ミミちゃんの行く末



「ジロちゃんは幸せね、こんなに大事にされて」
その人はジロを優しく見つめて言いました。
「私もジロが、いてくれて幸せです。」
まあばあちゃんも、にっこり笑って答えました。
まあばあちゃんの足元でジロは眠そうにウツラウツラしています。
「美しいお庭を見せて頂いて、本当に有難うございました。あの、……そろそろお暇させていただきます。」
まあばあちゃんはそう言って深々と頭を下げて立ち上がろうとしました。すると、引き止めるように少し手を挙げて、
「あっ! 待ってください。……あの……」
その人は、そのまま思いつめた表情になってうつむいてしまいました。

―――暫くの沈黙の後、
「……どうされましたか?」
まあばちゃんの問いかけに、その人は思い切ったように顔を上げました。
「初めてお会いして……こんな御願いをするのは本当に……心苦しいのですが…。あのう…このミミを預かって頂くことは、出来ませんでしょうか?」
体調が思わしくないため、先日、検査を受けたところ病気が見つかり、入院しなくてはいけないとのことでした。ご主人は10年ほど前に亡くなり、それからずっと一人住まいでした。二人の息子さんがいらっしゃるのですが、どちらもマンション住まいで、動物は飼ってはいけない規則がある上に、お兄さんのお嫁さんは犬嫌いで、弟さんの子どもは動物のアレルギーを持っているとの事でした。
まあばあちゃんは、お話を静かに聞いていましたが、ミミちゃんの頭をなでて言いました。
「ミミちゃん。暫く、おばあちゃんのお家へ遊びに来ませんか。ジロの遊び相手になってくださいね。」
「よろしいんですか……? 本当に? …あ…ありがとうございます」
その人は、目頭をそっと抑えて、涙声で何度も何度もお礼を言いました。
「こんな、年寄りなので、至らぬことも多くございますが・・・。大切にお預かりいたします。」
その人は、ミミちゃんを大切そうに抱いて、外に置いていたまあばあちゃんのシルバーカーに乗せました。傍にミミちゃん用の可愛いお洋服を置くと、可愛い骨の模様のついたピンクのリードをまあばあちゃんに渡しました。
ミミちゃんは自分の運命を知っているのか、まあばあちゃんのシルバーカーに入れられたまま必死にシッポを振っていました。なくことありませんでした。ただ、黒いつぶらな瞳でジッと、その人を見つめていました。
「こちらの方にも散歩するので、またお声をかけてください。」
まあばあちゃんがそう言うと、その人は悲しそうに目を伏せました。涙が一杯たまっていました。
まあばあちゃんは丁寧に頭を下げてから、シルバーカーをゆっくり押しました
シルバーカーの中にミミちゃんを乗せて、ゆっくりゆっくり帰るまあばあちゃんとジロの後姿を、その人はいつまでも見送っていました。
ミミちゃんもその人の方を向いて静かにシッポを振っていました。


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ジロとミミちゃん


「どうぞ、こちらへ」
庭の中ほどにある木のテーブルのうえに、いい香りのする紅茶と手作りなのでしょうか、色とりどりの可愛いケーキを並べて、勧めて下さいました。
まあばあちゃんは、今までにこんな温かい御もてなしを受けたことがありません。
それに、こんな大きなお家の人と、知り合いになったこともありませんでしたから、まごついてしまいました。そこに、真っ白の小さな犬がジャンプしたかと思うと、その人の膝の上に乗って、まあばあちゃんとジロを見ていました。
「こんにちわ、この子、ジロと言います。仲良くしてくださいね」
まあばあちゃんは、そう言って、真っ白の小さな犬に声をかけました。
「この子の名前は、ミミといいます。ジロちゃん、宜しく御願いします」
その人は、大切そうに抱っこして。ミミちゃんの頭をちょっと抑えて、こんにちわの仕草をミミちゃんにさせました。
「ミミちゃんは、きれいなわんちゃんですね。なんという種類なんですか」
「プードルです」
「プードル・・・プードル・・・」
まあばあちゃんは、ミミちゃんの種類を覚えようと思って何度か繰り返してみました。
「ごめんなさいね。ミミちゃん。なかなか覚えられなくて、これからこのおばあちゃんにも、ミミちゃんと呼ばせてくださいね」
まあばあちゃんは、ミミちゃんに、そっと言いました。
「ジロちゃん。おとなしいですね。今おいくつですか」
まあばあちゃんは、ドギマギしました。
ジロはトモちゃんがシャンプーするのが好きでいつもサラサラしていますが、雪のように白く黒めがちな目のミミちゃんはピカピカに見えました。
朝市で仲良くなって、いつの間にか一緒に暮らすようになったのでこの子の歳はいくつか分からないのですと、小さな声で答えました。
「でも、この前、動物のお医者様に診ていただいたとき、推定6歳ぐらいだとおっしゃてました。」
まあばあちゃんは、とても、あの朝市でのジロのことは言えませんでした。
ガリガリにやせて、ドロドロになって淋しそうな目で、まあばあちゃんをじっと見つめて
(食べ物をください)って言っていたジロの姿を、まあばあちゃんは思い出したくありませんでした。
まあばあちゃんは、ジロの頭を撫ぜて、
「いまの私にとって、この子はなくてはならない大切な存在になりました。ね、ジロ」
ジロも、「そうだよ」と言わんばかりにしっぽをパタパタと嬉しそうに振っています。
ジロを見つめるまあばあちゃんの目に、うっすらと涙が滲んでいました。

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百日紅の花の下で

  
まあばあちゃんはジロと一緒にゆっくりと、シルバーカーを押して、去年見た百日紅の花が見事に咲いているお家の前までやってきました。
百日紅の花は、それは美しく咲き誇っていました。
(まあ! 今年も美しく咲いて……)
百日紅の花は爽やかな秋の風に揺れて、まるで、まあばあちゃんを待っていたかのようでした。
「お花お好きですか?」
板塀の戸口が開いて、まあばあちゃんよりは少し若くて、ほっそりした女の人が、声をかけてきました。
「あっ! こちらの方ですか? あまり見事な花なので……。見せていただいております」
「百日紅の花、お好きなんですか。」
「はい。」
まあばあちゃんは、小さくなって答えました。
塀越しとはいえ他人様のお家の花を、何の断りもなく図々しく見ていた自分が恥ずかしかったのです。、
「いつも、お孫さんと一緒に仲良く歩いておられますね」
その人は、優しい笑みを浮かべて、ゆっくりとした口調で言いました。
「私たちのこと、ご存知だったんですか」
その人の温かい心が伝わってきて、緊張していたまあばあちゃんの顔にもいつもの笑顔が戻ってきました。
「ぜひ、お庭の中もご覧ください。今なら虫の音も聞かれますよ。」
そう言って、その人はまあばあちゃんに庭に入るように勧めました。まあばあちゃんは、初めてお会いしたお人の家に入れて頂くのは、厚かましいのではと、ためらっていました。
「どうぞ、お入りくださいませ。虫の音がとっても美しいですよ」
その人は白髪頭をキラキラさせて、まあばあちゃんに手招きしました。
「わんちゃんも、どうぞ。」
まあばあちゃんとジロは、遠慮がちに庭に一歩足を踏み入れました。
そこは、まったくの別世界でした。
苔が敷き詰められ大小様々な庭石が調和良く点在して、ひんやりとした佇まいの美しい庭です。表の道路から見れば、枝もたわわな百日紅の花も庭の一部に同化して、鮮やかな緑の中にひっそりとピンクの花の色を添えていました。それはそれでとても良い感じがしました。
昔、ちいさなトモちゃんを連れて行った京都のお寺の庭の一部をそのまま切り取ってきたような、そんな見事な庭でした。
本当に手入れの行き届いた、住む人の奥ゆかしさを感じることの出来る庭でした。
それに何より嬉しかったのは、お庭の通路伝いに、しっかりとした手すりの付いていることでした。
「素晴らしいお庭ですね。」
まあばあちゃんは心からそう思って言いました。
「近頃は、からだの調子も良くなくて、野草が伸び放題になってしまいました。お恥ずかしいかぎりで御座います。」
その人は、謙遜しましたが、その野草が何とも言えない風情でした。
まあばあちゃんとジロは、しばらく、その見事な庭に見とれていました。

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まあばあちゃんと百日紅の花



この頃は、朝夕に優しい風が吹いて、爽やかな秋の気配が感じられます。
今年の夏はことのほか暑くて、まあばあちゃんも大変でした。
まだまだお昼は日差しが強くて、まあばあちゃんを困らせますが、朝の空気は秋そのものです。
ジロとのお散歩も、とっても楽です。ジロの息もハアハアしません。
どんなに暑くてもジロは散歩が大好きです。だから、まあばあちゃんは少しぐらい足の調子が悪くても、ジロとのお散歩を休んだことがありません。今日もゆっくりとシルバーカーを押してジロと歩いていました。

家々の垣根を越えて覆いかぶさるように、美しいピンクの花をつけた百日紅が、
 〝今年は、去年より何倍も何倍も美しいですよ″と、まあばあちゃんに語りかけてくるようです。

まあばあちゃんは、花や木の話をすることが大好きです。
去年、トモちゃんとお使いの途中で見つけた見事に咲いた美しい薄紅の百日紅の木の下で、こんな話をしました。

「トモちゃん。百日紅の名前の由来知ってる?」
「サルも落ちるくらいツルツルしてるからって聞いたことあるけど……。ホントかな? ヤシの木の方が大変そう……」
現実的なトモちゃんに、まあばあちゃんはフフっと笑って、
「おばあちゃんも、そう聞いたよ 。でも、おばあちゃん、お猿さんはこの美しい花に見とれてツルっと滑ってしまったんだと思うの。」
「そっちの方がいいよね! こんなに見事だもん!」
「そうでしょう! トモちゃんのお花の本を見て驚いたわ。さるすべりは百日に紅と書いてあったのよ。何ともいえない美しい薄紅色の花をつけるこの木にはピッタリやと思った。さるすべりと百日紅、ほんとに美しい花ね」
そんな、トモちゃんとの会話を思い出したまあばあちゃんは、去年のあの百日紅の花に会いたくなってしまいました。
「ねっ、ジロ。少しだけ、おばあちゃんにお付き合いしてね」
まあばあちゃんとジロは、爽やかな風の吹く朝の道をゆっくりと、シルバーカーを押して、去年のあの美しい百日紅の花に会いに行きます。


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まあばあちゃんとお洗濯


まあばあちゃんは、大の洗濯好き。
今日も太陽がサンサンと、降り注いでいます。
まあばあちゃんは、2台の洗濯機を器用に使って、洗濯を始めました。
ピロロー ピロロー
洗濯が出来た音がなりました。まあばあちゃんは洗濯物をバケツに入れていきます。
洗濯物を入れるとバケツはずっしり重くなります。
昨日まではバケツ一杯に入れた洗濯物を軽々とトモちゃんが物干し場まで運んでくれました。
今日のまあばあちゃんは、半分だけバケツに入れて物干し場まで運びます。もちろんジロもついていきます。
「よっこいしょ。」
もう一回
「よっこいしょ。」と言って、まあばあちゃんはクスッと笑ってしまいました。
「トモちゃんがいたら、そんな、歳いった言葉を使ったら駄目ですって、きっと言われちゃうね。ジロ。」
まあばあちゃんは、とっても綺麗好き。まるでアイロンをかけたように、パンパンしわを伸ばして干していきます。全部干し終わった後に風に揺れてる洗濯物を見ているのが大好きです。
そういえば、トモちゃんは小さな頃から洗濯物を干すとき、いつも傍にいました。その頃のまあばあちゃんはまだまだ体もしゃんとしていたので、トモちゃんが小さな手でバケツから取り出す洗濯物を受け取っては、ひとつずつ干していた時もありました。
でも今のトモちゃんはまあばあちゃんの背丈をはるかに越えて高校1年生です。洗濯物を干すスピードもまあばあちゃんは、とてもかないません。
お掃除だってそう、
「おばあちゃん、私が掃除機をかけるから、ね」
って、この夏休み学校のない日はいつも手伝ってくれた。
(女の子って、良いものね、優しくて、温かくて)
まあばあちゃんは、洗濯もお掃除も終わって、ひとりでお茶を飲みながら、傍で寝そっべているジロの頭を撫ぜながら、今学校で勉強しているトモちゃんの姿を想い浮かべて、ほのぼの幸せな気持ちになっていました。




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まあばあちゃんの淋しい一日


2学期になり、トモちゃんの学校が始まりました。
また、まあばあちゃんの淋しい一日が始まります。
朝、5時に起きて、まだ寝ているみんなを起こさないように、ジロと一緒にそっと、家を出ます。外はまだ薄暗がりです。もうすぐ辺りも明るくなって来るでしょう。
今日はなんだか、シルバーカーを押す姿に元気がありません。
昨日まで一緒だったトモちゃんは、今日から学校があるので、まあばあちゃんはジロとふたりのお散歩です。
昨日トモちゃんと一緒に見たゴーヤの黄色い花も、風で揺れるといいにおいのするペパーミントの紫の花も今日はどことなくぼやけて見えます。
ジロもトモちゃんがいないので少し淋しそうです。
まあばあちゃんは、昨日トモちゃんと話したことを思い出していました。
「明日から、トモちゃんも学校ね、淋しくなるわ」
「大丈夫よ、おばあちゃん、こんな朝早い散歩なら、私も一緒にいけるから」
「だめだめ、学校へ行く用意があるでしょう。それに少しでも寝た方が疲れないし、明日からは、おばあちゃん一人で大丈夫よ。それにジロもいるんだから、トモちゃんは、学校のことだけを考えていればいいの」
「はい、おばあちゃん。ジロ、明日からおばあちゃんをしっかり守ってね」
「もう、トモちゃんは大袈裟ね」
(な~んて言って笑っていたのに。やっぱり一人は、ううん、一人と一匹は淋しいね。
……でも、そんなことは言ってられないわ。しっかりしなくちゃ)
まあばあちゃんは、そう、思い直すとジロの頭を撫ぜて、ゆっくりと、朝の静けさの漂ういつもの道を歩きはじめました。




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堺の町、与謝野晶子


「昔、この堺の町にも、山本美香さんのように戦争に凛として、筆で人々の心に訴えた女の人がいたの知ってる?」
そう言って、まあばあちゃんはトモちゃんを見ました。
「それって、与謝野晶子のことでしょう。おばあちゃん。」
「そう、日露戦争のとき戦地にいる弟さんを想って作った詩があるのよ。」
トモちゃんは与謝野晶子のことをよく知っていました。堺の町で生まれて育ったトモちゃんは堺の町が大好きです。中学生のときに与謝野晶子の生い立ちや、文学に対する愛情を、一文字、一文字に込めて立派な作品を数多く世に出してきた生き方に感動しました。
今も堺の人たちに愛され、人々の心の中で生きつづけるそんな一生を送った与謝野晶子がトモちゃんは大好きです。
「おばあちゃん。私、知ってる。その詩。ああ、弟よ、君を泣く…」
トモちゃんは、暗記していました。
「トモちゃん。その詩、知ってるの」
「だって、堺生まれの堺育ち、与謝野晶子は生粋の堺っ子なのよ。いつの間にか覚えていたわ。」
トモちゃんは、まあばあちゃんの為に「弟よ・・・」を暗唱しはじめました。

 ---君死にたまふことなかれ---
    (旅順の攻圍軍にある弟宗七を歎きて)  
      與 謝 野 晶 子
  ああ、弟よ、君を泣く、
  君死にたまふことなかれ。
  末に生れし君なれば
  親のなさけは勝りしも、
  親は刃(やいば)をにぎらせて
  人を殺せと敎へしや、
  人を殺して死ねよとて
  廿四(にじふし)までを育てしや。

  堺の街のあきびとの
  老舗(しにせ)を誇るあるじにて、
  親の名を繼ぐ君なれば、
  君死にたまふことなかれ。
  旅順の城はほろぶとも、
  ほろびずとても、何事ぞ、
  君は知らじな、あきびとの
  家の習ひに無きことを。

  君死にたまふことなかれ。
  すめらみことは、戰ひに
  おほみづからは出でまさね、
  互(かたみ)に人の血を流し、
  獸の道に死ねよとは、
  死ぬるを人の譽れとは、
  おほみこころの深ければ
  もとより如何で思(おぼ)されん。

  ああ、弟よ、戰ひに
  君死にたまふことなかれ。
  過ぎにし秋を父君に
  おくれたまへる母君は、
  歎きのなかに、いたましく、
  我子を召され、家を守(も)り、
  安しと聞ける大御代(おほみよ)も
  母の白髮(しらが)は増さりゆく。

  暖簾(のれん)のかげに伏して泣く
  あえかに若き新妻を
  君忘るるや、思へるや。
  十月(とつき)も添はで別れたる
  少女(をとめ)ごころを思ひみよ。
  この世ひとりの君ならで
  ああまた誰を頼むべき。
  君死にたまふことなかれ


「おばあちゃん、与謝野晶子の本私持ってるから」
トモちゃんは、そういって数冊の本を持ってきて、まあばあちゃんに渡しました。
「ありがとう」
まあばあちゃんは、与謝野晶子の本を大切そうに撫ぜながら、嬉しそうに、読み始めました。



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山本美香さん、どうか安らかに……



「まだ、お若くて美しい人なのに…」
まあばあちゃんは声を詰まらせていました。
「どうして、シリアなんて危ない国に行ちゃったんだろう。山本美香さん」
トモちゃんはポツリと言いました。
美香さんが取材中の一場面なのか……機材を扱いながら向けている笑顔は、化粧っ気なんてまるでないのに、とても綺麗で清々しいものでした。
「戦争って本当に怖いのよ。爆弾がそれこそ雨あられのように降ってきて……! 防空壕言うても安全ちゃうねんよ。あの大阪大空襲のときは、防空壕の中で折り重なる様に亡くなった人かていたんよ。蒸し焼きになったんやって聞いたわ。それでも、逃げるところ言うたら防空壕しかないんやから……。
おばあちゃんはね、大阪大空襲のとき逃げ遅れてしまって。あの時は、おばあちゃんのお母さんが高い熱を出してて、おばあちゃんはお母さんを背負って逃げたの。お母さんは大柄な人で、おばあちゃんは体が小さいから、背負うだけでも大変だった。それでも、空襲警報の鳴ってる中、背負って表に出たけど、もう、誰もいなかった。それでも、なんとか、防空壕に走って行ったけどもう閉まっていて。
おばあちゃん達は逃げ惑った。焼夷弾が前や後ろにドカンドカンと落ちてきて…。それでも、助けて欲しくて防空壕を探しまくったわ」
「おばあちゃん・・・・・」
まあばあちゃんのしょぼしょぼした目から涙がとめどなく流れていました。
「おばあちゃん、「開けてください」って一生懸命さけんだ?」
「言うたよ。それはもう、ほんまに必死で! 入口をバンバン必死に叩いて「開けてください…。開けてください……」って一生懸命、叫んだよ。でも、ドカンドカンと落ちてくる爆弾の音で、中にいる人達には聞こえへんかったんやと思う。自分の声も聞こえへんくらいやもんね。それから、お母さんと二人であっちこっちの防空壕を訪ねて…。やっと、入れてくれる防空壕があって、こうして、命を永らえる事ができたんよ。おばあちゃん今でもあの時の事は忘れない。心から感謝してしている。」
まあばあちゃんは両手をそっと合わせて祈りました。その手に涙がぽたぽたと落ちました。
「おばあちゃん、怖かったでしょう」
「うん、怖さと助けてもらった嬉しさとで、おばあちゃん、お母さんと一緒にわんわん泣いたのを覚えているわ」
「おばあちゃん、良かったね」
「本当に有り難かったわ。今でもあの時のあの人たちの顔は忘れない」
まあばあちゃんは、感謝の言葉を繰り返し言って、防空壕で助けてくれた人たちにそっと両手を合わせていました。
「あの時の空襲は夜中から始まって明け方まで……。怖かった。やっと、爆音が聞こえなくなって、みんなで外に出たら、―――焼けて何にもないの……。原っぱよ。家も何もないの……。あっちこっちで逃げ遅れた人が焼け死んでた…。小さな子供を背負っていた女の人。杖を持ったまま死んでいたおじいさん……」
そこで言葉をきると、少し小首を傾げてから、
「……でも、戦争って不思議ね。」
「……。」
トモちゃんはどう答えて良いか分からず黙っていました。
「今だったら、人の死体なんて見るのも怖いのに、あの時は必死で分からなくなってた。
家も何にもなくなって、着の身着のままで、いつもお腹がすいていて……。今日、食べれても、明日のお米がないんだもんね。生きるだけで精一杯だった。映画やテレビでは国と国との戦いなんだけど、おばあちゃんの戦争は自分との戦いだったように思う」
「……」
「おばあちゃんね、山本美香さんのような真っ直ぐな心のジャーナリストの人があの頃いてくれたら、大阪大空襲はあんなに酷くなかったんやないかと思うの。アメリカの人も一生懸命生活している、おばあちゃんたちの姿を知っていたら、もっと、違っていたかもしれない。力のない者にあんなにたくさん爆弾を落として行かなかったかもしれない、そんな風に思うの…。山本美香さんに、もっと生きていて欲しかったわ。そして、戦争の中で生きていかなければならない、弱い立場の人のことを伝えてほしかったわ」
まあばあちゃんは、そう言って、山本美香さんの冥福を祈っていました。

―――美香さん。どうか安らかに眠ってくださいね。
   そして、戦場で苦しむ町の人たちや子供たちを
   天国から見守って下さいますように―――




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Author:堺の町のまあばあちゃん
堺の町に住む、ひとりのおばあちゃんのお話です。
住み慣れた町の人々との交流や孫のトモちゃんや犬のジロとの生活を通して力強く生きていく姿を物語に書きたいと思います。 
宜しくお願いします。
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