行基様


トモちゃんがこたつにパソコンを持ってきて、何かしているようです。
ジロとミミちゃんはトモちゃんと一緒にノートパソコンをのぞいて、クンクンと興味深げに画面のニオイを嗅いでいましたが、しばらくすると、まあばあちゃんの膝の上に頭を置いて眠り始めました。ジロちゃんはトモちゃんの膝の上にシッポを置いています。トモちゃんはシッポを時々撫でながら、パソコンの画面を一所懸命見ていました。お勉強でしょうか?
「ねぇ、ともちゃん、東大寺は行基様と言う立派なお坊様が開山されたの知ってる?」
 お勉強かも知れないけどトモちゃんが側にいると、ついつい話しかけてしまう、まあばあちゃんです。
「知ってるよ。四聖って言うんでしょ?」
「四聖? 行基様が東大寺を建てられたのは知ってるけど……」
まあばあちゃんは、もっけな顔をして言いました。
「“東大寺は聖武天皇が発願されて、四聖によって開山された。”って書いてある。
“大仏を発願した聖武天皇と良弁僧正、開眼供養を先導した菩提僊那、そして! 大仏の造営の勧進を行った行基の四人の功績を讃え、この寺を「四聖建立之寺」とも「金光明四天王護国之寺」ともいう。”って、ほら……」
トモちゃんはパソコンの字を大きくして、まあばあちゃんに見せました。画面には大仏様が画面いっぱいに映し出されていましたが、すぐに大きな字の説明書きが出てきました。
「ほらね、ここに書いてるよ。」
「四聖……」
まあばちゃんは、確かめるように呟きました。
「トモちゃん、行基様はね、堺の家原寺でお生まれになったのよ。」
「へぇ、堺の人なの? すごい」
「トモちゃんの小さい時、みんなで揃って狭山遊園地に行ったでしょう。あそこに大きな大きな池があったでしょう。」
「覚えてるよ。大きな池だったね」
「あの大きな池は行基様がお作りになったのよ」
「へぇ!」
トモちゃんは驚いた様子で、キーボードをカタカタ押しています。
「あっ、出てきたよ。池の事も書いてる。ほら、ここ……」
トモちゃんがディスプレイの表示されている個所を指さしました。
画面には、大きな文字で行基様が残した功績がたくさん書かれていました。
「一生の間にこんなに立派な行いをされたのね!」
まあばあちゃんは目を輝かせました。
一つ一つが人々のために尽くされた立派な事ばかりでした。
まあばあちゃんはパソコンの画面に手を合わせていました。その様子を見ていたトモちゃんは、
「あったかくなったら、家原寺に行ってみようよ! おばあちゃん」
「わぁ、嬉しいわ」
まあばあちゃんは顔をクシャクシャにして笑いました。


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大横綱大鵬の国民栄誉賞



「嬉しいわ。大鵬が国民栄誉賞を頂くんですって!」
まばあちゃんは自分の事のように喜んでいます。
まあばあちゃん、本当に嬉しそうに目を細めてテレビを見ています。
大鵬の美しい奥さんの傍らで、いま日本で一番強い大横綱白鵬関が大鵬の大きな遺影を持って、堂々と立っていました。
その姿のなんと素晴らしい事でしょう。
「こんな場面、滅多にお目にかかれないわね。トモちゃん。長生きするものね」
「おばあちゃん、大鵬の事、大好きだもんね」
活躍している当時を知らないトモちゃんも、おばあちゃんのお話を聞いていて大鵬の事はよく知っています。
ずっと昔にお相撲さんを辞めていて、トモちゃんの時代の人じゃないのにです。
ずっとずっと語り継がれていくそんなお相撲さんの一人です。
トモちゃんは小さな頃から、見たこともない大鵬の事を尊敬しています。
それは、まあばあちゃんがいつも目を輝かせて、大鵬のお話をするから。

強くて、美しくて、皆に夢や希望を与えることが出来たお相撲さん。
素晴らしいです。

「ねっ、トモちゃん。安倍総理大臣のなんとも嬉しそうなお顔を見て! きっと安倍首相も大鵬が大好きなのね!」
まあばあちゃんはまた嬉しそうに言いました。
「おばあちゃん、良かったね。大好きな人が国民栄誉賞をもらえて! 本当に良かったね。」
「ほんと、私たちの誇りだったもの。本当に良かったわぁ」

まあばあちゃん、春に先駆けて、とっても嬉しい知らせが舞い込んできましたね。


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東大寺の思い出



まあばあちゃんは、足がまだまだ達者な頃、よくトモちゃんを連れて、東大寺にお参りしました。
近鉄奈良駅を降りると、小さなトモちゃんの手をひいて、興福寺、春日大社、奈良公園、若草山、東大寺と春に秋にと訪れていました。
なかでも小さなトモちゃんは奈良公園のシカさんにヌカせんべいをあげるのが大好きでした。
「おばあちゃん、わたしのオセンベイ食べてくれた!」
と喜んでいました。
奈良公園のシカさんは神のお使いだから物静かで美しい目をしています。

東大寺でまあばあちゃんが拝観料を払っている時、シカさんがその横を通り過ぎて境内には入って行きました。
「おじちゃん、シカさんがお金を払わないで入って行きましたよ!」
と、トモちゃんが不思議そうに言いました。おじちゃんは笑って、
「シカさんはうちの子やから、お金はいらないんよ」
「いいな! シカさんは! 私もこんな大きなうちの子になりたいな!」
と、トモちゃんが言うと、みんな大笑いしました。
おませなトモちゃんに困ってしまった、まあばあちゃんでした。

仁王様を見ておっかなびっくり。
大きな大仏様をトモちゃんは口をあんぐり開けて見上げた後、
再びシカさんにヌカせんべいをあげて、キャッキャッ言って楽しんでいました。

ここは何度訪れても、いい思い出が出来る場所です。まあばあちゃんは、近頃は足が悪くて東大寺からだんだん遠のいてしまいましたが、

目を閉じれば、

お優しい大仏様の御顔、ヌカせんべいをあげているトモちゃんの姿が浮かんできます。
それに、帰り道にトモちゃんとお土産に買った、おいしいお餅屋さん、

春は、すぐそこです。


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東大寺二月堂修二会



まあばあちゃんの町の人達は、
「お水取りが終われば春が近いですね」
と“お水取り”の事を身近な挨拶の言葉に取り入れていますが、“お水取り”は奈良の東大寺という大きなお寺の中の二月堂で行われるのです。
どうして東大寺で行われる行事が堺の町で挨拶に使われるのか分かりませんが……
“お水取り”という言葉を聞くたびにもう春はそこまで来ているという感じがします。
まだまだ風は冷たくて、空気もひんやりしているのに……

トモちゃんは小さな頃
「ねぇ、おばあちゃん、東大寺の“お水取り”ってどういう意味?」
この季節になるとまあばあちゃんによく聞いたものです。
「それはね、神聖な井戸から年に一度だけ、水を汲み上げてお祈りするのよ。 立派なお坊様達が儀式に法って私たちのためにお祈りしてくださるのよ。」
「私たちのため?」
「そうよ。神様はいつも私たちを守って下さってるのよ。トモちゃん」
「どうして、こんなに寒い時にするの?」
「それはね。一年中で一番清らかな水が、井戸から湧き出るからじゃないかしら。その神聖なお水を徳を積んだ立派なお坊様の手で汲み上げて、いつも私たちを守って下さいって神様にささげると神様が一番喜んでくださるからじゃないかしら。おばあちゃんはそう思っているの」
とまあばあちゃんは嬉しそうに説明してくれました。

まあおばちゃんは今もそう信じていますが、大きくなったトモちゃんは、そうでないことを知っています。

でも、トモちゃんは、まあばあちゃんの“お水取り”の話の方が大好きです。
とっても温かくて素敵です。
“東大寺のお水取り”という言葉にピッタリのように感じます。

神様が大好きなまあばあちゃんは今年も“お水取り”の日を待ちわびています。


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お水取りが来るまで



堺の町は今日も寒くて冷たいです。もう少しで三月だというのに……
「寒いね。おばあちゃん、お散歩気を付けてね」
トモちゃんがまあばあちゃんの首にマフラーを巻きながら、心配して言いました。
「奈良の東大寺のお水取りまでの辛抱ね」
まあばあちゃんはこの時期なると、いつもこう言います。
「おばあちゃん、あんまり寒かったら、お散歩に行ったらアカンよ。私が行くからね。」
「有り難うね。でもね、この歳なると、いつもやってることをお休みするとなんか一日中落ち着かないのよ。それにお友達もたくさん出来たからお休みすると、心配してくださるでしょう?」
まあばあちゃんは嬉しそうに笑いました。トモちゃんにリードをつけてもらったジロとミミちゃんは“行こう! 行こう!”と急かします。
堺の町は、もう春が近くなった今頃の方がグーンと冷えてきます。
一番雪の降るのもこの時期です。
まあばあちゃんの住む堺の町は、春の前にもうひと踏ん張り! 今から最後の寒さに耐えて、三月一日から始まる東大寺二月堂のお水取りを待つのです。

まあばあちゃん、風邪ひかないように気を付けてね。


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コナン君、再び


次の日、コナン君はお母さんと一緒に、まあばあちゃんと昨日会った場所で待っていました。
「昨日は朝早くからお騒がせして、本当にすみませんでした。」
コナン君のお母さんは恥ずかしそうに笑っていました。
「あら、コナン君、今日は昨日の可愛いコート着てないの?」
コナン君のお母さんは照れ笑いしながら、
「あのコナンのコートは私の手作りでしてね。よくよく考えたら、おかしなものを着せていたなって、今になって汗が出てきます。」
とコナン君のお母さんが言いました。
「今日はちゃんとお友達になっていただきたくて、ここでお待ちしていたんです。この子たちの名前も教えていただくのを忘れてしまって……」
とコナン君のお母さんはジロを撫でながら言いました。
「ジロとミミです。」
とまあばあちゃんがチョンと飛びついてきたコナン君の頭を撫でながら言いました。

ひんやりと冷たい朝に新しいお友達が増えました。
ジロとミミちゃんもとても嬉しそうにまあばあちゃんの足元でコナン君と遊んでいます。


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めい探偵犬 コナン君



まあばあちゃんがいつものようにジロとミミちゃんのお散歩をしてると、向こうから黒いマントを着た奥さんとこれまた黒いマントのお洋服を着せられたダックスフンドの可愛い小犬が歩いてきました。
「おはようございます。」
まあばあちゃんはシルバーカーを押しながら、その奥さんに声をかけました。
「おはようございます。今日は冷たいですね。」
奥さんも親しそうに返事を返してくれました。
「私、1週間前に引越して来たのでこの町の事がよく分からないですよ。本当は今も道に迷って困ってるんです。助けていただけませんか?」
「まあ、それは大変ですね。あの、ご住所は?」
「それが、えーと…東とか西とか…どうだったっけ?」
その奥さんは住所を思い出せず、本当に困っている様子でした。
「え~と、え~と……」
困っている奥さんをよそに、黒いマントのダックスフンド君はジロとミミちゃんに嬉しそうにジャレついています。そんなダックス君を見て、まあばあちゃんはハッと思いつきました。
「この子の名前は何と言うんですか?」
「コナンといいます。ほらテレビアニメで人気の名探偵コナン君からもらったんですよ。大きな目がどこかコナン君に似ていませんか?」
この奥さんはコナン君の事が大好きなんですね。迷子になっているのも忘れて、それは嬉しそうに返事しました。
「じゃあ、コナン君、お家に帰りましょうね」
まあばあちゃんがコナン君にそう声をかけると、コナン君はクルッと奥さんの方を振り返りました。その様子を見て奥さんも気付いたのか、コナン君を抱き上げて、
「コナン、お母さん、お家が分からなくなったの。教えて」
そう言って、コナン君のお鼻と自分のお鼻をコツンとしました。
コナン君を道に降ろすと、
コナン君はグイグイ奥さんを引っ張っていきます。
「あら、ここ私の家です。ありがとうございます。」
奥さんは大喜びです。
「いつも穴を掘ったり靴をカジッたりばかりなので、こんなことが出来るなんてビックリしました!」
「コナン君は名探偵ですものね。」
まあばあちゃんも嬉しくなって、コナン君の頭を撫でました。
コナン君も嬉しそうにシッポをパタパタ振っています。
奥さんも思いがけず早く家にたどり着けて、とっても嬉しそう! 
コナン君の話が止まりません。

まあばあちゃんの住む堺の町に、良い人が引越してきてよかったね。


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お春ちゃんの本心


「それに、ご近所の人にあの人誰って聞かれて、どう答えたらいいもんか困ってたんよ。邦子が昭雄さんに車に乗せてもらえんかったのを、まあちゃんに見られたのも、どうやって言い繕うたらええか……頭がキリキリしたわ。」
お春ちゃん、いつの間にか邦ちゃんのご主人の呼び方が〝昭雄″から〝昭雄さん″になっています。
「邦子、もうお金が苦しいから、昭雄さんにあの女の人に払うのを安うしてもらうか成功報酬にしてほしいて相談したらしいんよ。そしたら、口をきいてくれへんようになったって…… 」
まあばあちゃんは、息を飲みました。
「昭雄さんが言うには、ものすごい可哀想な人やから、我慢してほしいって……。最初は5万円やったらしいわ。それがよ。邦子が相談した次の月から7万円やて……かえって値上がりしたんよ」
まあばあちゃんは言葉を失ってしまいました。
「それだけやないのよ。夕ご飯の事もいちいち注文をつけてくるんよ。『お宅、肉料理ばっかりだから、肥えてきて困るので魚にして下さい。』って言うてきてんよ。ビックリしたわ。それを邦子、昭雄さんに話したらしいわ。そんなん言う人間おらんやろと邦子が話を作ってる言われたって……」
そんな厚かましい人が、この世にいるなんて、ビックリしてしまいます。でも、薄ら笑いを浮かべていたあの姿から想像がつきました。何とも嫌な女の人です。
どうして昭雄さんはそんな女の人を大切にするんでしょうか?
まあばあちゃんには理解できませんでした。
「お春ちゃん、それいつ聞いたの?」
「昭雄さんに何を言われてたか聞いたのはホントに最近。……邦子、まあちゃんと話して踏ん切りがついたみたい。 」
「……そう」
「まあちゃん、ありがとう。わたし、本当に目が覚めた。一番大事なのは邦子なのに……。ホンマにアホやったわ。」
お春ちゃんがまあばあちゃんの手をキュッと握りました。

邦ちゃんだけでなくお春ちゃんも決心するなら、本当に流れは変わるかもしれません。
まあばあちゃんはお春ちゃんと邦ちゃんがこれ以上苦しみませんようにと、切に願いました。


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昭和の大横綱、大鵬


邦ちゃんとお話ししてから、数日後、
お春ちゃんとお散歩で会いました。
「まあちゃん! 会いたかったわ。」
「お春ちゃん……」
まあばあちゃんは、先日、邦ちゃんに思い切ったことを言ったので、少しドキドキしました。
(お春ちゃん、怒ったかしら……。ダメね。邦ちゃんに頑張れって励ましておいて、自分はビクビク……)
「『大鵬』が亡くなったわねぇ」
「え? ええ、そうなのよ。大好きなお相撲さんだったわ。あんな綺麗なお相撲さんはいないわ。」
てっきり邦ちゃんの事を言われると思っていたのに、いきなり大鵬の話題で、まあばあちゃんはドギマギしました。
「本当に……。巨人、大鵬、目玉焼きってね。あんなに日本中から愛されて誇りに思われて。本当に立派やったわ。でもねぇ、まあちゃん、私もっと驚いたことがあるの。」
お春ちゃんは感心したように言いました。
「なあに?」
「私、大鵬が脳梗塞で大変だったこと知らなかったんだけど、そのリハビリの様子を聞いてビックリしたの。」
「私もテレビで見て驚いたわ。すごいリハビリに励んでいたとか。日本一の人が人目もはばからず、リハビリをしていたなんて、どんな思いだったでしょうね。」
「それなのよ。まあちゃん! 私、邦子からまあちゃんとの話を聞いて目が覚めたの! 離婚したらカッコ悪いとか、今さら昭雄さんの仕事がダメなんてことになったら、今までのお金はどうなるのとか! そんなことばっかり気にして! ようやく気が付いたんよ! 思い切って心の中の荒療治をしなければ駄目だと!」
「お、お春ちゃん?」
お春ちゃん、この前とはまるで別人です。まあばちゃんは面喰ってしまいました。
「私、邦子が辛い思いをしているのを知ってたんよ。でも、見て見ぬふりしてたんよ。もし仕事が成功すれば、女の人も来なくなるし生活も楽になるって!」
「お春ちゃん」
「私ねぇ、ご飯の用意を手伝いに邦子の家に行ってるの。あの女の人、帰り際になるとキッチンの隅でジーッと立って動かないの。なんでと思う?」
「さ、さあ、分からないわ。……お茶が欲しいとか?」
「違うわよ! お土産よ! お土産を渡すまで動かないのよ!」
「まあ!」
まあばあちゃんは驚きました。そんな人がいるなんて……。
「それに、邦子ったら、女の人が帰る時いちいち送り出すから、やめといたらって言うたらね。昭雄さんがそうしないと怒るって言うの!」
まあばちゃんの体は固くなってしまいました。
邦ちゃんからお話を聞いた時も驚きましたが、まだほかにも酷い事があったのです。
「……それに、まあちゃんには前にあんなこと言ったけど、もう私の貯金もほとんど無いの。もうあの女の人に渡すお金なんて、もう無いのよ……」
お春ちゃんの目からポロポロ涙がこぼれました。


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梅にウグイス



まあばあちゃんは今朝も、ジロとミミちゃんと一緒にシルバーカーを押してお散歩しています、
あちらのお家の塀越しに、こちらの家の庭先に赤や白の梅の花が満開です。
―――ホーホケキョ、ホーホケキョ―――
ウグイスもあちらの梅の木にもこちらの梅の木にも美しい声を競ってい鳴いています。
まあばあちゃんは、トモちゃんの小さな頃を思い出しました。

「ねぇねぇ! どこで、鳴いてるのかな? ウグイスさ~ん、どこにいるの~?」
小さな頃のトモちゃんは、梅の木に溶け込んだウグイスを見つけられなくて、一所懸命探していました。
「あ! おばあちゃん! 見て見て! あそこあそこ! ウグイスさ~ん、こんにちは!」
やっと見つけたウグイスに大きく手を振っていました。
「♪梅は咲いたが桜はまだかいな~♫」
まあばあちゃんが節をつけて歌うと、トモちゃんも合わせて一緒に歌います。
「♪梅は咲いたが桜はまだかいな♫」
あんまり大きな声で歌うものだから、まあばあちゃん気恥ずかしくてキョロキョロ周りを見てしまいましたが、
「可愛いお孫さんですね」
通りすがりの奥さんが、トモちゃんを褒めてくれました。
「有り難うございます。年寄りなもので……。もっと可愛い歌を歌わないと、とは思ってるんですが……」
「そんなことありませんよ。とっても楽しそうで、こっちまでいい気持ちになります。」
ニッコリ笑って言ってくれました。

まあばあちゃんはホッコリした気持ちになって、
「♪梅は咲いたが桜はまだかいな♫」
小さな声で口ずさみながら、シルバーカーを押しました。


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邦ちゃんの決心


「……昔から、主人は日常の小さなことは気軽に応じてくれるのですが、本当にここは大事! というところでは相談にならなくて、すぐに話を切ってしまうんです。ハサミでチョン切るみたいに……」
邦ちゃんは、とつとつと言いました。
「……ねぇ、邦ちゃん、差し出がましい事を言うようだけど、嫌なものは嫌だと言ってみたら?」
「え?」
「ご飯を作ったり、お土産を渡したり…。そんなことするのは嫌だとお断りしてみたら? もうたくさん酷い事を言われてしまったんだもの。こうなったらドンと構えてバンと言ってみるの」
「でも、そう言う事言うと、怒り出すんじゃ……」
「もう、とことんの所まで考えているんでしょ? だったら言うだけ言ってみたら? 言われっぱなしじゃ悔しいと思うわよ。ずーっと引きずるものよ。わたしがそうだもの」
「悔しくて忘れられない事……、ありましたか」
「あるわよ。こんな歳になっても、なかなか忘れられないものよ。」
そう、我慢ばかりしていると、どんなに年数が経っても、少しの刺激で舞い上がる汚泥のようにしつこく自分の中に残ります。
正直、今言ったことが良かったのか悪かったのか分かりません。
でも、このままご主人の言うままにしていても、
お春ちゃんと邦ちゃんは身も心も、ボロボロになるのではと思ったのです。
邦ちゃんはしばらく黙りこんでいましたが、自分を勇気づけるように頷いてから、
「私、決心がつきました。嫌なものは嫌だと、主人にきっぱりと言います。母にも、お金の工面で苦労をしてほしくありません。」
「そうよ。邦ちゃん、人間って弱いものよ。でも、一つの決心から大きく周りが変わることもあるわ」
まあばあちゃんは邦ちゃんの言葉にホッとしました。いろいろお話しているうちに心の整理がついたのかもしれません。
心持ち明るい顔になっています。
「お話聞いて頂いてよかった。有り難うございます。元気が出てきました。母はいいお友達を持って、本当に幸せだなって思います。」
「みんな、お互い様よ。」
「本当に有り難うございます。」
そう言って邦ちゃんはまあばあちゃんの手に自分の手を重ねました。まあばあちゃんのシワシワの手と邦ちゃんの家事で荒れたガサガサの手―――。
でも、心はとってもあったかくて優しくて傷つきやすいのです。
邦ちゃんがキュッとまあばあちゃんの手を握りました。その手に邦ちゃんの強い決心を感じました。闘う決意をしたことで、つらく厳しい事がたくさんあるでしょうけど、心を強く持つことで、流れが変わるかもしれません。

―――ホーホケキョ、ケキョ、ケキョ―――

どこかで鶯が鳴きました。
もうあちこちのお家の庭で梅の花が満開です。風はまだまだ冷たいけれど、春はもうそこまで来ています。
(邦ちゃん、気をしっかり持って、頑張って!)
まあばあちゃんは邦ちゃんの手を力強く握り返しました。


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邦ちゃんの苦しみ


「他にもあります。」
邦ちゃんは淋しい笑顔で続けます。
邦ちゃんの言葉にまあばあちゃんは、ただ黙って頷くだけでした。
「あの女の人に、ご主人はいつも奥さんに『騙された、騙された 』と言ってるって、言われたんです。私、そのとき、頭の中が真っ白になりました。もう主人とはこれで終りだと思いました」
実際の家の中のことなんて、本当に分からないものです。
幸せだと思っていた邦ちゃんが、こんなに苦しんでいたなんて。
「私、昔から主人によくそう言われていたんです。
『騙された、騙された』って。私が年上だから若い自分は騙されて結婚して不憫だと。きっと主人は自分にふさわしいと思う人が後から現れたのかもしれませんね。私は好きあって結婚したと思っていたんですが、私の思い込みだったようです。……でも、まさか、主人の連れてきたあの女の人に言われるなんて思いもしませんでした。」
「邦ちゃん……」
「私、小さい時の病気で耳が聞こえにくいでしょう? あの女の人、声が低くて小さいので、よく聞こえないんです。それで、『すみません。耳が悪いものですから、もう1度言っていただけますか?』ってお願いしたら、そう言われて……。聞き返さなければ良かった……」
そう言って、邦ちゃんは両手をキュッと握りました。
「母は、昭雄さんのことをとても自慢にしてましたが、私には負担な部分も多かったです。学歴の差って厳しいものがありました。」
邦ちゃんの苦しみは深く、かけられる言葉が見つかりません。
「ただ、母に申し訳なくて……。今も昭雄さんのことを信じて、お金の工面ばかりしている母の姿を見ていると、いじらしくて涙が出てくるんです。当の主人はまた退職金があると思って、母の苦労なんて全く分かっていないのに……!」
邦ちゃんはそう言って、滲んだ涙をそっと、手のひらで拭きました。
(邦ちゃんは、お春ちゃんの事を思って、思い切ったことが出来ないのね。)
まあばあちゃんは、いつも自分の事は後回しで、家族思いの邦ちゃんを痛々しく思いました。
「ねえ、邦ちゃん。お春ちゃんの夢を壊したくないから、何もかも一人で我慢しているの? 」
邦ちゃんの返事はありませんでした。
ただ、涙をこらえていました。


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ご主人の仕事



「じゃあ、邦ちゃんはご主人の仕事に希望を持っていないの。」
「はい。希望なんて始めから持っていません。定年退職してしばらくして、普通にテレビを見て会話してるのに、いきなり怒り出したり、他にもいろいろ……。どうしたのかと戸惑っていました。それから暫くして、初めてあの女の人を家に連れて来た時、なんとも言えない嫌な感じがしました。どういう人か主人は何も教えてくれませんでしたが、この仕事は成功しないだろうと思いました。」
まあばあちゃんもあの女の人を見ていなければ、励ましの言葉も掛けられたと思うのですが、見ているために、なかなか言葉が見つかりませんでした。
「……邦ちゃん、邦ちゃん、でもね……」
「……もう、駄目だと思います。母には申し訳ないと思っていますが……」
まあばあちゃんは、邦ちゃんの言葉に飛び上がって驚きました。
「駄目? どういう意味? ちゃんとお話ししてみたの?」
「でも、もう本当に駄目だと思っています。それに金銭的にもうやっていけないんです。」
「……邦ちゃん……」
まあばあちゃんの声は震えていました。
「退職したときから、二百万、三百万とどんどんお金を引き出して使ってしまって……。何に使うのか話してもくれませんでした。」
「それは、その特許とかいう今のお仕事のため?」
まあばあちゃんは、聞きました。
「主人は、そう言いますが……」
と、邦ちゃんは疲れたように笑いました。
「でもね、邦ちゃん。お仕事、どこまで進んでるかぐらいは聞いてみたら?」
「……聞いてみました。……」
邦ちゃんの目に涙が滲んできました。
「……主人とあの女の人に食後のコーヒーを持っていったとき、女の人は何をするでもなく天井をジーッと見ていました。私は、『どんなお仕事ですか?』って聞きました。」
「そしたら?」
「いきなり、主人に『あっちへ行け。』と怒鳴られました。あの女の人は怒鳴られた私を見て、ニヤッと笑いました。追い打ちをかけるように『早う行け!』と言われました」
まあばあちゃんは、その話を聞いてゾッとしました。
「私、そんな主人の顔を見ていて、この家はもう終わりだなって思いました。」
まあばあちゃんに、もう言葉は出ませんでした。
まあばあちゃんも邦ちゃんの立場なら、同じ気持ちになるだろうと思ったからです。
「母も本当は分かっているようですが、どうしても、昭雄さんを信じたいようで……」
お春ちゃんの気持ちも分かります。
昭雄さんを信じることを止めることは、お春ちゃんの今までの人生を否定することになるからでしょう。
それくらい、お春ちゃんは昭雄さんを娘婿としてではなく、自分の息子のように大切にしていました。
「あの女の人に払うお金も、今は母の年金を当てにしているぐらいなんです。」
「お金の事だけでもきちんと話したら……。 」
「はい。お金が無いので仕事のことを早くするかやめて欲しいと、思い切って言ってみたら、『退職金があるやろ』と言って取り合ってくれません。」
「……そんな……」
「退職金なんて……、とっくに自分で引き出して使ったっていうのに……。いつまでも、満額あるような気持ちでいるんです。」
邦ちゃんは、そう言って深いため息をつきました。


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知り合い関係


「主人の知り合い関係の人らしいんです。」
「知り合い関係?」
知り合い関係? ってどういう意味なんでしょう。なんとも奇妙な言い方だとまあばあちゃんは思いました。
「特許に詳しい人だと、お春ちゃんに聞いたのだけど。弁理士さんなの。あの人。」
「違うと思います。あの人のことを主人に聞くと、嫌な顔をされるので何も聞いていませんが……。」
「じゃあ、邦ちゃんはご主人があの女の人とどんな仕事をしているのか何も知らないっていうの。」
「はい、おかしな話だと思われるかも知りませんが、そのとおりです。」
「でも、お春ちゃんは、この仕事が成功したら、何億円にもなるからって……。」
まあばあちゃんの言葉は、そこで途切れました。邦ちゃんの顔見ているとそんな言葉はとても続けられませんでした。
「主人はそんなことばかり言っていますが、私には信じられません。」
邦ちゃんは静かな口調でそう答えました。
「もう、この仕事を始めてから1年になりますが、なんの仕事か知りませんし、完成するような兆しが一向に感じられません。」
邦ちゃんはそう言って笑いました。
何もかも諦めたような笑顔でした。


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邦ちゃんの心



邦ちゃんの目は真剣です。まあばあちゃんも緊張しました。
「この前は本当に有難うございました。」
邦ちゃんはそう言って、深々とまあばあちゃんに頭を下げました。
「あの時、ずっと私の後ろを見守るように付いてきて下さったでしょう。私、本当に嬉しかったです。」
「そんな、…ごめんね。邦ちゃん。 わたし、声すら掛けられなかったのに、そんなこと言ってくれるなんて……。 」
「ううん、心配して下さっている、あったかい心を背中に感じました。一人じゃないって思いました。」
「……邦ちゃん……」
「あの時、声を掛けてもらってたら、私、大泣きしていたと思います。」
邦ちゃんの声は涙声になっています。

まあばあちゃんの脳裏に、再び……
ご主人と女の人を乗せた車が、邦ちゃんを素通りする場面が浮かんできました。

「ねえ、邦ちゃん。いったいあの女の人はどういう人なの?」
 

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朝市で……



今日は、いつもは散歩する公園で朝市が開かれる日です。
新鮮なお野菜はいっぱい頂いて、冷蔵庫にたくさん入っています。でも、お魚や果物がありません。
最近はなかかな遠くまでお買い物に行けないまあばあちゃんは、ジロとミミちゃんにお留守番を頼んで、朝市にやってきました。
今日もおいしそうなお魚や果物が売っています。
買い物を済ませてホッとした時、後ろからポンと優しく肩を叩かれました。
「あら、邦ちゃん。」
「母がいつもお世話になっています。」
「こちらこそ、お世話になっているのは、私のほうですよ。」
邦ちゃんも朝市にお買い物にきたみたいです。
「先日は、見苦しいところをお見せして、お恥ずかしい限りです。」
そう言って、邦ちゃんはうつむきました。
「恥ずかしいなんて……、さぞ辛かったでしょうに……」
まあばあちゃんは慰めの言葉をかけてあげたいのに、言葉が続きませんでした。
しばらく、二人は黙ったままでしたが、沈黙を破ったのは邦ちゃんでした。
「……私、今日はお話を聞いてもらいたくて待っていました。」
邦ちゃんは、沈痛な面持ちで言いました。


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お料理を作る幸せ



まあばあちゃんは、お母さんが仕事に行った後、ひとり物思いにふけってました。

まあばあちゃんにとって、ご飯を作るという事は、
トモちゃんや恭子ちゃんやおとうさんが、
「おいしいよ」
と言ってくれるのが嬉しくて作ります。
この歳になると、ちょっと疲れてシンドイなと思うこともありますが、
大好きな家族のみんなが、おいしそうに食べてくれるから、そんなの忘れてしまいます。

みんなの健康や食卓を取り囲んで楽しくお話しすることが、まあばあちゃんにとって何より嬉しい事だからです。
おとうさんと恭子ちゃん、疲れてるみたいだから、明日はお休みだし、ニンニク料理にしようとか、トモちゃんのお勉強がはかどるように今日は青魚にしようとか、毎日いろいろ考えます。
それが楽しいのです。

でも、邦ちゃんはどうでしょう。
まあばあちゃんは自分に置き換えてみました。
―――もし、私があの女の人のご飯を作ることになったら。
酷く蔑んだ薄ら笑いを自分へと向ける人に、ご飯を作ることになったら ―――
まあばあちゃんが、ひどく貧しかった時でさえ、あんな目で見られたことはありません。
あんな人の世話をするのは地獄の苦しみに違いありません。

母親のお春ちゃんはあんな調子だし……
そう言えば、お春ちゃんは昔から体が弱くて、邦ちゃんは、幼い時から家の手伝いをしていたと聞きました。
お掃除や洗濯は、もちろん、お料理まで。
(お春ちゃん、あんた馬鹿よ。大事な娘に苦労ばかりさせて……)

まあばあちゃんは、早くあの女の人が邦ちゃんの家から消えてしまえばいいのにと、心から思いました。


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おかしいよ



「弁理士さんて何するの?」
まあばあちゃんがたずねました。
「おかあちゃんが、何か発明したとするでしょ。そしたら、先に考えた人がいないかとか、どれくらい自分の権利を取得できるかとかを調べてから、マネされないように説明書きをつけて、特許庁ってとこに申請する手続きをする仕事よ。わたしも詳しい事は分からないけど……いろんな分野の専門知識がいるはずよ」
「へぇ」
「それにしても、変よね。だってよ。あそこの邦ちゃんは、確か泉陽高校に行ったって聞いたわ。それにご主人は国立大学を出た人のはずよ。そんなことも知らないなんて、信じられへんわ。 」
それは、まあばあちゃんも聞いたことがありました。
「だいたいね。今時、パソコンをコンピューターだなんて言ってるのが違和感があるわよ。」
「パソコン? パソコンってトモちゃんがよく使ってるわね。」
「そうよ。」
「それによ。お母ちゃん。コンピューターの仕事をしているんだったら、ネットは必ずしてるはずやん?」
「ネットって、トモちゃんがお買いものとかしてる…アレ?」
「そのとおり。お母ちゃんもスーパーのチラシを一緒に見たりしてるでしょ?」
まあばちゃんは頷きました。テレビの画面にチラシを映してもらうのが大好きです。
「『特許庁』を検索したら、知りたい事を調べることが出来るのよ。発明した物についてかなりの専門知識がいるのは確かだけど……、でも、こんな言い方良くないかもしれんけど……あんな挨拶一つできないジーッと動かない人に何が出来るのかと思うよ。あんなんじゃ、仕事にならんよ。邦ちゃんの方が、百倍、ううん千倍できると思うけどなぁ……」
恭子ちゃんも働く母です。 いつも一所懸命がんばっています。仕事がお休みの日は、疲れているはずなのに、いつもまあばあちゃんを手伝ってくれます。

まあばあちゃんは邦ちゃんの名誉のために、昨日の夕方の事を話さずにおこうと思っていたのですが、恭子ちゃんの考えを聞きたいと思いました。
それに、なにかいい案が浮かぶかもしれません。

ご主人の運転する車の助手席で、
邦ちゃんを薄ら笑い浮かべて見ていたあの女の人のこと。
邦ちゃんを乗せずに行ってしまったご主人のこと。
それを聞いて恭子ちゃんは、
「なにそれー! ご主人、気でも違ったんちゃうの?」
まあばあちゃんは答えることが出来ませんでした。



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特許の専門家?


「ねっ、おかあちゃん。今、邦ちゃんの家に変な女の人が来てるの知ってる?」
(恭子ちゃんは知っていたの? お春ちゃんのお家の事。)
恭子ちゃんはトモちゃんのお母さんです。
まあばあちゃんは、恭子ちゃんの言葉に驚きました。まあばあちゃんは昨日まで全然知りませんでした。
「前髪の長い女の人?」
「そうよ。なんかずっと下を向いてるの。親戚の人かなっと思って、こっちが頭を下げても知らんぷりよ。あんな礼儀知らずな人とお付き合いしていて大丈夫かなって……」
間違いありません。まあばあちゃんが見たあの女の人です。
「どこで見たの?」
「邦ちゃんの家の前で。うつむいてジーッっとしてるから、何してるのかと薄気味悪くて見ていたら、口紅塗ってたんよ。 それもいつまでも塗ってるの。どんだけ広い口やねんって感じよ。しばらくしたら邦ちゃんが出てきたんだけど、邦ちゃんにも知らん顔してジーッとしてるの。邦ちゃんはなんでか、あの女の人に不自然なぐらいペコペコしてるし……。とにかくおかしいわ」
恭子ちゃんも、あの女の人に良い印象を持ってないみたいです。
「その女の人、毎日来るらしくて、邦ちゃんはあの人のために、毎日夕食を作ってお土産を渡してるんですって。」
「え~っ!! 毎日? なんでそんなことするの?」
「ご主人が特許というのを取るために、あの人が必要で、月7万円で雇ってるんだって。」
「へぇ、7万!? 特許?」
「そういうことに詳しい人らしくて……」
「特許って……」
恭子ちゃんは、訳が分からないという顔をしました。
「おかあちゃん。特許っていうのは弁理士さんに頼むのが普通よ。何かその話、おかしいよ。あの人、資格持ってるの?」
「弁理士?」
「そうよ。特許の専門家よ。国家資格よ!」
まあばあちゃんの頭は混乱してきました。聞いたことのない言葉ばかりで。
でも、国家資格なんて持ってたら、お春ちゃんはきっと話していたはずです。
「お春ちゃんは、弁理士って話は全然しなかったわ。なんでも出来るすごい人って…、そればかり繰り返してて……」
「お春おばちゃんの性格からして、知ってたら絶対言うと思うけどなぁ……」
「そうよねぇ……。あっ……」
まあばあちゃんは、お春ちゃんの言ってたことを思い出しました。
「どうしたの? お母ちゃん」
「女の人のお仕事の話が出た時、お春ちゃん、よく分からないって言ってたわ……」
まあばあちゃんは騙されているのではと、また心配になってきました。


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寒い朝



「ちょっと! まあちゃん、聞いてるの?」
お春ちゃんの声にハッと我に返りました。
「ああ、ごめんね。お春ちゃんのお話、むずかしくて……」
「そうなのよ。最初は、私もなかなか分からなかったのよ。」
と、得意げに言いました。それからもお春ちゃんのお話は止まりません。
なんでも、昭雄さんは〝特許″と言うのを取ってから、その仕事を始めるそうです。
それを取るのは大変難しく、
そのために、あの女の人が必要らしいのですが……
まあばあちゃんは、お春ちゃんの話を聞くのが息苦しくなってきました。
「お春ちゃん、私、少し寒くなってきたから、おいとまするわね。」
「ほんとね、少し寒いわね。明日も待ってるわ。まあちゃんに聞いてもらうの楽しいから。」
お春ちゃんは満面の笑みで言いましたが、まあばあちゃんは少しも楽しくありません。正直に言えばもう聞きたくありませんでした。
まあばあちゃんは、沈んだ気持ちで、お春ちゃんと別れました。

邦ちゃんのことはとても心配ですが、
今の浮かれているお春ちゃんに何を言っても、
ヌカに釘です。
(どうすればいいの……?)
暗い気持ちのまま、まあばあちゃんは、ジロとミミちゃんを連れてお家に帰ってきました。
「おばあちゃん、お帰りなさい。」
しょんぼり帰ってきたまあばあちゃんを、パタパタと制服姿のままトモちゃんが出迎えてくれました。
「おばあちゃん、杉野さんちのおばあちゃんと公園でお話ししてたでしょう。駄目やよ。あんな寒い所で座ってたら……」
トモちゃんはそう言いながら、ジロとミミちゃんの足を洗っています。
「おかあちゃん、熱いお茶入れたから早く温まって。」
「有難う。」
まあばあちゃんは、とても嬉しかったです。
「あら、お父さんは?」
お父さんのいないことに気付いて、まあばあちゃんがたずねました。
「ああ、お父さん? お父さんは今日、取引先の人と会うので、私は遅れて仕事に行くことにしたんよ」
―――本当は違います。
よいお天気とはいえ、まだまだ寒い朝に冷たいベンチに腰かけて、
楽しそうに話しているお春ちゃんと、その話を暗い顔で聞いてるまあばあちゃん……
仕事へ行く途中、トラックですぐそばを通りがかったお父さんとお母さんは、二人の様子を見ていて心配になり、今日はお父さん一人で仕事に行くことにしたのです。
「おばあちゃん、おかあちゃん。行ってきま~す。ジロ、ミミちゃん。おばあちゃんを御願いね。」
「行ってらっしゃい! しっかり頑張って!」
と、お母さん。
「トモちゃん、行ってらっしゃい。車に気を付けてね」
と、まあばあちゃん。
元気のいいトモちゃんの声とおかあさんの声を聞きながら、まあばあちゃんはコタツに入って冷えた体を温めています。
ジロとミミちゃんも寒かったのか、コタツに潜り込みました。場所取りをしているらしく、狭いこたつの中でジタバタしています。
熱いお茶をフウフウしていると、少しずつホンワカした気持ちになってきました。


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邦ちゃんのこと


まあばあちゃんは、邦ちゃんのことを思い浮かべていました。
ずいぶん前から、まあばあちゃんは邦ちゃんのことを知っています。
邦ちゃんは、お春ちゃんの一番上の娘さんです。10年ほど前にお春ちゃんのお隣の家が売りに出されたので、邦ちゃん夫婦がその家を買い取って住むことになったのです。そのときのお春ちゃんの喜びようたらありませんでした。
「娘夫婦が、隣に来る。」 
と、会う人会う人に嬉しそうに言っていました。
その上、邦ちゃんのご主人の昭雄さんはとってもハンサムで礼儀正しくて優しそうな人です。お春ちゃんは、昭雄さんのことをいつも自慢していました。昭雄さんはお春ちゃんを大事にしてくれるのでしょうね。
お春ちゃんは、いつの間にか昭雄さんのことを、
「うちの息子。」
と、言うようになりました。
まあばあちゃんは、その頃、毎日のように、
「うちの息子。うちの息子。」
という、お春ちゃんの話を聞かされていました。
まあばあちゃんは、そのときの幸せそうなお春ちゃんの顔を今でもよく覚えています。
それに、邦ちゃんはとってもいい娘さんでした。
朝、会社に出掛けるご主人の車を見えなくなるまで見送っている姿をよく見かけました。
お春ちゃんもお春ちゃんのご主人も体が弱かったので、邦ちゃんは、親のお春ちゃん夫婦の為に、ご飯を作ったり、お洗濯をしたり、病院の付き添いにも必ず付いて行ってました。お春ちゃんの家の庭がお手入れの行き届いた庭に生まれ変わったのも、邦ちゃんが引っ越して来てからでした。
(なかなか、親の世話をここまで出来る娘さんは滅多にいないわ。)
まあばあちゃんは、いつも、邦ちゃんのことを感心して見ていました。
まあばあちゃんに会うたびニコニコして
「いつも、母がお世話になってます。」
と、挨拶してくれます。まあばあちゃんも邦ちゃんに会えるのが嬉しい日課の一つになっていました。
邦ちゃん夫婦には子供が恵まれませんでしたが、
夫婦仲が良くて、よくお春ちゃん夫婦と一緒に旅行に行っては、まあばあちゃんにまでお土産を買ってきてくれました。
お春ちゃんのご主人が倒れたときは、おろおろするお春ちゃんを気遣いながら、シャキシャキとよく面倒を見ていました。
そのあと、寝たきりになった父親の介護をかいがいしく見ていたのも邦ちゃんです。
本当に、邦ちゃんは良い娘さんです。
それだけに、まあばあちゃんは、邦ちゃんが辛い目あっているのではと気がかりでなりませんでした。


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温度差



「もう少しで、完成するらしいのよ。そうしたらうちの家も楽になるわ。今はちょっと大変だけどね。あの女の人に毎月7万円渡さないといけないから。まあ、そう言っているうちにお金がいっぱい入ってくるから、心配いらないわ。」
「まあ、7万円も払っているの。大きなお金ね。」
「そんなの大したことないわ。私の年金があるし。仕事が成功したら、何億円も入ってくるのよ。だから7万円くらいどうってことないの。」
「年金でお給金払ってるの!?」
「ええ、そうよ。コンピューターやらプリン…デス…なんとか、とにかく何やら物入りで私も協力しているの」
お春ちゃんは、嬉しくて笑いが止まらないって顔で言いました。
「それまで、邦ちゃんはその人のご飯を作り続けるの?」
と、まあばあちゃんは聞きました。
「当たり前よ。それぐらい普通でしょ。仕事終わってから、わざわざ来てくれてるんだもの。ありがたいわ」
「どんな仕事なさってる人なの?」
「よく分からないの……」
お春ちゃんは少し言いよどみました。」
「分からないの!?」
まあばあちゃんはビックリして、思わず大きな声になりました。
「でも、なんでも出来るすごい人なんですって!」
まあばあちゃんは次の言葉が出ませんでした。
(何してるか分からないような人を家に入れて、邦ちゃんにあの仕打ち。どうなってるの?)
「お春ちゃん。お春ちゃんは邦ちゃんのこと可哀想だと思わないの。」
「なんで可哀想なの。もうすぐジャンジャンお金が入ってくるのよ。そうなれば邦子も左うちわじゃない。」
まあばあちゃんに難しい事は分かりません。
でも、
ご主人の奥さんを目の前にして頭の一つも下げられない人に、まともな仕事が出来るとは思えませんでした。
それにあの薄ら笑いの薄気味悪い顔つきは、今思い出してもゾッとします。

どうして、お春ちゃんは何も感じないのでしょうか?
どうして、邦ちゃんの気持ちを分かってくれないのでしょうか。
まあばあちゃんは、お春ちゃんに温度差を感じました。

どうしちゃったの……お春ちゃん。お金お金って。
そりゃお金は、とても大事だけど、
邦ちゃんをあんなにひどい目に合わせてまで必要なの?
慎ましく暮らしてれば、年金と退職金があれば十分じゃないの?
ほくほく顔のお春ちゃんを見て、まあばあちゃんの胸がキュッと痛くなりました。


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堺の町のまあばあちゃん

Author:堺の町のまあばあちゃん
堺の町に住む、ひとりのおばあちゃんのお話です。
住み慣れた町の人々との交流や孫のトモちゃんや犬のジロとの生活を通して力強く生きていく姿を物語に書きたいと思います。 
宜しくお願いします。
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