれました。
「トモちゃんも来ればよかったのに……」
「うん。いいなと思ったんだけど、課題が残ってたの」
「課題? ああ、宿題ね。お勉強はキチンとしなくちゃね。」
トモちゃんがシルバーカーを片付けて、中の荷物を取るためにふたを開けました。
「あら、空っぽ」
「そうなの……」
まあばあちゃんが困ったような顔をしました。
「オッチャンね……」
「そうなの。晩ゴハンにするって、お弁当の食べきれなかった分を持って帰ってしまったの……。ゴミも片付けてくれて……。悪いことしたわ。簡単に食べれるようにと思って、オムスビはアルミホイルに包んだし……。それに、オニギリ、固くなってないかしら……」
「オッチャンは心配ないわよ。それよりその女の子、お昼一緒にできて良かったね。……わたしは、おばあちゃんが来るのが当たり前みたいに思っていたけど、いなかったら、運動会とか寂しかったよね……。お母さんたちいつも忙しかったもんね。おばあちゃん、ありがとう。」
「トモちゃん……」
トモちゃんが改まって言うものだから、まあばあちゃんは、なんだか胸がジーンとしました。


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お昼休み




まあばあちゃんは、運動会会場のあまりの熱気に、圧倒されました。
トモちゃんの時もみんな熱心に応援していましたが、今はイスを持参していたり、パラソルを開いていたりと、保護者席も賑やかです。
まあばあちゃんは、あまりの熱気に人酔いしそうでした。

小さな子がお遊戯しているので、ひろ子ちゃんがいるのではと探してみましたが、みんな同じ服を着ているし、まあばあちゃんの目はショボショボしていて、よく見えないしで、結局見つけられませんでした。
まあばあちゃんは他の保護者の人達の邪魔にならないように、校舎の側に立っていました。

お昼休みになりました。
ひろ子ちゃんは、まあばあちゃんを見つけて、飛んできてくれました。
「おばあちゃん、私の踊ってるの見てくれた?」
「見ていたわよ。上手だったわよ。」
(やっぱり、さっきの子ども達の中に、ひろ子ちゃん、いたんだわ……)
ひろ子ちゃんがガッカリすると思うと、本当の事を言えないまあばあちゃんでした。
無邪気に笑うひろ子ちゃんを見ていると、まあばあちゃんは申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
「わたし、オッチャンを呼んでくるね!」
ひろ子ちゃんは、オッチャンがどこにいるか知っているらしく、走って行きました。
しばらくすると、オッチャンがひろ子ちゃんに手を引っ張られて、やってきました。
「ばあちゃん、すまんな。一人で大変やったやろ。ばあちゃんが学校に来てたんが見えてたから、早よ、ばあちゃんとこに行こう思ってたんやけど、次の当番の人がなかなか来んでなぁ。」
「早く食べよう! お腹すいたよ!」
ひろ子ちゃんは待ちきれない様子です。

三人は、保護者の人達から少し離れたところにビニールシートを敷いてお弁当を食べることにしました。
「オムスビおいしいね! タマゴ焼きも美味しい!!」
ひろ子ちゃんは、口いっぱいに頬張って、幸せそうな顔をしていました。
「ひろ子ちゃん、今日、母ちゃん、運動会に来る言うてたんちゃうか?」
「うん。お弁当、作ってくれるって約束してたんやけど……」
「具合悪なったんか?」
「……違うよ。朝になったら電話が鳴って、急にお仕事に行かなアカンようになってん。」
ひろ子ちゃんの声が小さくなりました。
「そうか……。母ちゃん、大変やな……」
(今、聞かなくてもいいのに……)
まあばあちゃんも気になっていましたが、お弁当を食べてる時でなくてもいいのにと思いました。
「ひろ子ちゃん。ウインナーは好き?」
ひろ子ちゃんの気持ちを変えようと、まあばあちゃんが聞くと。
「大好き!!」
ひろ子ちゃんは嬉しそうに返事しました。
「はい、どうぞ!」
「おばあちゃんのお弁当、すっごく美味しい!! こんなにおいしいの初めて!!」
「せやで、ばあちゃんのメシは世界一や!」
オッチャンも幸せそうな顔をして、オムスビをバクっと頬張りました。



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お昼はひろ子ちゃんと!



「おたく、父兄と違いますやろ。差し出がましいと思いますで。だいだい……」
またまた男の先生です。オッチャンが遮りました。
「先生、わしな、今日、見守り隊の当番ですねん。今から、そこの校門で見張り番するんですわ。それで、このベスト着てますねん!」
「これは、日曜にすみませんなぁ」
男の先生は、申し訳なさそうに言いました。
「わしもこの子とお昼におりますよって、かましませんな? それともこの子だけ昼飯ぬきでっか?」
これには男の先生も黙りました。次の言葉が見つからないようです。
ひろ子ちゃんは、二人の様子にビクビクして、うつむいています。
若い女の先生が、思い出したように、
「先生、そろそろ先生の学年の演目では?」
「おお、そうやった。失礼します。」
男の先生は、助かったとばかりに小走りに行ってしまいました。

男の先生がいなくなっても、ひろ子ちゃんはうつむいたままです。
(ひろ子ちゃん、運動会でお弁当が食べたかったのね……。)
でも、小さなひろ子ちゃんには難しくて、結局作ることが出来ずに学校に来たのでしょう。
(かわいそうに……)
「ひろ子ちゃん。ひろ子ちゃん。お顔あげて。」
ひろ子ちゃんは、少しだけ顔をあげました。
「お顔、ちゃんと見せて」
ひろ子ちゃんは目にいっぱい涙をためています。
「じゃあ、ひろ子ちゃんは何年何組ですか? おばあちゃんに教えて下さいね。」
「一年一組 青木ひろ子です。」
ひろ子ちゃんはヒックヒックしながら答えました。
「まあ、かしこいわね。じゃあ、ひろ子ちゃんのカケッコはいつですか?」
「お昼休みの後、スグです。」
「じゃあ、おばあちゃんは、お弁当を作ってきますからね。お昼に一緒に食べましょう。」
「来てくれるの?」
ひろ子ちゃんは、さっきの涙はどこにいったのか太陽みたいな顔をしています。
「そうよ!」
「オッチャンも一緒におるで、ばあちゃん、わしのも作ってや!」
「はいはい」
まあばあちゃんはニコニコ顔で答えました。
「おいしいオムスビをたくさん作って来ましょうね。じゃあ、ひろ子ちゃんは先生と一緒に行くのよ。」
まあばあちゃんの言葉に、ひろ子ちゃんはスキップしながらクルクル回りました。
「あの~。本当にご迷惑をかけました。」
校長だと名乗った白髪頭の男の先生が、まあばあちゃんに謝りました。
「いいえ、私こそ出過ぎたことをしてしまって……」
まあばあちゃんは、深々と頭を下げました。

ひろ子ちゃんの行った方をもう一度見ると、若い女の先生と手を繋いでスキップしていました。まあばあちゃんの視線に気づいたのか、ひろ子ちゃんは振り返って、大きく手を振りました。
まあばあちゃんもひろ子ちゃんに手を振りかえしました。


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ごめんなさい



「ごめんなさい。ごめんなさい。今日は運動会だから、お弁当作ろうと思って遅くなりました。」
女の子はグスングスンと泣きながら答えました。でも手には何も持っていません。
「弁当なんか持ってへんやんか。」
さっきの男の先生です。女の子は小さく震えました。
(ほんとうにこんな小さな子になんて言い方するんだか……)
まあばあちゃんは、ひとこと言ってやりたくなりましたが、ここで言い合いしてもこの男の先生に伝わるはずもないので、やめました。それよりもこの子の気持ちを明るくすることの方が大切です。でも、どうしたらいいでしょう……。
「ひろ子ちゃん、先生と一緒に行きましょう。」
若い女の先生が優しく女の子に言いました。ひろ子ちゃんと呼ばれた女の子は、まあばあちゃんにしがみついて離れません。
ジロが心配そうに女の子の手をペロペロとなめました。
「あはは、くすぐったーい」
ひろ子ちゃんはキャッキャッと笑い出しました。
「ひろ子ちゃん、お弁当の事なら心配しなくていいのよ。先生とお弁当を分け合いっこしましょう。」
若い女の先生が屈んで膝を折ると女の子の目線になって言いました。女の子の顔がパァっと明るくなりました。
「そら、アカンで! 他の父兄になんや言われるで!」
さっきの男の先生です。その言葉にひろ子ちゃんはしゅんとなりました。
まあばちゃんは思わず、
「じゃあ、こうしましょう。おばあちゃんがひろ子ちゃんのお弁当を作って来ましょうね。そのかわり、ひろ子ちゃんの一生懸命走っているところを見せて頂けるかしら?」
まあばあちゃんがひろ子ちゃんの頭をやさしく撫でて言うと、
「うん!!」
ひろ子ちゃんは、元気よく嬉しそうに言いました。


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オッチャンと男の人



「ばあちゃん、どないしたんや!」
その時、後ろから声をかけられました。オッチャンです。まあばあちゃんが口を開くより先に、さっきの男の人が、
「ああ、見守り隊の……、いつもすんませんなぁ」
とペコペコ頭を下げました。
「お知合いなの?」
「わし、子どもらの通学の時、道に立ってるやろ? それでやねん。」
オッチャンと話していると、まあばあちゃんの後ろを大きな荷物を積んだ自転車が、勢いよく校門を通過します。
「ばあちゃん、危ないで。」
オッチャンはまあばあちゃんを校門の端っこに寄せると、教師と名乗る男の人に、
「先生、どないしたんですか? このばあちゃんは、わしの母ちゃんみたいな人ですわ。もし、なんやったら、わしが話を聞きますよって……」
オッチャンがそう言うと、男の人は恐縮したように頭をかいて、
「いやいや、なんでもないんですわ。ただ、この子が遅刻してきたから、問いただしていたら、このおばあさんがいきなり口を挟んできはって……」
まるで別人です。さっきまでキッと眉をあげて怖い顔をしていたのに、人のよさそう顔になってヘラヘラしています。その上、まあばあちゃんを出しゃばりの悪者にする気です。
「先生なぁ、先生は知らんのかもしれんが、この子の母親はな、病気がちでな。この小さいのにこの子が家の事をしてるんですわ。せやから、今日のところは許したってくれませんか。」
おっちゃんが、そう言うと、男の人はそんな大げさなと言わんばかりに両手を小さく上げて、困ったような顔をした。
「いやいや、違うんですわ。遅れてきたのを注意しただけで……。大層なことではないんですわ。」
オッチャンと男の人が話していると、白髪頭の男の人と若い女の人が走ってきました。
女の子は小さな体をさらに小さくして、まあばあちゃんに抱きついてきました。
「こわくないわよ。涙をふいて、遅くなった理由をここにいる方たちにお話しするのよ。」
そう言って、まあばあちゃんは女の子の涙をハンカチでそっとぬぐうと、キュッと抱きしめました。


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学校のもん



「ちょっと、こんな小さな子に、言い方ってもんがあるじゃありませんか?」
女の子がまあばあちゃんの後ろに隠れました。
「おたく、なんや」
「人の名前を尋ねる前に、ご自分が名乗るべきだと思いますよ。」
まあばあちゃんは男の人の目をしっかり見て言いました。
「この学校のもんや」
「もんって、先生ではないんですか?」
「学校のもん言うたら、教師に決まってるやないか」
「では、お尋ねしますが、何年何組のなんという名の先生ですか?」
「なんで、そんなん部外者に言わなアカンねん。」
男の人は、名前を聞かれて少しひるんだようでした。そして、胸から下げていたカードのようなものを隠しました。
「教師というのに名乗ることもできないんですか。それと、部外者と言いますが、うちの孫もこの小学校を卒業してるんですよ!」
まあばあちゃんは珍しく引く様子を見せません。
自分をこの小学校の先生だという男の人は五十才くらいにみえます。
あらためて男の人を見ると、言葉遣いも酷いですが、服装もこれまたひどい……。子ども達の晴れ舞台のはずの運動会に、あたまはボサボサ、ヨレヨレで膝の抜けたジャージ。注意する人はいないのでしょうか……。
(なんと情けない……。これで教師が勤まるのかしら……。)
「とにかく、帰ってんか。」
「こんな小さな子にそんな大きな声を出して怒っているのを目の前にして、ほっとけません! 教師を名乗るなら、先に理由を聞いて、怒るのはそれからでしょう。それを見るなり大きな声で怒鳴って……」
まあばあちゃんも教師という男の人も一歩も引く気配がありません。
緊迫した空気が流れます。


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堺の町のまあばあちゃん

Author:堺の町のまあばあちゃん
堺の町に住む、ひとりのおばあちゃんのお話です。
住み慣れた町の人々との交流や孫のトモちゃんや犬のジロとの生活を通して力強く生きていく姿を物語に書きたいと思います。 
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